初の外国人社長起用を発表した武田薬品の株価は、12月2日、7カ月ぶりに5000円台に回復(終値は5030円の55円高)し、翌3日は70円高の5100円をつけた。外国人の社長起用で失敗した日本企業は数多くあるだけに、今回のトップ人事には市場の関心も集まっている。
長谷川氏は11月26日、大阪で「次期社長は、これまで日本人が望ましいと発言してきたが、(グローバルな展開が進む)今の状況からすると、あらゆる選択肢を除外できない」と語り、外国人を含めて後任社長の人選を進める考えを示した。そして、「今後、中国やロシアなどの新興国で売り上げの2ケタ増を目指す」とした上で、「幹部にグローバルな人材を活用する。日本人社員はそういう上司の仕事ぶりを参考にして、成長してほしい」と続けた。
武田薬品は9月に最高財務責任者にフランス人のフランソワ・ロジェ氏を迎えており、執行役員に当たるコーポレート・オフィサーの11人中、ロジェ氏を含む7人が外国人で、6人の取締役のうち2人が外国人だ。同社の外国人幹部の登用は、いわば窮余の一策である。11年に招聘した山田忠孝取締役(68)は米国籍で、R&D(研究開発)部門のテコ入れのために入社した。この山田取締役はCSKにいた時に、新社長になるウェバー氏と一緒に仕事をした経験がある。ウェバー氏が(社長の)最終候補2人のうちの1人に残った段階で、長谷川氏は山田氏から意見を聞いたという。
11月30日、長谷川氏はウェバー氏社長就任を発表した記者会見で、「順調にいけば15年6月に(ウェバー氏に)CEO職を譲る」「(同氏は)GSKでアジア地域を担当した経験があり、先進国と新興国の状況を両方見られる」と語った。しかし、日本企業において外国人社長が成功した事例は、カルロス・ゴーン社長兼CEOの日産自動車を除いてほとんどない。また、長谷川氏はウェバー氏との役割分担について、「私は長期戦略や一部の機能の強化と対外的な担当に専念し、実務は完全にウェバー氏がやる。最も得意な部分で力を発揮してもらう」と期待を寄せるが、オリンパスの例のように、外国人社長はそのポストに就いた途端に全権の委譲を要求するケースが多い。こうしたことから、長谷川氏の言葉を信じる市場関係者は少ない。
海外販売部門の総括責任者は取締役のフランク・モリッヒ氏(11年就任)、研究開発担当は前出の山田取締役、医薬開発本部長はナンシー・ジョセフ=リッジ氏(09年就任)、人事開発部門の総括責任者はデイビッド・オズボーン氏(13年就任)、最高財務責任者はフランソワ・ロジェ氏(13年就任)。
●経営中枢担う外国人幹部陣
そして12月には、1日付でグローバルな資材調達を統括する最高調達責任者(CPO)職を新たに設置し、スイスの製薬最大手・ノバルティスからフィリップ・ダンカン氏(52)を迎えた。全社的に包装や原材料の集中購買を進め、コスト削減を徹底する。ダンカン氏はノバルティスのほか、海外の食品メーカーなどで30年以上にわたり調達を担当してきた実績を持つ。武田薬品は08年、11年に買収した米ミレニアム・ファーマシューティカルズとナイコメットを一体的に運営、効率化を追求する「プロジェクト・サミット」を今期から始め、ダンカン氏の指揮の下で、16年3月期に累計800億円、18年同期には累計1000億円のコスト削減を目指すことになる。
つまり、武田薬品という社名だが、会社の中枢部門はすでに外国人の手に委ねられている。つまり今回ウェバー氏が社長に就任したとしても、実態はまったく変わらないということだ。