ユニークなCMで話題の大手格安住宅メーカー、オープンハウス。同社の新築戸建てに対し、施工不良を指摘する声が上がり、トラブルになっていると「文春オンライン」に報じられた。報道によると、その内容は「壁や床の傷」「壁やクロスの剥がれ」「ドアのネジが締まっていない」「基礎が傾いている」「玄関にシロアリが発生」といったものだ。建物の構造に関わる部分は深刻で、「キッチンの床が傾いているせいで冷蔵庫の冷凍室がうまく閉まらない」という証言も紹介されている。4棟並んだ同社の新築戸建てのうち、他2棟でも同様の施工不良が見つかったという。姫屋不動産コンサルティング代表の姫野秀喜氏は、報道を見て「ちょっと意外」という印象だと話す。
「オープンハウスに関してそうした施工不良の話を聞いたことはなかった。同社の戸建て建築現場を何回も見たことあるが、ローコストでも意外なほどしっかり作っていた。ただ、成長企業で年間かなりの数の住宅を建てているので、一定割合で不良物件が発生しても不思議ではない」
とはいえ、4棟並んだ新築戸建てのうち3棟で施工不良が指摘されており、場所が集中しているのもおかしな話だ。施工を担当しているのが同じ下請け業者である可能性が高く、「下請けや提携業者の技術レベルが低かったのではないか」というのが姫野氏の見立てだ。
「木造2階建て・3階建て程度の軽い建物は、基本的に木の骨組みを作ってパネルを貼っていくという、すでに確立された技術なので、ミスは起きにくい。とくにオープンハウスは既製服と同じで、1つの型を作ったら似たような家をバンバン作っていく。設計は類似しており、コスト下げるために見栄えはそこそこという量産型だ。だから、床が傾くというのは、地盤がもともと緩かったのに気づかなかったという可能性もある」(同)
姫野氏は「重要なのは、施工不良が指摘されたときに、自動車メーカーでいうところのリコール対応をすること」だと強調する。リコールとは、メーカー・販売者の判断で、無償修理・交換・返金・回収などの措置を行うことだ。しかしながら、報道によれば、オープンハウスはいろいろな理由をつけて根本的な修繕をしようとはせず、瑣末な部分しか直そうとしないという。施工不良は重大な問題だが、メーカーとしての姿勢もまた問われている。
住宅ローンの不正利用
「文春オンライン」では、施工不良以外にもオープンハウスによる住宅ローンの不正利用疑惑が報じられている。営業担当者が顧客に対して、住宅ローンで購入した家を賃貸に出して別の物件を購入するよう提案していたというのだ。住宅ローンで購入した家は、ローンの借主自身が住むという契約になっている。物件を賃貸に出すには金利の高い投資用ローンで購入しなければならない。住宅販売の現場で今回指摘されたような営業トークは日常的に行われているものなのだろうか。
「個人的にそんな話は聞いたことがない。オープンハウスに聞けば、会社ぐるみだとは絶対に認めないだろうし、そんな指導はしていないと答えるだろう。営業担当者個人の問題ではないか」(同)
しかしながら、姫野氏は、投資用マンションの営業では住宅ローンの利用をすすめる不正が行われているという話をよく聞くという。もちろん、本人が住まないのであれば、不正利用だ。
「個人的にヒアリングした話だが、投資用マンションを住宅ローンで買った人が業者からもう1軒買いましょうと言われ、もう1軒のほうも住宅ローンの申請をしたらしい。すると、片方の物件について賃貸用の物件であることがバレてしまった。金融機関は他の金融機関の借り入れについてすぐにわかる。で、両方の金融機関から一括返済を求められたということだ。悪いことはできない」(同)
そういうケースでは自己破産しなければ返済できないのかといえば、そうでもないらしい。
「そもそも投資用マンションに住宅ローンを使うことが問題なので、金利の高い投資用ローンに借り替えすることはできる。ただ、住宅ローンだと金利が例えば0.5%だったものが、投資用ローンだと4~5%とかになるので、月々の賃貸収入がマイナスになってしまうという話だ。住宅ローンを投資に転用するのは、本当に危険なので絶対にやめたほうがいい」
戸建ては格安住宅メーカーでも問題なし
オープンハウスは格安住宅メーカーとして急成長してきた会社だが、今回のトラブル記事を読んで「格安住宅メーカーは危険」と考える人がいたら間違いだ。姫野氏が前述したように、2~3階建ての木造住宅は建築工法として確立しており、一定基準の耐震性や断熱性などをクリアしていれば、格安メーカーでも問題ないといえる。
「使っている部材が安いものだったりするのは仕方がない。それから、格安メーカーはデザインも限界がある。レクサスと軽自動車を比べてはいけないのと理屈は同じ。軽自動車だって移動手段としては問題なく走れるし、エンジンが爆発するようなことはない。それに、住宅は大手のほうが高価格になりがちなのは、下請けや孫請けをたくさん使っているので、その分マージンが多く乗っているという事情もある」(同)
大手・格安を問わず、施工不良を避けるにはどうしたらいいのか。通常、新築戸建てやマンションの契約者には引き渡し前に、物件の状態確認をするための内覧会が行われる。内覧会では建物が契約書通りにきちんとでき上がっているかを確認する。汚れや傷、仕上げなどが不十分な箇所、設備機器の不具合等を発見したら、購入者と不動産会社の双方が確認のもと、手直し工事や交換の要求をすることができる。要するに、物件の引き渡し前に発見できればよい。
しかし、建築の素人には、内覧会で手抜き工事や施工不良を見つけることも指摘することもむずかしい。よって、建物に精通したホームインスペクター(住宅診断士)に内覧会に同行してもらうのが一番良い。建物の傾きや水漏れ、基礎の状態、見にくい床下や屋根裏の構造など、新築時の施工不良について調査・診断してくれる。ホームインスペクション(住宅診断)は、もともと中古住宅の流通を目的に普及が進められたもので、新築で適用する人はまだまだ少ない。しかし、一般の人にとって住宅は『一生で一番高い買い物』と言われるものであり、目先のインスペクション費用を惜しむのは不合理だ。
「そもそも、床の傾きとか白アリなどは契約不適合責任(かつての瑕疵担保責任)に当たるので、新築で建てた場合は業者には修繕する義務が発生する。インスペクションはあまり安いプランだと目視確認だけとかになるので注意が必要だ」(同)
2年目の新人に戸建てを買わせる社風
オープンハウスグループは1997年に創業以来、急成長を遂げ、2013年には東証一部(現:東証プライム)に上場した。その急成長の陰の実態について、姫野氏は次のように話す。
「たくさんの若手社員が、まちの不動産業者に対して『当社に売ってください、買ってください』と猛烈な営業をかけている。地主にはあまり行かない。投資物件を中心に扱っている当社にもこれまで数十人が来た。『一棟マンションとかが出たらオープンハウスに買わせてください』と。首都圏で買い取ったものに、だいたい3000万円乗せて売ると言っていた。2~3億円以上の物件を現金で買い取っている」
たくさんの営業社員と話してみてわかるのは、同社の社風がいわゆる体育会系で、気合いと根性の昔ながらの不動産会社だということ。
「合宿3日間の新人研修のときは睡眠時間が3~4時間でプレゼンさせられるそうだ。内定者には運動会があって、大縄跳びをしたとか。営業は1日に30~40社の不動産業者を訪問するそうで、7~8社には話を聞いてもらえると言っていた。当社の郵便受けに、オープンハウス社員の名刺が入っていたことがあり、裏書きを見たら、前日の23時30分と書いてあった。常識的にそんな時間にオフィスにいるはずないのに」(同)
一口に営業社員と言っても、戸建て販売、マンション販売、投資物件販売、土地仕入れなど、担当部署が分かれている。配属先によっては大変なことに。
「戸建ての販売部門に配属されると、だいたい2年目で戸建てを買わされるという。私がこの話を聞いた人は入社3年目だけど、投資物件の担当部署なので買わずに済んだと言っていた。ただ、新人2年目の年収って、たかが知れているので、高額なローンが組めない。そこで、安い物件が多い千葉とか埼玉など都心から離れたところで買わされるらしい」(同)
こうなると、もはや体育会系などという生やさしいものではないだろう。
(文=横山渉/ジャーナリスト、協力=姫野秀喜/姫屋不動産コンサルティング代表)