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エスコンフィールド開業、道内の他町やJR路線に想定外の危機…北広島ブーム

文=小林英介
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説明会に大学からは鈴木理事長ら、町からは後藤町長らが出席した(当別町内の当別町第二庁舎、9月28日本稿記者撮影)

 北海道当別町にある医療系専門大学「北海道医療大学」(浅香正博学長)が北海道北広島市の「北海道ボールパークFビレッジ」への移転を決定した。学校法人が9月27日に開催した理事会で方針を固めた。移転は2028年4月を目指すとしている。Fビレッジには今年開業した北海道日本ハムファイターズの新本拠地・エスコンフィールドHOKKAIDO(北海道)がある。この動きについて理解を示す声がある一方、当別町の後藤正洋町長は直接大学を訪れ、大学側に対して町に残るよう要望していたところだった。

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大学は28年春の移転を予定する(大学ホームページより)

地価上昇や好アクセス、大学は生き残りかけ移転を決断

「大学がないというのは考えられない。(移転について)大学側には踏みとどまってほしい」

 後藤町長はこのように話し不快感をあらわにした。北海道医療大学を運営する学校法人・東日本学園が突如として大学のFビレッジへの移転を検討し始めたと報道されたからだ。北広島市はエスコン効果もあって地価が急上昇しており、1月時点の土地の価格を調べた「地価公示」では、北広島市共栄町1丁目の地価は昨年と比べて30%増となり、「住宅地」の上昇率としては全国で一番だった。エスコンも集客数を大きく伸ばし、9月28日の本拠地最終戦開始前にはFビレッジの入場者数が300万人を達成。試合の年間入場者数は約188万人で、昨年の約118万人(札幌ドームのみの主催試合)を上回った。球場は試合がない日も解放されて飲食店などが営業しており、このような新しい運営方法も集客数の増加につながっているのだろう。

 移転先の北広島駅は札幌市内から20分前後でアクセス可能で、札幌市からの学生の獲得も見込める。大学にとって学生の獲得は「命」ともいえる。少子高齢化がさらに進む将来に向け、大学の存続へ向けて生き残りをかけるというわけだ。

移転でJRは?経済への影響も懸念

 9月28日には大学側から当別町に対する説明会があり、大学側は移転する経緯などについて説明。大学からは学校法人東日本学園の鈴木英二理事長らが、町側からは後藤町長や地元の商業関係者らが出席した。

「当別町の皆様には大変ご心配、ご迷惑をおかけしておりお詫び申し上げる」

 説明会の冒頭、鈴木理事長は謝罪した。なぜ北広島市に移転するのか。どうして当別町ではダメなのか。出席者からはそのような困惑した思いが読み取れた。前述の通り、後藤町長は大学側に対して移転を思いとどまるよう伝える考えを示しているが、説明会を前に後藤町長は「いろいろな感情はあるが、冷静に対応したい」と記者団に語り、態度を少し軟化させた印象を見せた。

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説明会後に記者団の囲み取材を受ける鈴木理事長(当別町第二庁舎前、9月28日本稿記者撮影)

 これまで町側が厳しい態度で臨んでいたのには理由がある。事情を知る地元紙記者は話す。

「北海道医療大学はその名の通り医療系の大学だ。病院も運営しており、地元にとっては貴重な大きな医療機関であり、なくなったら困るに決まっているはず。理事長は取材後の囲み取材で、基本的にはすべての学部を移転して病院も北広島に移転すると答えていたが、これまでの病院の利用者らはどうするのか。また、町には移転の話が報道で伝わった。そのため抵抗していたのだろう」

 今回の説明会の内容についてまとめると以下のとおりである。

(1)Fビレッジの中にすべての学部を移転する
(2)当別町には一部施設などを残す
(3)あいの里教育大駅付近(札幌市北区)にある大学病院、当別町内にある歯科も北広島に移転
(4)移転後も町と協議する機会を設ける
(5)移転先はFビレッジ内の駐車場として使われている場所で、JR北が整備予定の新駅近く

 住民からは「(移転の話を聞いたとき)頭が真っ白だった。ショックだ」との困惑の声や、「(大学を中心として進めてきた)まちづくりの観点からも危惧している」といった懸念の声が上がった。

 一方、病院とは別に注目したいのがJRの駅である。大学近くにはJR北海道・札沼(学園都市)線の「北海道医療大学」駅がある。駅を降りるとすぐに大学が見え、アクセスできる。駅は旧国鉄時代の1981(昭和56)年12月1日に開業、開業当時は「大学前」駅という名称だったが、民営化しJRとなった後の1995(平成7)年3月16日に現駅名に改称されている。大学がなくなった後、大学名を冠した駅を継続して設置すべきなのか。さまざまな意見はあるだろうが、小さい焦点として今後、議論されるに違いない。加えて学生も北広島市の通学圏内に住むことになるため、利用者数の減少、ひいては駅の廃止や路線の廃線につながる可能性も否定できないのだ。移転について心配する住民は次のように懸念する。

「町には現在、大学生が800人くらいいる。大学がなくなれば活気はなくなるのはもちろん、町の経済、そして学生に向けアパート等を紹介しているアパート組合にとっては大きな痛手となる」

 JRだけではなく、地元経済にも大きな影響を残すことになりかねないと地元住民は危惧しているのだ。

学生がいなくなる当別町、これからビジネスをどう展開するか

 人口減少社会といわれる現代。今回のような動きを受け、前述のように若者が町からいなくなるのではないかとの懸念の声もある。大学が移転という決断をしたのは、このまま町にいても大学が存続するのは難しいとの判断からだろう。裏を返せば、当別町は大学側から「メリットがない」と見限られたとみることもでき、大学側が北広島市と比較検討して移転を決断したのだろう。大学がなくなった当別町は、これから厳しい町政運営を迫られることになるのは確実。町には「ロイズタウン」や「温泉」など観光資源がたくさんあるものの、それらをどうやって活用して継続的なものとしていくのか。そして町内アパート組合登録のアパートなどには、大学に通う学生が入居している。しかもその数は全戸数の半数以上を占める。町、組合として、これからは学生を対象としないビジネスを検討する必要がありそうだ。説明会では「(卒業した学生たちが)当別に来てよかったと思って卒業していってほしい。私たちも同じような思いだ」と率直な思いを伝える住民もいた。このようなあたたかい住民に囲まれた学生らはなんと幸運だったことだろう。「北広島に行っても、大学が当別にあったことを忘れないで」。住民らはそう思っているに違いないし、移転へ向けた覚悟ができていたのではないかと感じた。

 なお、北広島での新校舎の整備は2025年から始める予定で、費用は全額で約420億円を見込んでいる。

(文=小林英介)

小林英介/ライター

小林英介/ライター

ライター。1996年北海道滝川市生まれ。業界紙記者として働きつつ、様々な媒体でも活動している。

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