東京・新宿駅の構内に「ラウンドアバウト(環状交差点)」が設置されたことが一部で話題を呼んでいる。混雑リスクを低減して利用客の安全かつスムーズな通行を促進するのが目的だが、なぜ駅構内に交差点を設置することが安全な通行につながるのか――。専門家に聞いた。
新宿駅の一日あたりの平均乗車人数は60万2558人(2022年度/JR東日本のHPより)であり、これはJR東日本エリア内で1位。利用者数ベースでも国内1位といわれているターミナル駅であり、昼夜問わず大勢の人が行き交うことから、接触事故や転倒事故なども少なくない。そうしたトラブルの発生抑制とスムーズな通行を目的にJR東日本は7月10~12日、新宿駅南口13・14番線階段付近のコンコースにラウンドアバウトを設置して実証実験を行った。この場所は13・14番線から各方面へ行く人と小田急線乗換口からJR各線に向かう人が交差するが、エレベーターを中心に反時計回りに一方通行となるようにした。
ラウンドアバウトとは信号がない交差点のことで、中心場所の周囲を時計回りに周回し、たとえば右折する場合は交差点進入後にぐるっと4分の3周して抜けることになる。似たような交差点として日本ではロータリーが普及しているが、ラウンドアバウトは日本で本格的に運用が始まってから10年ほどしかたっておらず、世間的な認知度は低い。ちなみにロータリーは交差点に進入する車両の通行が優先され、逆にラウンドアバウトでは周回する車両の通行が優先される点が主な違いだ。
今回、JR東日本は東京大学大学院工学系研究科教授の西成活裕氏と連携し実証実験を実施。具体的には次のような要領となっている。
<(1)実証実験中は、係員を配置し誘導を行います。
(2)エレベーター周囲にパーテーションを設置し、通行方向について表示します。
(3)効果検証のため、近傍にLiDARセンサー※を設置し、記録を行います。
※設置するLiDARセンサーは、カメラ画像を用いず広範囲の人流を計測できることが特徴で、公共性の高い場所でもプライバシーを侵害することなく、データ収集を行うことができます。
(4)実施箇所周辺にポスター掲示およびサイネージへの動画配信を行い、ラウンドアバウトの誘導を行います>(JR東日本のHPより)
この施策の目的や効果などについて、鉄道ジャーナリストの梅原淳氏に解説してもらう。
環状交差点は定着するのか
JR東日本は2023(令和5)年7月10日(月)から12日(水)までの3日間、毎日朝7時10分から午前10時10分まで環状交差点の実証実験を行いました。具体的な場所は南口13・14番乗り場に向かう階段付近のコンコースです。13番乗り場には中央・総武線各駅停車の御茶ノ水・千葉方面の列車、14番乗り場には山手線内回りの渋谷・品川方面の列車がそれぞれ発着し、これらの列車の利用者がコンコースに集まります。一方でこのコンコースは小田急電鉄小田原線新宿駅南口JR線連絡口と結ばれていて、13・14番乗り場に向かうエレベーターを中心としたコンコースはこれら各線を利用する人たちでごった返していました。
参考までにこの場所を通ると考えられる人たちが1日に何人いるか、2015(平成27)年度の「都市・地域交通年報」(運輸総合研究所)のデータをもとに求めてみましょう。JR東日本の新宿駅にはほかに中央通路があり、ここを通る人たちの数、そして中央線の数値は快速を含んでいるので参考値となりますが、1日平均64万1055人となります。うち半数は中央通路を通る人たち、そして中央線に関する数値の半数は快速とすると、1日平均25万5521人です。
新宿駅を利用可能な時間を朝5時から深夜1時までの20時間と考えますと、この場所を1時間平均で1万2736人、1分平均で213人が通ることとなります。もちろん朝夕のラッシュ時はさらに多くなり、朝ですとこの数値の2倍以上となるでしょう。これだけの人の数ですと、どの利用者もエレベーターを中心に反時計回りに回遊させて、交差する人の流れをなくした環状交差点は意味があるといえます。
とはいえ、環状交差点が定着するかは、駅員や係員の誘導が常時必要な点もあることから難しいかもしれません。そもそもの話として新宿駅南口のコンコースは狭く、しかも今回の環状交差点付近には自動販売機や売店などもあって、通路にすべてのスペースを割いていないとの難点も見られます。コンコースのレイアウトの変更や拡張も行ったうえで環状交差点を設置することが望ましいでしょう。
(文=Business Journal編集部、協力=梅原淳/鉄道ジャーナリスト)