「1貫10円」で寿司を提供していると噂の「名前のない寿司屋」(東京都新宿区)をご存じだろうか。「1貫100円」の見間違えなどではなく、10貫頼んでもたった100円のお会計ということである。
新宿・歌舞伎町の大通りから横道の路地に入っていくと、ひっそりと佇む立ち食いスタイル寿司屋がある。「名前のない寿司屋」という店名のその寿司屋では、なんと寿司を1貫10円で味わうことができるらしく、今までにもたびたびSNSで話題にあがっているのだ。
果たして本当に10円で寿司を食べることができるのか? 実際に訪問する前にリサーチしたところ、ドリンクを必ず1杯注文することと、10円の寿司に限って1人15貫までという条件付きで提供してもらえるとのこと。通常ではありえない破格の値段で提供している寿司は、一体どれほどのクオリティなのか、期待と不安が入り混じる……。
ということで今回は「名前のない寿司屋」に直接おもむき、10円寿司のクオリティや、満足度はどのぐらいなのかを忖度なしでレビュー。10円以外の寿司はもちろん、店内の雰囲気やドリンクメニューについても触れていきたい。
まるで隠れ家のような寿司屋
店舗はJR新宿駅東口から徒歩で約10分、歌舞伎町内の路地に店を構えている。訪問したのは平日の夜21時半頃、予約不可だったため行列に並ぶ覚悟で訪れるも、ちょうど空きがありすんなりと入店することができた。
店内はかなり小規模でカウンターのみ、奥に魚の保存場所や大将が寿司を握る空間があり、入口側は客が使用するカウンターが壁に沿って設けられている。先客として2人組と3人組の客が寿司に舌鼓を打っていた。率直に言ってだいぶ狭小の店内ではあったが、好意的に解釈すれば隠れ家のようだともいえる。
店内の壁一面にはメニュー表が貼ってあり、どこか下町情緒を感じさせるような懐かしい雰囲気が漂う。さらに店の外には喫煙スペースがあり、喫煙者にも配慮したサービスも嬉しかった。
カウンターにつくと飲み物のオーダーを聞かれたため、寿司の前にウーロン茶(330円/税込、以下同)を注文。メニューを見る限りドリンクの種類はそこまで豊富ではないが、定番のアルコール類やソフトドリンクはある程度押さえているようだ。
注文して2、3分でウーロン茶とお通しが到着。お通しは魚、タケノコ、大根の煮つけが入った小鉢で、魚も大ぶりで歯ごたえが良く、甘い味付けがさらに食欲を掻き立ててくれる。お通しの値段は330円で妥当な金額だと感じた。
クオリティ高すぎな10円寿司
いよいよ本命の10円寿司を注文してみよう。ネタは日替わりで1ネタに限定されている模様。この日10円で提供していた寿司は「ぶり」。ひとまず10貫注文し、その後に10円以外の寿司を頼むことにした。注文すると大将がカウンター内で握ってくれる。
期待を膨らませながら待っていると、注文してから5分ほどでぶり10貫が到着。10円ということでネタが小さいのではと懸念していたが、杞憂だったようだ。ぶりは大きさも厚みも充分で、とても10円とは思えないサイズ感。
問題の味はどうなのだろうか。実際に食べてみると、ほど良く脂が乗っていながらもあっさりとした口当たりで、シャリも絶妙な握り加減。これが10円とは到底思えないクオリティで、大手回転寿司チェーンで食べる2貫100円程度の寿司よりも美味しく感じたほどだ。
ボリュームや味が充分なクオリティであると確認したところで、1貫10円のぶり以外の寿司も注文してみることに。
メニュー表を見て気になっていた、ぶりの次に安い30円のイナリや、220円のエンガワ、180円のサーモンなどの定番メニュー。そして、120円の白魚や220円の「すじこ」も気になるところ。これらを含めた8貫の寿司を注文してみた。
注文してから5、6分ほどで全て到着。提供時間が早くとも一つひとつ丁寧に握られており、味だけでなく見た目のクオリティの高さも伺える。
サーモンやエンガワの大きさは、小さすぎずしっかりとネタを味わうことができ、シャリのふっくらとした食感が非常に美味だった。なかでも段違いで美味しく感じたのは「すじこ」と白魚。「すじこ」は味の濃さや若干の苦みが絶妙。透き通った白魚は軍艦から溢れ出そうな見た目が特徴的で、1匹1匹の食感を楽しめた。
これらのネタは大手回転寿司チェーン店だと1皿2貫で100円~300円のため、大手チェーンと比べると「名前のない寿司屋」は1貫あたりの金額が少々高め。だが、歌舞伎町という土地柄や気軽にお酒を飲みながら寿司をつまめる点を踏まえると、満足度の高い納得の値段設定である。
最後に330円の「本日のみそ汁」を注文したが、寿司と同様に注文してから5分程度で到着。具材は魚、豆腐、ネギで、ごく一般的な寿司屋のみそ汁といった感じ。実際に飲んでみると、魚の旨みがかなり出ており、みその風味と絶妙にマッチしていて、みそ汁の温かさがじんわりと体に染み渡った。ふんわりと優しい味わいの魚の身も、みそ汁の塩気と相性が良く、飲み終わる最後の最後まで堪能できた。
コスパは最強で納得の満足度
食事を終えて会計したところ、2人で総額2990円。内訳はウーロン茶2杯、お通し2人分、10円寿司10貫、他の寿司8貫、みそ汁1杯だが、しっかりと飲み食いしても2990円という安さで正直かなり驚きだった。やはり1貫10円のぶり10貫で胃袋が満たされたという要素が大きいだろう。ちなみに支払方法は現金のみなのでご注意を。
噂どおり、1貫10円で寿司を堪能できた「名前のない寿司屋」。期待以上に満足度の高い食事を楽しむことができた。通常の食事としても満喫できるが、他のお店で飲んだ後の締めに立ち寄りたくなる場所といってもいいだろう。
「名前のない寿司屋」は新宿以外に中野に店舗があり、中野店では1貫10円寿司の他に天ぷらの提供もしているとのこと。気になる方はぜひ足を運んでみてほしい。
(文・取材=A4studio)