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疑惑・悪評噴出のビッグモーター、“沈黙”は最適解か…中古車市場全体が抱える闇

取材・文=A4studio
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疑惑・悪評噴出のビッグモーター
ビッグモーターの店舗(「Wikipedia」より)

 中古車業界に激震が走っている。中古車販売の大手ビッグモーターの不正が大々的に報道されたのだ。

 話題となった週刊誌「FRIDAY」(講談社)の報道によれば、意図的に客のタイヤをネジで突き刺してパンクさせ工賃を要求、格安タイヤであるにもかかわらず高級タイヤと偽って搭載する、車検を無資格のスタッフが行う……など、にわかに信じがたい行為が並べられていた。

 ネット上でもこの報道は広がり、瞬く間にビッグモーターに対する批判で埋め尽くされた。しかし当のビッグモーター側は、これを黙殺。否定コメントや謝罪文などを出すことなく無視を決め込んでいるのである。

 ビッグモーターの不祥事は、実は今に始まったことではなく、昨年には自動車保険金の水増し請求が見つかり、同社の組織的な不正が疑われたが、いまだ全容解明には至っていない。また常習的なパワハラも噂されているが、その実態はブラックボックスのままだ。

 今回は、そんなビッグモーターの不祥事史を振り返りつつ、自動車業界に詳しいモータージャーナリストの萩原文博氏に、同社の企業体質について話を聞いた。

保険金水増し、実質的な罰金制度…ビッグモーターの闇

 ビッグモーターは東京都港区に本社を置き、従業員数6000名、全国300店舗以上を抱える業界最大規模の中古車販売企業。

 公式サイトには「買取台数は6年連続日本一」「中古車販売顧客満足度NO.1」「中古車買取価格NO.1」とセールス文句が掲げられている。自社在庫約5万台を抱える圧倒的なラインナップなど、端から見れば安心してクルマの売買ができそうに感じるものの、同社には以前から黒い噂が絶えない。

 2021年には、同社のセールポイントであった「オイル交換永年無料」を急遽有料化し、ネット上ではユーザーから苦情が寄せられるなど炎上に近い騒動となった。公式サイトなどでオイル有料化の事前告知はなく、来店した客に対して説明するだけだったという。

 2022年には、事故で入庫した客の車両修理費を損害保険会社に虚偽報告し、水増しして請求していたことが各メディアに暴露された。ビッグモーターと関係の深い「損害保険ジャパン」「三井住友海上火災保険」「東京海上日動火災保険」の3社が調査したところ、全国33の整備工場のうち、25の工場で水増し請求と疑わしき案件が80件以上も見つかったという。そして、そのうち関東地域にある4つの工場では、すべてで水増し請求が確認されたそうだ。

 ビッグモーター側は、はじめこそ組織的関与はないと表明し過失を訴えたが、2022年12月には弁護士を入れた第三者調査チームの設置を進めるなど、一転して当初の調査がずさんだったことをうかがわせる対応を取った。

 今年3月24日には、ビッグモーター熊本浜線店へ指定自動車整備事業者の取消処分が下されている。車検の一部違反が確認されたことによる処分とのことである。

 これらの一連の報道から続く形で、今回の「FRIDAY」のスクープを受けたのだ。また、たび重なる不正報道の一方で、ビッグモーターの内部事情も惨憺たるものといわれている。

 代表的なのは、2016年の産経新聞による報道だ。同紙の取材では、自動車保険契約のノルマ金額が下回った店舗の店長が、上回った店長に対し、現金を支払う慣行があると判明。会社側は一切強制していないとしつつも、これを黙認していたという。

 こうした社内外の問題や疑惑が噴出するビッグモーターの実態とは、どのようなものなのか。

確定的な証拠はないものの…業界が抱える構造的な問題

 いまだ全容が見えてこないビッグモーターの体質。同社の問題や疑惑に対して、萩原氏は次のように語る。

「擁護する気はありませんが、タイヤに穴をあける映像に関しては確実な証拠が集まっているワケではありませんから、現時点の情報だけでの批判は控えたいと思います。

 ビッグモーター側としても、黙殺を貫いているというのは最善とはいえませんが、マシな選択ではあるでしょう。仮に謝罪文を公表すれば揚げ足取りする声が届くでしょうし、否定するコメントを公表すれば、さらに炎上騒ぎになる可能性があります。とにかく証拠が出そろっていない以上、“沈黙”が最適な行動と判断し、今に至っているのだと考えられます。また上場企業ではないので、株主から強く追及される心配がないことも主な理由でしょう」(萩原氏)

 ビッグモーターに限った話ではなく、中古車業界そのものがかなりグレーであることを無視してはいけないと萩原氏は指摘する。

 中古車メディア「カーセンサー」の調査では、2021年の中古車業界の市場規模は4兆1699億円にも上り、2015年と比べ約1.5倍もアップしているが、こうした順調な成長には裏があるのだという。

「中古車販売業は、基本的に手数料ビジネスとなります。いくら車両本体価格が低くても、税金以外の『名義人変更料』『納車手数料』『車庫証明代行料』といった諸費用が追加で発生したり、ローン支払い時の金利が高く設定されたりと、結局費用がかさばるケースはあり得ます。そういった手数料などの価格に相場はあるものの、その企業ごとに自由に設定しても問題はありませんので、金額を高めにして利益にすることもできてしまうのです。

 昔から中古車業界は、実は買取・販売したクルマの差額で売り上げるビジネスモデルではなく、こうした手数料で儲けを出して成長し続けてきたという経緯がありました。裏を返せば、手数料ビジネスだけでここまでの市場規模に成長したとなると、大っぴらにはできない強引な営業が横行している企業があることも考えられます。クルマに詳しくないお客でしたら、本来であればそこまで金額をかけなくてよいサービスにお金を支払ってしまう、ということも可能性としてありうるわけです。

 また、市場拡大を背景に事業規模もどんどん大きくしていくとなると、人材不足で苦しむ店舗も出てくるはず。特に車検ができるスタッフがいない、というのは業界内でよくある話でして、今回のFRIDAYで報じられた無資格のスタッフが車検をやっていたという問題に関しても、決して許されるべきことではないですが、背景は想像できるので驚くことはありませんでした」(同)

疑惑の目が向けられても納得してしまう中古車業界の構造

 中古車販売業は、中古車を安定して確保することがビジネスの要だ。そして当然、安く買い取れるに越したことはない。そのための工夫も、意外なところで施されているという。

「中古車業界は、海外販売にも力を入れており、企業によっては国内よりも利益が大きいところもあるでしょう。しかし、そうなると中古車が国内市場に出回らなくなり枯渇化するので、なるべく多く中古車を仕入れなくてはいけません。

 そこで各社はサイト上で一括査定ができるようにしており、所有しているクルマがどのくらいの価格で売れるのか、サイト上で簡単に割り出せるようにしています。大手ほど、そのときの査定は相場より高額になりやすいのですが、いざ店舗で査定すると、減点方式でさらに細かく調査され、結果的に実際の買取価格はサイト上の一括査定よりだいぶ低くなってしまう、というケースも珍しくはありません」(同)

 倫理的にギリギリの線を攻めて中古車の売買を進め、業績を伸ばしてきた中古車業界。したがって業績拡大に躍起になった結果、問題が発生し、疑惑の目を向けられてしまうことも否めないという。

「ビッグモーターに関しては、グループ内の店舗同士の競争も苛烈でしょうし、客観的に見れば企業としての風通しも悪いと感じます。確定的な証拠が出ていないため、何も断定できませんが、中古車市場の構造的に“ビッグモーターなら報道にあったようなことが行われていてもおかしくない”という見方が、残念ながらできてしまうのです」(同)

 全容が明かされるためにも、さらなる詳報を待つばかりだ。

(取材・文=A4studio)

萩原文博/モータージャーナリスト

萩原文博/モータージャーナリスト

モータージャーナリスト。1970年生まれ。10代後半で走り屋デビューを果たし、大学在学中に中古車雑誌編集部のアルバイトに加入し、中古車業界デビュー。1995年より編集部員として本格的に携わり、2006年からフリーで活動。中古車の流通、販売の造詣が深く、新車でも多くの広報車両に乗車するなど精力的に取材を行っている。

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