期限切れ食材の使用や素手での食材取り扱い、マニュアル通りに作業する店員へ店舗責任者が怒号を浴びせるなどの実態が元社員によって告発されていた飲食チェーン店「串カツ田中」。運営する串カツ田中ホールディングス(HD)は先月28日、事実を認めて謝罪コメントを発表したが、当初、元社員が社内チャットの全社員が利用できるグループにこれらの問題を報告する投稿を行ったところ、会社側はこの投稿をすぐ削除し、さらに全社員に向けて、このチャットについて「事実関係が不明確な情報配信をする場所ではありません」と通知していたという証言もネット上で広まっており、串カツ田中の対応を問題視する声が出ている。
騒動が起きたのは先月のことだった。串カツ田中の元社員が社内チャットに投稿した文面がネット上で拡散され、そこには元社員が働いていた店舗の実情として、
「物によっては手袋をつけなかったり、手洗いしようとすると嫌な顔をされたり」
「期限切れ食材を使用したり」
「まな板も種類別関係なく上からラップを引いて使用したり」
「私自身正しいマニュアルを基本とした動作で、日々怒号や指摘をされることに理解ができず」
などと記載。これを受け串カツ田中HDは
「食品衛生法の趣旨に即した提供はなされているものの、社内基準に即した食材管理および提供方法について一部徹底されていないことを確認しました」
「ハラスメントにあたる言動があった旨の主張についても、同様に調査をしたところ、コンプライアンスの観点から不適切な言動があったことが認められました」
とするコメントを発表した。
だが、事態は収まらない。元社員は串カツ田中を退職する直前、社内チャットの全社員が利用できるグループに、自身が現場で直接経験した一連の問題について投稿していたのだが、会社側はその投稿をすぐに削除したうえで、全社員に向けて、このチャットグループについて「事実関係が不明確な情報配信をする場所ではありません」と注意喚起をしていたという情報が広まっているのだ。さらに、一部の店舗では厨房の店員が調理用の手袋を使い捨てせずに使い回したり、店長が厨房で働いているアルバイト店員の髪の毛を触ったりしているという証言も見られる。
串カツ田中HD広報はこれらの情報について、
「本日時点でお伝え出来ますことは、HP上での内容のみとなります」
としている。
急成長の秘密
大阪名物として知られる「串カツ」だが、串カツ田中は2008年に東京・世田谷区の住宅街に一号店を出店。当時はまだ東京では串カツ専門店は珍しかったこともあり人気を博し、着実に店舗数と売上を伸ばし、16年9月に東証マザーズ市場(当時)に上場し、19年には東証一部市場(当時)に上場。現在は東証スタンダード市場に上場し、従業員数400名以上、店舗数約300を誇る大企業に成長した。
そんな串カツ田中の成長の原動力となっているのが、1品100円台の串揚げメニューに代表されるお手頃な価格に加え、居酒屋チェーンの常識を覆すさまざまな斬新な取り組みだ。過去には、客が店員にじゃんけんで勝ったらソフトドリンクが無料になる「じゃんけんドリンク」や、ソフトクリームを自作できる機械の設置、通常は6名以上でしか注文できない「たこ焼き」をつくれるメニューを子連れのファミリー客に無料で提供するという取り組みを展開。18年には居酒屋としては異例の、ほぼ全店を全席禁煙にするという施策を始め、現在では多くの店舗が土日は昼12時間から営業するなど、ファミリー客の取り組みに積極的な姿勢を見せている。このほか、「ローソン」や「まいばすけっと」でコラボ商品を販売したり、プレミアムフライデーには串カツほぼ全品を100円で提供したり、現在では平日18時までは一部のアルコール飲料を99円で提供したりと、打ち手を休めることなくチャレンジを続けている。
もっとも、他の飲食店と同様に新型コロナウイルス感染拡大の影響を大きく受け、足元の業績は苦しい。21年~22年11月期と2期連続で営業損益は赤字となっており、前期は黒字を確保した最終利益も、23年11月期は営業時間短縮の協力金や雇用調整助成金などがなくなる影響で減益予想となっている。
「18年に一部店舗が更衣室に無断でカメラを設置して撮影するという問題が起きた際も、本部は即座に当該のフランチャイズ加盟店との契約解除に動き、調査結果を公表したり、店舗の禁煙化では、それによる売上減少や路上喫煙の発生など負の情報も公表したりと、飲食業界のなかでは情報開示には積極的なほう。また、新人が運営する研修用の店舗を設けるなど社員の研修・教育にも熱心だという印象を持つだけに、今後もさらなる出店による規模拡大を続けていく予定ならば、今回の事件を対処療法的に処理するのではなく、しっかりと原因を調査して対策を打ったほうがよい。
また、もし本当に会社側が告発のチャットを削除して、社員に向けて投稿禁止を呼びかけていたのだとすれば、隠蔽という批判は免れず、どのようなプロセスを経てそのような対応がなされたのかを調査し、危機管理対応マニュアルを見直すべきではないか」(外食業界関係者)
(文=Business Journal編集部)