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鬼塚眞子「目を背けてはいけないお金のはなし」

損保ジャパン、業務停止は不可避か…櫻田会長の悪評、会見での「憮然」態度に批判

文=鬼塚眞子/一般社団法人日本保険ジャーナリスト協会代表、一般社団法人介護相続コンシェルジュ協会代表
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損保ジャパン本社(「Wikipedia」より/Rs1421)

 自動車保険の保険金水増し請求問題に揺れる中古車販売大手ビッグモーターとの癒着が問題視されている、大手損害保険会社の損害保険ジャパン。すでに金融庁は19日から同社への立ち入り検査を実施することを公表しているが、8日に同社が開いた会見での櫻田謙悟・SOMPOホールディングス会長の発言と態度に批判が広がっている。

 筆者は会見に出席したが、櫻田会長と白川儀一・損保ジャパン社長は入場する際に厚さ10cmを超える同じファイルを小脇に抱えていた。何度もそのファイルやペーパーを読みながら話していたので、入念にリハーサルを行っていたと思われる。役員たちが一様に「調査委員会の報告を受けてから」と連発したのも、そうした成果なのだろう。

 会見中、櫻田会長は終始、憮然(ぶぜん)とした表情で、一切、白川社長をかばうこともなく、どこか他人事のようだった。白川社長は何度も櫻田会長の顔色を窺うような表情で見ていたのが印象的だった。記者から「損保ジャパンは被害者と思っているのか、加害者と思っているのか」との質問が出た際、白川社長は「被害者はお客さまだけ」と答えたが、その時にほかの役員は頭を下げることもなかった。会見後、櫻田会長はさっさと会場を後にしたが、白川社長は会場に向かって深々と長く一礼をして去っていた。「白川社長のトカゲの尻尾切りで終わることを表明しただけの会見」との声も聞かれ、会見は失敗だったといわざるを得ない。

 櫻田会長とはどのような人物なのか。頭脳明晰で知られ、早稲田大学時代のゼミの恩師が学生に話すほど優秀な学生だったという。旧安田火災海上保険に入社後は人脈作りに長け、堪能な語学を活かした営業力で海外を含めた多くの企業を開拓し、実績を挙げていた。行動力と営業センスがあったことは間違いないようだ。その一方で、元社員からこんな証言が聞けた。

「会議の席上、櫻田会長の意見に少しでも異を唱えようものなら、高圧的な態度でにらみつけられるので、誰も何も言えなくなっていた。櫻田会長が大きく変わったのは、経済同友会の代表幹事になってからだ。『自分は雲の上の人』という態度で、下々は近づくなという雰囲気だった。『櫻田天皇』と陰口を叩く人もいたほどだ」

 ちなみに同社に確認したが、「一個人の印象にすぎない」という。

「知らなかった」発言への疑問

 会見中の櫻田会長が「昨年に経済誌が取り上げるまでビッグモーターが損保ジャパンと乗り合っていることを知らなかった」と発言する場面があったが、損保ジャパンがビッグモーター経由で得る収入保険料は年間約120億円に上っていたとみられる。櫻田会長は2010年から12年まで損保ジャパンの社長を務めており、ビッグモーターとの取引が始まったのは1988年だ。そして現在は持ち株会社の会長であり、「知らなかった」という説明は通用しない。

 損保会社は支店レベルで代理店の保険料収入の成績を常にチェックし、成績上位の代理店は本社の知るところとなる。コロナ禍前までは大手損保各社は成績上位者を社長以下役員が一堂に会する表彰式に招いており、損保会社の社長は中規模以上の代理店名や実績を把握している。積極的に全国の代理店を訪問している社長もいる。それだけに、櫻田会長の「ビッグモーターとの取引を認識していなかった」という発言には疑問が残る。会見で櫻田会長は「もっと早く相談してくれたら」と何度も口にしたが、前述のような櫻田会長の態度を役員たちは恐れていたのかもしれない。

 一方、いくら取材しても白川社長に関する悪い評判は聞こえてこなかった。もちろん「いい人=有能な経営者」とは限らないが、白川社長は損保ジャパンのガバナンスに危機感を持っていたようだ。グループ会社の社員に「小さなことに耳を傾け、トップに届く会社にしていかないと、これからはやっていけない。些細(ささい)なことを大切にしていきたいので、気がついたら遠慮せず、教えてください」と何度も丁寧にお辞儀することもあったという。「37人抜き」で社長に抜てきされたことを快く思っていない人もいたようで、「白川社長はやりにくかったと思う」という話も複数人から聞いた。強力なリーダーシップの櫻田会長と温厚な白川社長の相乗作用は発揮されず、昨年度、損保ジャパンの保険引受利益は赤字に転落していた。

 損保ジャパンが世間を騒がせたのは、今回が初めてではない。2006年には保険料不支払問題で金融庁から業務停止命令が下っている。「先の教訓がDNAとして残っていないのか」と嘆く保険代理店関係者もいる。すでに業界内では、顧客から損保ジャパンの保険解約の申し込みや、損保ジャパンの保険商品を避ける動きが広がっている。白川社長の辞任だけでは終わらず、同社の業務停止は避けられないと考えられる。そして、業務停止期間も不支払問題のときより長くなるのではないか。

(文=鬼塚眞子/一般社団法人日本保険ジャーナリスト協会代表、一般社団法人介護相続コンシェルジュ協会代表)

鬼塚眞子/ジャーナリスト、一般社団法人介護相続コンシェルジュ協会代表

鬼塚眞子/ジャーナリスト、一般社団法人介護相続コンシェルジュ協会代表

出版社勤務後、出産を機に専業主婦に。10年間のブランク後、保険会社のカスタマーサービス職員になるも、両足のケガを機に退職。業界紙の記者に転職。その後、保険ジャーナリスト・ファイナンシャルプランナーとして独立。両親の遠距離介護をきっかけに(社)介護相続コンシェルジュを設立。企業の従業員の生活や人生にかかるセミナーや相談業務を担当。テレビ・ラジオ・新聞・雑誌などで活躍
介護相続コンシェルジュ協会HP

Twitter:@kscegao

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