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45歳定年?意外と知らない「会社を辞める条件・辞めさせられる条件」

文=山崎俊輔/フィナンシャル・ウィズダム代表
45歳定年
「Getty Images」より

45歳定年といわれてビビった人、怒った人

 ちょっと前に「45歳定年」というキーワードが炎上しました。もともとは大企業の経営者が45歳でのキャリア確立やチャレンジの重要性を講演したなかでのエピソードだったようですが、「会社は45歳で社員をクビにさせたいのか」というような流れで怒った人がたくさんいたようで、ずいぶんSNSでは荒れていました。

 このニュースを聞いて「会社は私たちを45歳で放り出すのだろうか」と怯えた人もいたと思います。65歳から年金をもらう時代に、20年を残して会社がクビにしてきたらこれは困ります。そもそも、いきなり辞めさせられたら収入がなくなり日常生活も成り立ちません。

 実はこの騒動、発言した経営者の会社は「65歳定年」であることはほとんど知られていません。リストラするどころか、世の中の標準より長く正社員で働ける会社なのです。もともと、若い人のチャレンジをサポートする社風があって、もっと冒険をしてほしいという趣旨でのコメントだったようです。

 さて、今回の炎上騒ぎをこれで終わらせず、今回は「会社を辞める(辞めさせられる)条件」について若いうちから理解しておきましょう。

辞表を出して辞めるのは簡単だが、会社がクビにするのはそんなに簡単ではない

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『日本版FIRE超入門』(山崎俊輔/ディスカヴァー・トゥエンティワン)

 会社にとっては「辞めさせる」、私たちにとっては「辞める」構図ですが、イメージとしては会社の力が強いという感じがします。しかし、実は私たちのほうが守られている要素のほうが強いのです。

 まず、私たちはいつでも辞表を出して辞めることができます。会社が「お前、勝手に辞められると思うなよ」と脅してきても、本人に辞める意思があって、就業規則に定められた退職届等の意思表示をしていれば、2週間で退職する権利があります(民法627条第1項)。

 会社が慰留をしてきても断る自由がありますし、引き継ぎもあるでしょうが、それを理由に退職の期限を引き延ばすことはできません(協力はしたいところですが)。

 これに対して、会社が社員をクビにするのはなかなか簡単ではありません。まず年齢を理由とした解雇は、定年退職以外は原則として禁止です。そして定年退職年齢を60歳より若く定めることは法律で禁止されています。つまり「わが社は45歳定年です」という会社は法律違反ということです。

 また、「解雇が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合は、労働者をやめさせることはできません(労働契約法第16条)」と厚生労働省HPにも記載がありますし、この条件は簡単には設定されていません。

「あいつは気に食わないから業務上のミス一回でクビにしよう」というようなケースはまず認められません。また、性別を理由とした解雇、労働組合に所属したからという理由での解雇、育児・介護休業を申し出たり、育児・介護休業したことを理由とする解雇などは法律が具体的に禁止しています。

 仮に合理的な理由があっても、解雇を行う際には少なくとも30日前に解雇の予告をする必要があり、また予告を行わない場合には、30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払う必要があります。予告日数が30日に足りない場合は差額を支払う必要もあります(労働基準法第20条)。

 ちょっと説明が難しくなりましたが、基本的には「社員の辞める自由のほうが強く」「会社の辞めさせる自由は制限」されているというわけです。

厚生労働省 労働契約の終了に関するルール

一方的にクビにされるなら、何らかの「割増し」はある

 会社の売上が減少しているなどの深刻な理由が生じている場合、強制的にたくさんの人数をクビにすることがあります。これは整理解雇といわれますが、いきなり会社が断行することは基本的にできません。

 人員削減の必要性(業績悪化など)があり、解雇を避ける努力を行い(配置転換や希望退職者の募集など)、客観的・合理的に人選を行い、また労働組合等に説明を尽くすなどの要件があるので、なかなか条件が揃いません。

 そこで希望退職を募るやり方が人員調整では主流となっています。強制ではなく、本人の希望で辞めてもらうわけです。退職の勧奨(辞めてくれないかと退職を勧めるやりかた)には強制力はありませんが、これに応じた場合は自己都合退職ではなく会社の都合による退職とみなされます。

 一般的には、募集期間や対象者を限定して行い、割増の退職金を設定します。最近ニュースになっている例だと、採用人数が多い世代を対象とし(例えばアラフィフ世代など)、年収の数年分にもおよぶ上乗せがされたようです。

 また上乗せの前提となる退職金計算についても満額が支払われます。一般に自己都合退職をすると数割減額されるルールがありますが、これは行わないわけです。

65歳までは働ける、70歳まで働けるという変化はもはや既定路線

 会社が「辞めさせる」というのはそう簡単ではないことがわかったと思います。45歳定年といって、それほど怯えることはないと思います。

 もちろんブラックな企業はありますが、こうした企業に辞めさせられた場合は、労働基準監督署に駆け込んでください。こういう会社は職場復帰する価値がありませんから、国に指導をしてもらったうえで和解金をもらい、ホワイト企業へ転職をすることをおすすめします。

 ところでこの逆、「長く働く条件」も知っておきましょう。定年退職年齢を60歳より若く設定できないことは先ほど説明しましたが、65歳までは希望者全員を会社は再雇用などで雇う義務があります。こちらも個人が働かないのは自由です。

 今年の4月からは70歳までの雇用確保措置を努力義務とする法律がスタートし、会社は70歳まで雇うように国は求め始めました。おそらく10年くらいかけて70歳までは働ける世の中になるでしょう。それでももちろん、いつ辞めるかは自由です。以前FIREの話をしましたが、お金があれば早期リタイアをすればいいわけです。

「辞めさせられる」ではない 自分の辞め時は自分で決める時代へ

 まとめですが、自分の「辞め時」は会社が決めるものではありません。これからは、自分が決める時代ということです。会社に許される「社員を辞めさせる方法」は、いい条件をちらつかせての早期退職を募集するか(強制はできない)、65歳という年齢でリタイアしてもらう方向しかありません。しかも70歳まではクビにできなくなりそうなのが社会の流れです。

 一方で、70歳雇用延長への政策や75歳現役時代への提言などに対し、「死ぬまで働けということか」と憤る若い人が多いのですが、私たちは辞めたければいつだって辞める自由があるのです。今のところ国の年金は65歳という受取開始年齢の標準を変える予定がないので(ただし遅くもらい始めれば年金はアップする)、年金はリタイア年齢に中立的です。

 そうなると、あなた自身の経済的余裕の有無が「早く辞めるか」「いつまでも働くか」の分岐点です。お金の余裕があればもっと早く辞めるのは勝手だからです(会社はおそらく引き留めないでしょう)。

 近年日本でもブームとなったFIREは、会社の定年年齢などは気にせず、自分が辞めたいときに辞められるだけの資産形成をしようというテーマです。「働かされる」という意識を早く捨てましょう。そして自分の経済的余裕をつくるための資産形成を一日でも早くスタートしてみてください。50歳代後半を過ぎたら、自分の辞め時を自分で決める自由を手にしておきたいものです。

 60歳になった以降もそうです。「仕事が楽しそうなら続けてもいいが、つまらない仕事に異動させられるならすぐ辞めればいい」と思える人は、「今辞めてもカネがないから仕方なく働くか……」というより気分良く65歳まで働けることでしょう。

 あなたは、「辞めさせられるまで働く」ことにしますか? 自分で辞め時を決めますか?

(文=山崎俊輔/フィナンシャル・ウィズダム代表)

山崎俊輔/フィナンシャル・ウィズダム代表

山崎俊輔/フィナンシャル・ウィズダム代表

1972年生まれ。中央大学法律学部法律学科卒業。企業年金研究所、FP総研を経て独立。個人の資産運用や老後資産形成のアドバイスが得意分野。日経新聞電子版やYahoo!ニュースなど多数連載を持つ。月間PVは200万以上。
フィナンシャル・ウィズダム代表 ファイナンシャルプランナー
financialwisdom

Twitter:@yam_syun

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