宮崎県の「杉本商店」が販売している高千穂郷産の「干し椎茸」が、アメリカを中心として海外で大人気になっている。SNS上では「世界が日本の椎茸の美味しさに気付いた」「ついに海外に椎茸の美味しさがバレてしまった」などと話題になっているが、人気となった理由に迫ってみたい。
ミシュランのシェフが関係?
杉本商店は1970年設立。干し椎茸や干したけのこ、干しぜんまいを取り扱っており、生産農家から乾燥椎茸などを仕入れて販売している。杉本商店によると、同社の干し椎茸は甘い樹液を出すクヌギ原木を使用(約95%)し無農薬で露地栽培しているという。
「気温が低く少雨で霧が多い厳しい気候によって美味しく育ち、甘みが増す(のが特徴)」(杉本商店の杉本和英代表取締役)
同社のホームページ上にある「しいたけブログ」の2021年4月付記事「NYのシェフから一番好きな九州の食品として当社の椎茸が選ばれました!」では、アメリカ・ニューヨークのシェフJehangir Mehta氏が杉本商店の干し椎茸を一番好きな食品に選んだと紹介されている。同氏は権威あるグルメガイドブック「ミシュランガイド」で最もサステナブルなシェフに選ばれており、アメリカ版『料理の鉄人』とも称される番組『Iron Chef America』にも出演。インフルエンサーである同氏に紹介されたことも人気増大の要因の一つかもしれない。
また、椎茸市場に詳しいアナリストは、最近の「とある需要」が関係していると分析する。
「欧米などを中心としてヴィーガン(完全な菜食主義者)が増加しており、椎茸の需要が増えている影響もあるのでは。加えて国内での椎茸の需要が減少し、なかなか需要回復の兆しが見えないとなれば、違う販路を見つけるのは当たり前。杉本商店は販路を日本国内から海外へと移そうと考えたのではないか」
世界的にSDGs(持続可能な開発目標)や脱炭素(カーボンニュートラル)などの動きが活発化するなか、アメリカではヴィーガンが増加している。 観光庁の資料によると、ヴィーガンを含めたアメリカのベジタリアン人口は、1998年の約2100万人に対し、2018年には約4500万人へと倍以上に増加。いかに増えているかが分かるはずだ。
また、林野庁が発表した「主要な特用林産物の令和3年の生産動向」によると、乾燥椎茸の需給・生産量推移は18年を境に減少へと転じ、20年には消費量が6623トンとなり、19年の7250トンから減少。21年も6750トンと7000トン台に回復しておらず、国内需要の回復は見込めないと考え海外への販路拡大を検討するのもうなずける。
独自性でリピーターを獲得、杉本商店が進める戦略とは
農林水産省が進める日本の農林水産物輸出プロジェクト「GFP(GlobalFarmers Fishermen Foresters FoodManufacturers Project)」のYouTubeチャンネルでは、杉本商店の杉本和英代表取締役がインタビューに答えている。そのなかで海外進出するにあたっての考えを明かしている。杉本氏によると当初、欧州やアメリカの問屋と相談しても、商品の良さは伝わるものの、それから先に進むことはなかったという。
「(アメリカなどの)スーパーを見ると、(干し椎茸が)並んでいない。かたやインターネット通販の検索画面を見るとすごい数の椎茸が出てくるが、そこには中国産しかなかった」(杉本代表)
杉本商店はこのような現状を踏まえ方針転換し、インターネットを活用して欧米や東南アジアなどに販売を拡大していった。さらに杉本商店では原木栽培を採用していることから、どのような環境・人が椎茸を育てているのかを最初に伝える必要があると気づいたという。そして商談の際にも動画を用意。動画であれば商品の細かい説明ができることから、動画を通して原木栽培等の様子を伝えている。
「他の椎茸との違いを伝え、それから椎茸を食べてもらい、本当に違うところを感じてもらいつつ購入をリピートしてもらう戦略を考えた」(同)
杉本商店のマーケティングが功を奏したことで、日本の椎茸人気に拍車がかかり、さらなる競争の激化も考えられる。低調ともいわれるきのこ市場はこれからどのように様変わりするのだろうか。「きのこファン」の一人として業界の活性化を期待したい。
(文=小林英介)