ある企業経営者が創業当時のエピソードとして、Twitter上に
<給料が払えなくて警備員のバイトをしながら無給で働いてくれた社員がいた。彼の支えでここまでこれた。彼は病死したけど、ずっとずっとこれからも僕の仲間>
と投稿。社員を無給で労働に従事させていたことを自ら明かし、SNS上で議論を呼んでいる。また、最低賃金法や労働基準法に抵触するのではないかとの指摘も出ているが、同社に見解を聞いた。
主に企業の社員研修など教育支援サービスを手掛け、「設立以来10年間で、延べ3000社以上、72,908名の支援実績」(同社HPより)を持つ株式会社PDCAの学校。企業ミッションとして「私たちは、仕事で働きがいを感じられる人を増やしたい。やがて働きがいは生きがいへのなることを確信して、私たちは存在しています」と謳う同社は、現代表取締役の浅井隆志氏が2011年に創業(当時の社名は「セールスの学校」)。現在は採用支援や人事評価制度サービス、グループ企業を通じて軽貨物運送事業や人材派遣業も手掛けるなど、事業を多角化させている。
そんな同社代表の浅井氏は立身出世の人物だ。同社のHPによれば、高校卒業後はアルバイトを転々としていたが、27歳の頃に不動産会社へ営業として就職し、転職先の注文住宅会社でトップセールスマンとなり、独立して創業した現在の会社を4法人1団体のグループ会社に成長させた。
「”あきらめない”それが私の信念です」「『どうせできないだろう』を『やれるまでやり続けよう』その想いを持ち、行動を変えることで様々なことを実現してきました」(同社HPより)と語る浅井氏。公式Twitterアカウントでも、
<顧問先の新卒とオンライン面談。課題は?と聞いたら「スクリプトが覚えられません」とのこと。で、君はまさか週二日休んでないよね?電車の移動中にスマホゲームしてないよね?って激詰めしておいた>
<残業なしってかわいそう。成功者はみな長時間労働です。制限されちゃったね>
<Twitter見てると、低賃金は政府のせいだっていう人多いんですけど、土日バイトすればいいと思う。平日も仕事終わったらバイトすればいいと思う>
<ONとOFFのメリハリが大事といいますが、ずっとONならメリハリいらないですよ>
<面接で履歴書を見たことがありません。能力じゃなくて人柄のほうが大事だから>
と綴るなど、情熱的に仕事に打ち込む姿勢がうかがえる。
自ら会社を起こし成功した企業経営者ほど、創業間もない頃や逆境に見舞われた頃のエピソードに事欠かないものだが、冒頭で紹介した浅井氏のツイートをめぐって今、以下のようにさまざまな声が寄せられる事態となっている。
<何、美談に持っていこうとしてるんですか?どう考えてもおかしいでしょ。>
<さすがにゾワッとした。いや、そっちがバイトしてでも給料払うべきだった>
PDCAの学校の回答
最低賃金制度では、「最低賃金法に基づき国が賃金の最低限度を定め、使用者は、その最低賃金額以上の賃金を支払わなければならない」(厚生労働省のHPより)と定められており、「仮に最低賃金額より低い賃金を労働者、使用者双方の合意の上で定めても、それは法律によって無効とされ、最低賃金額と同額の定めをしたものとされます。したがって、最低賃金未満の賃金しか支払わなかった場合には、最低賃金額との差額を支払わなくてはなりません」(同)となっている。
今回のTwitter投稿の真意についてPDCAの学校に問い合わせたところ、次の回答が寄せられた。
「当該元社員は、サラリーマンを辞め、個人事業主でした。自分の事業を営んでおり、その事業が思わしくないことから、警備員の仕事をしていました。個人事業主でバイト生活の中で、浅井と働きたいとの申し出がありました。社員にする余裕はなく、断りました。
本人からは業務委託の営業代行としてで良いと申し出がありました。営業代行の業務委託として働いておりました。その後に社員になったので、社員として無給でという表現になりましたが、当時は社員ではありません。
まとめますと、浅井も当該者もお互いに創業当時であり、お互いが個人事業主として活動していたということです。その後に当該者の事業を辞め、浅井の方にシフトした。その後、新会社を設立し社長に就任。オーナーは浅井。社長として活躍していましたが、がんのため3年前に病死。腹膜中皮腫というガンで、起因は20年前から30年前とのこと。営業代行として働いていたことと、病死は全くの無関係」
今回の件は実態としては、浅井氏が「働いてくれた仲間」と呼ぶ人物は社員ではなく、彼自身も個人事業主であったとのことだ。では、もし仮に企業が社員を無給で働かせた場合、法律的な問題は生じるのだろうか。山岸純法律事務所代表の山岸純弁護士はいう。
「労働基準法第24条は、当たり前ですが賃金全額を支払う義務を規定し、これに違反した場合、同法第120条により30万円以下の罰金が科せられます」
(文=Business Journal編集部/協力=山岸純弁護士/山岸純法律事務所代表)