新型コロナウイルスが流行して早3年。当初は気軽に出かけることができなかったため、ネットスーパーやテイクアウトなども人々の食品購入の選択肢に加わっていった。苦渋の決断で閉店した飲食店などが増えていく一方、自宅で過ごすためのサービスはコロナ前と比較して成長していった。例えば生活協同組合(以下、生協)の宅配サービスの利用者は大幅に増え、2021年度に組合員数が初の3000万人台となった。今、生協への需要が高まっている理由について、生協への取材を交えて追っていく。
生協とは組合員が出資金を出し合い、協同で運営・利用する組織。宅配のほかにも店舗運営やCO・OP共済、福祉、介護などの各種サービスを展開し、全国65主要地域の生協の2022年度の供給高(売上高)は3兆233億円(推計値)にも上り、新型コロナ感染拡大前の19年と比較すると、宅配事業は113.7%、店舗事業は102.2%となっている。
組合員数が増加している要因について、生協の連合会である日本生活協同組合連合会の執行役員(事業企画・デジタル推進本部長)七夕誠司氏はいう。
「やはり新型コロナが流行して外出に恐怖心を抱く人や感染して買い物に出られない人などが、商品を自宅まで届けてくれる生協に期待して、加入されたたといえるでしょう。通常では、生協に入ってもらうためのお誘いの取り組みを行っていますが、コロナ期間は、こちらからの積極的なお誘いをしなくても、組合員が増えていったという状況でした。インターネットでの加入も、以前からできる仕組みがあったため、新しく若い人も入りやすかったのかもしれません。
さらに、子供の成長などで生協を使わなくなった高齢の元組合員さんが、再び利用を始めたことも少なくない状況でした。現在は、コロナ禍で加入者やご利用が急増していた期間に比べると、少し落ち着いたように思えます。また、当時買い物に行けず困って加入した組合員の継続してのご利用が、続いていないケースも見受けられます」(七夕氏)
生協ではコロナ禍に急増した組合員からの注文に対して、職員が増えたということはなく、内勤の職員・管理職者まで総動員で対応に当たっていた。組合員の理解もあって大変な時期を乗り越え、直接的にも間接的にも感謝の声が多く届けられたという。
安全安心なコープ商品をお届け
全国各地での店舗運営や介護サービス、共済などさまざまな面を持つ生協。なかでも宅配事業が好調だったとのことだが、同事業伸長のため、具体的にどのような取り組みをされているのだろうか。
「宅配に関しては、コロナ前から確立されたビジネスモデルで運営していました。それにあぐらをかくことなく努力を重ね、組合員からの支持を得ることができたと考えています。また、組合員にとっては『ネットで気軽に注文することができ、自宅まで届けてくれる』というのが最大の魅力ではないでしょうか。宅配事業だけでなく開発している商品にもいえますが、長年積み重ねてきた『信頼』も大きなポイントです。
加えて、安全安心な商品を提供することはもちろん、働く主婦が増加している昨今、すぐにでも食べることができる冷凍食品の商品開発にも力を入れています。昔は食材が届いて調理することが中心でしたが、ここ十数年では調理冷食品の利用が増えており、支持されている状況です」(同)
22年度の冷凍食品事業の売上高は過去最高額621.7億円にも上った。前年比では106.4%、コロナ前の19年比では122.0%となっている。
「利益」ではなく、組合員の声をカタチにする生協
物価上昇で国民が悲鳴を上げるなか、生協は今年9月から「くらし応援全国キャンペーン」第2弾の実施を発表して話題となった。他の小売り企業各社もネットスーパー事業などに力を入れているが、生協にはどのような特徴があるのだろうか。
「なんといっても生協は協同組合なので、利益を一番に考えるのではなく、組合員が求める商品を届けることが最も大切であると考えています。生協だからこそできるのは、一般のナショナルブランドや他のプライベートブランドに比べて、利用者の声を反映しやすい環境がある点でしょう。
年間約10万件もの声が寄せられ、そのなかからコープ商品に関するものをすべて確認しています。事例としてはパッケージが使いにくいとの声から、より使いやすい形状に改善したり、商品裏面に載っているレシピに、多数問い合わせを受ける内容を書き加えたりと、さまざまな意見に基づきリニューアルを行っています。『みんなの力で作り上げていく商品』という気持ちが強いので、組合員からも正直な意見が届きやすいのかもしれません」(同)
ちなみに9月からスタートした「くらし応援全国キャンペーン」では、コープ商品は第一回のキャンペーンの1.5倍の150品目を全国共通対象商品としてその他各地域の生協が選定したナショナルブランド商品を合わせた商品が特別価格で販売される予定だそう。
「今回の値下げについても、利益を上げるために実施するのではなく、生協の利用を広め、安全安心な商品を多くの人に届けたいということで始まった取り組みです。あらゆるものの値段が上がってしまっているこの時期に、プライベートブランドでお求めやすい価格のコープ商品を1点でも多くお試しいただければと考えています」(同)
(文=LUIS FIELD)