11月24日、日経リサーチは約5万人の生活者を対象として、首都圏の鉄道駅の利用実態を調査した「施設と駅のセンサス」を発表。「2022年 JR山手線 利用目的別ランキングTOP10」の「レジャーやショッピング目的が多い駅」部門で1位に選ばれたのが有楽町駅だった。
有楽町駅といえばデパートやブランド店が軒を連ねる銀座、有名企業の本社機能が集中する丸の内、劇場などが強く文化色が強い日比谷が接する駅なので、レジャーやショッピング目的の利用者も多いと予想できる。しかし、新宿駅、原宿駅、渋谷駅、池袋駅などを抑えて有楽町駅が1位だったという結果を意外に思う人も少なくないだろう。
駅周辺の要素を大枠でとらえると、有楽町駅に似た特徴を持つ駅として新宿駅が挙げられる。実際、同調査の「22年秋 首都圏利用商業施設集客力ランキングTOP10」では1位が「ルミネ新宿」、2位が「伊勢丹 新宿店」と新宿駅界隈のショッピング施設がワンツーフィニッシュを達成しており、強さを見せつけていた。
そこで今回は「レジャーやショッピング目的が多い駅」として有楽町駅が1位になった理由を探るべく、実際に平日の12月某日に有楽町駅周辺と新宿駅周辺を散策し、気づいたことをレポートしていきたい。
有楽町は複数客、新宿は1人客が多かった
最も顕著な違いは複数人で訪れているか、1人で訪れているかという点。有楽町駅は数人でいる人が多く、特に女性同士でショッピングを楽しむ姿が見られた。仕事の合間などの「ついで」来訪ではなく、最初から買い物などを目的として訪れている人々がメインという印象だ。
一方、新宿駅では1人の割合が男女問わず多い。ターミナル駅だからこそ、他の用事や乗り換えの「ついで」なのか、商業施設を足早に見てまわるなど黙々と人が行きかう印象だった。駅ビルが充実しているからつい立ち寄ってみたり、用事の合間に時間を潰す感覚でショッピングしたりと、新宿駅ではそのようなスタイルで利用している人々が多いのかもしれない。
1人より数人で来訪したときのほうが、同じ場所に長居する時間も増えるのだろう。たとえば有楽町駅近くの人気ダイニング「シクス バイ オリエンタルホテル」は300席ほどがある大規模店だが、テラス席まで満席で、10人ほど入店待ちの行列まであったほど。
ちなみに、あくまで筆者が確認した限りではあるが、この日の新宿駅周辺でここまで賑わっている飲食店は確認できなかった。平日の昼間、ニューオープンのお店でもないのにここまでの賑わい方をしているのが、有楽町駅のレジャー・ショッピング需要の高さを表していると感じた。
平日の昼間という調査時間の影響もあるだろうが、有楽町駅は友達同士でレジャーやショッピングを目的として訪れる層が目立っていたのに対して、新宿駅は「ついで」利用で、1人でショッピングをしている層が多く見受けられ、2駅の違いがはっきりと出ていた。
2駅を散策してわかる街の雰囲気の違い
有楽町駅周辺は既存のインフラを整備しつつ、人が集まり回遊しやすい街がデザインされている。さまざまな再構築プロジェクトが行われているが、レジャー・ショッピング面で特に際立つのは2018年に開業した「東京ミッドタウン日比谷」。劇場やシアターと融合したサードプレイスのような空間をコンセプトに約60店舗がラインナップされている。レジャー要素の中核となるTOHOシネマズ日比谷は13スクリーン約2830席を設置(隣接の東京宝塚ビル内スクリーン含む)、都心最大級の規模を誇るTOHOシネマズの旗艦店である。
日比谷界隈は銀座のような大人向けの高級感あるレストランやブティックと比べて、洗練した雰囲気を保ちつつ開かれた雰囲気となっており、客層が幅広い。建物内や日比谷ステップ広場では待ち合わせ場所として若い人が多く見られた。日比谷と銀座の相互で人の行きかいもありそうだ。
銀座は「東急プラザ銀座」や「GINZA SIX」など商業施設も話題だが、独立した路面店が軒を連ねる晴海通りが特徴的。お店ごとの独自性が豊かなショーウィンドウが並んでいる。デパートなどの複合商業施設と比べるとハイブランドの路面店は入る敷居が高いものだが、全体的に路面店にも一定のお客が入っていた。この様子から、やはり銀座を擁する有楽町エリアには明確にショッピング目的で訪れる人が多いのかもしれない。
一方の新宿駅周辺の新宿通りにも路面店はあるものの、商業施設や繁華街と並んでいるため良くも悪くも銀座ほど敷居の高さを感じない。また、日本最大の歓楽街である歌舞伎町はゴールデン街を中心に観光需要も高まっているが、それでもレジャーを目的として訪れるという雰囲気はそこまで強くないだろう。
新宿駅西口はレジャー・ショッピング目的というよりも都庁を中心としたビジネス街のエリア。平日の昼間は足早に歩くビジネスパーソンが多く見られた。
「京王プラザホテル」の向かいにある「新宿三井ビル」のB1階には休憩できる広場がある。野外イベントが開催されることもあるようだ。基本的に出入りは自由だが、オフィスビル関係者が利用しやすい立地となっており、レジャー・ショッピング目的の外部の人にとってはマイナーな場所である。
有楽町駅から徒歩4分の「帝国劇場」や「東京宝塚劇場」は、1世紀にわたってエンターテインメントを牽引し、さまざまな作品で感動を届けてきた施設。ミュージカル好きなら遠征をしてでも観劇に訪れ、公演が平日でも丸1日予定を空けてお金と時間を費やすほどで、日比谷はミュージカルの聖地のような場所だ。劇場付近は観客が多く、熱気も感じられる。公演前後には周辺のレストランや商業施設も観客で賑わう。日本最高峰の劇場の街らしく、まさにレジャー目的で訪れている人々ばかり。
一方の新宿駅周辺には、「TOHOシネマズ新宿」や「新宿ピカデリー」「新宿バルト9」など大手シネコンも連なっており、「新宿武蔵野館」といったミニシアターも多い。新宿武蔵野館は新宿駅東口から徒歩2分のミニシアター。3スクリーン約300席ほどの規模で、大手シネコンでは上映されないようなマイナーな作品が上映される。有名な映画館でありながらこぢんまりした雰囲気で、ここでも1人客が多かった。昼夜問わず1人で映画を楽しみたい人には最適な環境なのだろう。
――有楽町駅と新宿駅の比較で、当初のイメージより深められた部分はあっただろうか。この2駅はビジネス街や娯楽施設などさまざまな要素が集中している都心の有名駅という共通点があるが、実際に訪れて比較してみるとデータだけでは計り切れない、街ごとの独自の個性があることがわかる。
新宿駅は日本最大級のターミナル駅であるため利用者数が多く、立ち寄ったついでに新宿駅界隈でショッピングなどをするという人も多いのだろう。ただ、有楽町駅が1位に選ばれたのは「レジャーやショッピング目的が多い駅」部門。それらを目的にして訪れるという前提で調査すると、新宿駅や渋谷駅などを凌駕して有楽町駅が1位になるのも納得なのではないだろうか。
(取材・文=おがわるり/A4studio)