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田中圭太郎「現場からの視点」

月給約16万円…専任講師と大きな待遇格差 桜美林大学の非常勤講師が大学を集団提訴 

文=田中圭太郎/ジャーナリスト
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6月1日、厚生労働省会見室で開催された、桜美林大学ユニオンの記者会見

 桜美林大学非常勤講師18人が、講師給の実質切り下げの撤回と、専任講師との待遇格差の是正などを求めて、大学を集団提訴した。最初に提訴したのは20年9月。11人の講師が、授業時間が増えたことなどによって支払われていた「月額調整分」が、20年度から削減されたのは「講師給の実質切り下げだ」と主張。。また、「専任教員に支払われている期末手当、住宅手当、扶養手当が支払われていないことで、非常に大きな待遇の格差が生じている」として、20年度の月額調整分と支払われていない手当の損害賠償を求めている。さらに21年4月には、7人の講師が先に11人が訴えた内容に加えて、コロナ禍の影響で閉講した授業の給与の支払いも求めて提訴した。非常勤講師の待遇に焦点を当てた裁判の背景を取材した。

授業時間増加分の「月額調整分」の支払いがカットに

「この大学は教員に占める非常勤講師の割合が高く、日本語の授業では9割以上、英語の授業では8割以上を占めています。にもかかわらず、経営陣が雇用責任を軽視しているために、非常勤講師は蔑ろにされています。コロナ禍で差別的な待遇が明らかになったことをきっかけに、提訴に踏み切りました」

 こう話すのは、提訴で原告になった桜美林大学の非常勤講師。非常勤講師らは待遇の是正を求めて20年8月に「桜美林大学ユニオン」を結成。そのうちの11人が20年9月に、7人が21年4月に大学を相手取り提訴した。大学の非常勤講師合計18人が大学を集団訴訟するのは、異常事態と言っていいだろう。ユニオンの関係者と原告は6月1日、厚生労働省で会見し、2つの提訴について説明した。

 問題が起きたきっかけは、桜美林大学が非常勤講師に「月額調整分の支給は19年度だけ」と決めたことだった。月額調整分は、19年度から授業1コマの時間が90分から100分に増えたことに伴って、1コマあたりの基本給とは別に支払われたもの。1回の授業時間が10分増える一方、半期あたりの授業回数は15回から14回に変更され、総授業時間数は50分増えることになった。その差額分として19年度のみ月額調整分が支払われていた。

 非常勤講師の週1コマあたりの基本給は勤務年数によって異なり、原告らは月額で約3万2000円から3万5000円。月額調整分も講師によって約1100円から1300円が毎月支払われていた。

 100分の授業時間と半期で14回の授業回数は、20年度も継続されることになった。ところが大学は、20年度以降は月額調整分を支給しないことを20年1月に明らかにした。

調整分の支払いと待遇格差の是正を求めて提訴

 月額調整分をめぐっては、桜美林大学ユニオンと首都圏大学非常勤講師組合が、月額調整分を基本給に組み入れることを団体交渉の場で大学に要求していた。これに対して大学は、基本給に組み入れることを拒否。それだけでなく、20年度からは月額調整分を支給しないことを通告してきたのだ。「これは不利益変更だ」というのが非常勤講師らの主張だ。

 また講師らはこの通告をきっかけに、専任教員との待遇の大きな差について改めて問題提起する必要があると感じた。専任教員には月額で給与が支給されるのに対し、非常勤講師はコマあたりの基本給が支払われるだけ。専任教員の責任担当コマ数に匹敵する5コマを担当しても、月額は約16万円にしかならない。さらに、期末手当は専任教職員に30万円の6カ月分、年間で180万円が支払われるが、非常勤講師には全く支払われない。確かに待遇差は大きい。

 非常勤講師の待遇は、どこの大学でも同じような状況だと考えられる。確かに専任教員には授業の担当以外に、研究や学内の業務もある。しかし、授業を担当し、教育を担うことについては、専任教員も非常勤講師も変わらない。

「これだけ大きな待遇差は不合理ではないか」と考えた非常勤講師は、2つのグループに分かれて桜美林大学を運営する学校法人桜美林学園を提訴した。最初の提訴は20年9月。日本人3人と外国人8人の非常勤講師が、4月以降の月額調整分と、2017年以降の期末手当、住宅手当、扶養手当のあわせて約1億1000万円の損害賠償を求める訴訟を東京地方裁判所に起こした。

 当時、提訴されたことについて桜美林大学に聞くと、「コメントはない」と回答している。

 続いて、21年4月には、日本語の科目を担当する日本人講師7人が、約6700万円の損害賠償を求める訴訟を起こした。11人が起こした訴えの内容に加えて、コロナ禍の影響で閉講した日本語授業の講師給の支払いなどを求めている。

大学のカリキュラムの多くを非常勤講師が担う

 21年4月に提訴した日本人講師のケースでは、専任講師との待遇差がより明確になった。大学は、交換留学生が来日できないために閉講になった科目については、講師給の補償はしていない。さらに、履修者が5人未満でも閉講するルールを独自に作っていて、その場合は1か月分の講師給だけを支払っている。

 しかし、履修者が5人未満だったことで閉講しても、学費収入が減少するわけではない。コロナ禍であっても、専任教員には期末手当も支払われている。しかも、労働基準法第26条は、使用者の責任で発生した休業に対して、6割以上の手当の支払いを義務付けている。大学が1か月分だけ給与を支給するのは「非常勤教員規程」に基づくものだが、この規定自体が違法の可能性もあるのだ。実際に講師が労働基準監督署に相談したところ、違法性を示唆されたという。

「相談した労基署からは、コロナを理由にしても閉講を判断したのは使用者なので、『使用者の責によらないとはならない』と言われ、民法の契約不履行に該当することを示唆されました。しかし、是正させるには裁判に踏み切るしかないようでした。専任教員は授業がなくても給与が支払われるのに、なぜ私たちだけが、ただでさえ少ない給与を減らされるのでしょうか。それに、日本語講師の多くは女性です。女性に対する差別も根底にあると感じています」(原告の1人)

 原告代理人の田渕大輔弁護士は、今回の訴訟の目的と意義について、次のように説明する。

「非常勤講師の方々は、大学にとっては都合がよく、扱い勝手のいい存在です。有期契約なので契約しないことで雇い止めをすることも可能で、雇用の調整弁という言葉が当てはまる状況に置かれています。

 しかし、大学教育の場面では、専任教員と同じ役割を担っていますし、実際にカリキュラムを見ても、かなりの部分を非常勤講師が占めています。大きな格差をこれ以上温存するのではなく、是正されなければいけないと考えています」

 田渕弁護士が指摘するように、大学では教員全体に占める非常勤講師の割合は高まっている。桜美林大学のホームページによると、21年5月1日現在で専任教員が273人、「非常勤等」が723人。桜美林大学ユニオンによると、授業を担当している非常勤講師は600人弱で、設置科目全体の54%を非常勤講師が担当しているという。

国は非正規労働者の待遇改善を図っている

 訴訟の背景には、国が進める働き方改革で、非正規労働者の待遇改善を目的とした法律が複数成立している点もある。

 働き方改革関連法の一つとして20年4月に大企業を対象に施行されたのが、パートタイム・有期雇用労働法。「事業主は、短時間雇用であることや有期雇用であることを理由として、短時間・有期雇用労働者と通常の労働者との間において、不合理と認められる待遇の相違を設けてはならない」と定められた。21年4月からは中小企業も対象になる。今回の訴訟の争点となる法律の一つだ。

 また、非正規労働者と正社員の待遇格差については、2020年10月に最高裁で5件の裁判について判決が言い渡された。これらの裁判は正社員と非正規労働者の不合理な待遇格差を禁じた旧・労働契約法20条をめぐって、正社員と有期雇用労働者の手当や休暇、賞与、退職金の格差が不合理かどうかが争われた。

 このうち、日本郵便が訴えられた3件の裁判では、最高裁は手当や休暇の待遇格差を不合理と結論づけた。一方、桜美林大学の期末手当にあたる賞与の有無や、欠勤中の賃金の扱いを争った大阪医科大学(現・大阪医科薬科大学)の訴訟と、退職金が争点になったメトロコマースの訴訟では、待遇格差を不合理とは認めていない。

 桜美林大学の非常勤講師が起こした訴訟は、上記の訴訟の最高裁判決も踏まえたうえで内容が検討されると考えられるが、非常勤講師と専任教員の待遇格差が争点になっている点では、全国でも珍しいケースだ。

 20年9月に提訴された裁判では、20年12月以降、弁論準備手続きが進められている。大学側は訴えの棄却を求める答弁書を提出した。月額調整分については「1コマあたりの基本給は授業が2時間であることを前提に算定されている」として、「90分であっても100分であっても2時間に満たないことに変わらないため、労働条件の不利益変更ではない」などと反論している。

 また、待遇の格差については、専任教員は「一定の授業を担当するだけの非常勤教員とは職責の重さが随分異なる」とし、手当については「それぞれの手当が支給されている趣旨から支給しないことを決定した」と主張した。

 今回の集団訴訟は、パートタイム・有期雇用労働法が施行されたことを受けて、非正規労働者と正社員の待遇格差が争われる場となっている。加えて、コロナを理由にしてキャンセルした仕事に対して賃金を支払わないことについても、違法性が問われている。裁判の結論は、非常勤講師のみならず、非正規労働者の今後の労働環境に大きな影響を与える可能性がある。

(文=田中圭太郎/ジャーナリスト)

田中圭太郎/ジャーナリスト

田中圭太郎/ジャーナリスト

ジャーナリスト、ライター。1973年生まれ。大分県出身、東京都在住。97年、早稲田大学第一文学部東洋哲学専修卒。大分放送を経て2016年からフリーランスとして独立。警察不祥事、労働問題、教育、政治、経済、パラリンピック、大相撲など幅広いテーマで執筆。著書に『ルポ 大学崩壊』(ちくま新書・2023年2月9日発売)、『パラリンピックと日本 知られざる60年史』(集英社)。メールアドレスは keitarotanaka3000-news@yahoo co.jp、 HPはジャーナリスト 田中圭太郎のWEBサイト

Twitter:@k_taro_tanaka

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