昨今、外国人材の需要が高まってきており、日本企業でも採用が増加したことで「上司が外国人」というケースも珍しくなくなってきている。少子高齢化により人手不足が慢性化するなか、国や企業は外国人材の雇用に積極的で、外資系企業や多国籍企業では外国人の上司ができることは普通だ。だが、言語はもちろん、文化も習慣も異なる外国人上司とともに仕事をすることは、多くの日本人にとっては慣れないことに違いない。実際にネット上のコメントを見ても、外国人上司のやり方に困惑しているという声も見受けられる。
たとえば、IT企業勤務で上司がインド人になったという投稿者の事例は興味深い。そのインド人上司は優秀と評判なのだが、ストレートな物言いでダメ出ししてくるので、投稿者は自分の実力不足を痛感しているという。しかし一方で、改善点や伝えにくい点をはっきりと指摘してくれるので、余計なわだかまりなく仕事しやすいとも語っている。
外国人上司と一緒に働くにあたって、どういった点に気をつけるべきなのか。そして、外国人と上手に付き合うためには、どんなコミュニケーションが必要なのか。今回は一般社団法人キャリアマネジメント研究所代表で、外国人材コンサルタントとして活動する千葉祐大氏に話を聞いた。
外国人にとって日本人のコミュニケーションはわかりづらい
今の日本で、上司がインド人などの外国人になる可能性はどれくらいあるのか。
「上司が外国人というケースは確かに珍しくはないものの、かといってそういうケースが『多い』とか『増えている』ということはないでしょう。現状、人手不足になっているのは主にブルーカラーでして、とりわけドライバーや介護、建設業もしくは外食業の人材確保が課題になっています。そのためホワイトカラー、特に高度人材として日本に滞在する外国人の人数はまだまだ少ないです。しかも日本は賃金が安く、外国人労働者からすれば、そこまで魅力のある国ではない。今やシンガポールやオーストラリアよりも人気が低く、東南アジアの人材からも働く魅力を感じられていない状況です。
そういった背景があるということが前提で、インドは公用語が英語なので、優秀な学生であれば欧米企業を第一希望にする人が大半であり、日本企業を第一希望にする人は少数派です。政府は、新たな在留資格を設けるなど外国人材確保に向け積極的ですが、効果には疑問が残ります。一部の外資系企業や多国籍企業を除き、外国人が上司になるケースはそれほど多くはないでしょう。ですからインド人が上司になるケースは、日本人が日本企業で働くよりも、インド系企業で働くほうがあり得る話でしょうね」(千葉氏)
では、実際に上司が外国人になった場合は、どう対応すべきなのか。外国人上司の部下になるにあたって、最も困惑するのがコミュニケーションだろう。日本人が外国人上司とうまく付き合うためには、どのような文化的背景の違いを意識すべきか。
「まず、国によって価値観や思考、論理の基盤となる『コンテクスト』は違います。なかでも日本は典型的な『ハイコンテクスト』の国。メンバー同士が同じ価値観を共有し、言葉を深く重ねなくても相手が何を考えているのか、何を話したいのかを理解できる文化です。例を挙げてみると、本音と建前を使った会話、言葉の裏を読ませる、YesかNoかで判断できない曖昧な返答などです。日本人同士では返答に困るような発言、行動はよくありますよね。要するに察し合うことで、お互いの伝えたいことがなんとなくわかるようになっているんです。
対して、インドは日本と比べると『ローコンテクスト』の文化圏。ローコンテクストの国では、異なる民族同士が共存してきた歴史がありますので、自分が求めていることをはっきり言語化しないと、相手にしっかり伝わらないような環境にありました。そのため、日本のようなハイコンテクストの国より、ストレートな言い方が是とされています」
インドの人たちからすると、日本人の曖昧な話し方はとにかくわかりづらいのかもしれない。
「インドの人たちからすれば、日本人は何を考えているかわからないと感じることが多いでしょう。日本人は相手に忖度したり、気遣ったりして、意図や考えがわからないような発言をしがちなので、日本的なコンテクスト文化を共有していないと、うまくコミュニケーションを図ることができませんからね。また日本人からすれば、物事をはっきりと述べる文化には違和感を覚えることもあるはず。おそらく相手は『はっきり言ったほうがいい』と思って発言しているのですが、このやり方に慣れていない日本人は精神的に苦痛と感じてしまうこともあるでしょう」(同)
外国人上司には、しつこいほど話しかけたほうがよい?
コミュニケーションでコンフリクト(対立、衝突)が発生しやすい一方、外国人が上司になるメリットももちろんあるそうだ。
「ダメなところは単刀直入に指摘してくれるので、自分の短所を即座に理解でき、生産性が上がるというメリットが考えられます。フィードバックをするときもグサグサとダメ出しし、修正点を指示するため、改善するまでの時間が短くてすみ、効率的に仕事ができるでしょう。ほかにも、能動的に動く姿勢を学べるようになるのではないでしょうか。日本人は上から任された業務には、丁寧に取り組む傾向にありますが、自ら仕事を創造することは苦手な人が多いといわれます。しかし外国人上司と接していると自分の考えをはっきりと伝える機会が多くなりますので、積極的な言動や思考が身に付きやすいんです」(同)
千葉氏いわく、国問わず、外国人上司はストレートな物言いをしてくるケースが多いので、こちらもストレートな物言いで返したほうがいいそうだ。ただ個別の国ごとにも文化的背景の違いはあるので、その国に合わせたコミュニケーションのカスタマイズも必要になってくるという。
それはインド人の場合も例外ではない。
「インド人は、根底に『ジュガード精神』と呼ばれる思想が根付いています。これはトラブルや問題に対して、今ある資源やアイデアを用いて、解決を図っていこうとする考え方。インド人の考え方風に言うならば、『目の前で起こったトラブルや問題は、目の前にあるものを使って何とか乗り越えろ』ですね。そしてインド人の多くは、どうせ途中で変更されるのであれば、最初から綿密に計画を立てても意味はないと考えます。結果さえ良ければ必ずしもプロセスは重視しないんです。成果物も完璧な状態ではなく、5割ぐらいのクオリティーで提出し、後々修正していけばよいというスタンスが主流です。
またインド人は『しゃべってなんぼ』の文化で育ってきています。自分の意見をよく主張し、相手にも同じだけの発言量を求める傾向にあるので、日本のように『はい、はい』と受け身で返事しているだけでは上司から信頼されません。会話を広げて、相手との共通項を確認することが大切なので、日本的な『一を聞いて十を知る』会話では、インド人とはうまく付き合っていけないでしょう」(同)
外国人の働き方に刺激を受ければ、我々日本人の働き方も変わってくるに違いない。とりわけ成果主義に基づく働き方の定着は、期待できそうだと千葉氏は語る。
「日本人は『彼は結果が出ていないけどがんばっている』という、浪花節的な義理人情で人を評価することが好みですよね。反対に外国人が上司になると、成果主義に基づき、定量的なデータを用いて評価する傾向にあるので、個々人の成長にはつながるでしょう。ただ冒頭でも説明したように日本自体が外国人ワーカーにとってそれほど魅力のある国ではなくなってきていることは事実。高度人材を呼び込んで働き方を改革していくためには、もっと賃金を上げるなどして魅力的な労働市場を作り上げることが必要になるでしょう」(同)
(取材・文=A4studio、協力=千葉祐大/キャリアマネジメント研究所 代表理事)