大手製パンメーカー・山崎製パンの工場アルバイトの求人募集には次のように書かれている。
<ヤマザキパン【短期】週0日~OK!1日で13,000円以上稼げる>
<コツコツ裏での作業ができる方には簡単作業なのでオススメ!!>
山崎製パンは、パンに限らず洋菓子、和菓子など幅広い商品を製造、販売する企業。全国に28カ所に存在する工場は24時間365日稼働をしており、品質にこだわった生産管理のもと、日夜さまざまな商品を製造し続けている。常に稼働しているという事情からか、求人サイトでは工場アルバイトの募集ページを見かける機会が多い。「Indeed」に掲載された求人内容の一例を見てみよう。
<●お仕事内容
・パン、ケーキ、和洋菓子等の流れ作業
・トッピングをのせる
・商品をパックに詰める
・流れてきた商品に問題が無いかチェックする
●勤務時間
・9:00~18:00(実働8時間)、18:00~5:00(実働10時間)
●給与
【昼勤】時給1150円~
【夜勤】時給1200円~時給1500円 ※夜勤は深夜・残業手当あり>
昼勤でも最低9200円、夜勤だと最高15000円+手当付きと、待遇が良いアルバイトにもみえるが、SNS上では同社の工場アルバイトについて「きつい」「つらい」という声が多数みられるのも事実だ。
「立ちっぱなしでつらい」「単純作業の繰り返し」
「Indeed」には山崎製パンのアルバイト経験者と思われる人の声として「同じ作業をずっとこなすのがきつかった」「流れてくるショートケーキのいちごをのせる作業が1時間ぐらい続いてつらかった」「匂いが甘かったり、蒸しあがった湯気の匂いだったりで、気分が悪くなる方もおられます」「既存のスタッフの高圧的な態度、業務の説明をしないなど仕事以外でストレスが溜まる」といった内容もみられる。このように単純作業であるものの、体力、気力が非常に問われる労働環境になっていることが窺える。そこで山崎製パンに取材を申し込んだが、回答は得られなかった。
作業自体は単純だけど、時間の経過が遅く感じる…
果たして山崎製パンのアルバイトの実態とはどうなっているのか。人事コンサルタントで「働き方改革総合研究所」代表取締役の新田龍氏に聞いた。
「基本的に山崎製パンのアルバイトは、パン・洋菓子・和菓子の製造ラインでの仕事がメインで、ラベル、シールの貼り付け、商品のパック詰め、簡単なチェックや仕分けを担当すると言います。またケーキの製造では、バナナの皮をむいたり、イチゴの選別やヘタ取りをしたり、箱詰めしたりといった仕事をすることもあるようです。運搬作業や環境整備作業を担当することもあり、ラインや通路、トイレなど工場敷地内の清掃、食器洗いや食堂のテーブル拭きなどの雑務を任せられることも。
このように作業は多岐にわたるのですが、内容自体はそれほど難しくなく、誰でもそつなくこなせる仕事でしょう。ちなみに通常の製造ラインでアルバイトを募集しているケースもありますが、クリスマスなどの繁忙期には短期で大人数を雇うこともあります」(新田氏)
たしかにシンプルな作業なので誰でもできそうな仕事に思えるが、一般的に食品工場での作業アルバイトは「人を選ぶ仕事」だと語る。
「基本的に工場内は私語厳禁で、ラインの稼働中はずっと立ちっぱなし。いったん製造ラインに配置されると同じ場所から動けなくなるだけではなく、仕事も単純作業の繰り返しなので、すぐに飽きてしまい、達成感を抱きにくい。また長時間下を向いて作業することになるので、首や肩が痛みやすくなるんです。
そして、製造ラインはスピードが速く、流れてきた商品をとにかく迅速にさばかないといけません。何せ相手は機械ですので、人のペースに合わせることなく続々と商品が運ばれてきます。単純作業ではあるものの、慣れるまでには大変ですので、気を抜いていると見落としが出てしまいます。普通のラインでも苦労すると聞きますが、人気商品のラインだとさらにスピードを求められるそうです」(同)
作業を忠実にこなしていないと、社員やほかのアルバイトから叱責が飛ぶケースもあるそうだ。できれば、粗相なく働きたいと思うのが労働者の心理だが、工場で良好な人間関係を築けるかは、入ってみるまでわからないのが現状だという。
「社員や先輩アルバイトのなかには、もちろん人柄のよい人もいますが、高圧的な人、諦観した人などネガティブな人もいます。たまに偉そうな社員が作業中、休憩中のアルバイトに対し、『早くしろ!』と急かす、という体験談も聞いたことがありますね。名前を呼んでもらえず『バイト』呼びされることもあるそうで、まるで自分がモノのように扱われると感じる人もいるようです。
忙しい工場のラインに配置されると、怒号や罵声が飛び交うこともあるようで、雰囲気もギスギスしているのだとか。ただ殺気立っているのは、ラインが稼働しているときだけで、休憩中は優しい、というパターンもあります」(同)
大手ゆえの充実度…すべてがブラックとは言いがたい
もちろん大手食品メーカーで働くメリットはあるという。
「山崎製パンは大手メーカーですので、給与面や各種手当は好条件。残業代がしっかりと出るのは当然ですし、夜勤だと時給割増となり、クリスマスの繁忙期の夜勤だとさらに2割増となります。また出勤日数に応じた手当も魅力的。月15日以上で1万5000円、20日以上で2万円とインセンティブが付くのです。よっぽどのことがない限り、シフトを強制されることもないので、自分の都合で働けるのもメリットのひとつ。また最寄り駅から送迎バスが出ることもありますし、社割でパンが買えたり、食堂で無料パンを食べたりできることも。ですから単純作業が得意で忍耐力のある人には、おすすめできる仕事かと思います」(同)
単純作業であるがゆえのつらさや人間関係のつらさなど、どうしようもできない面はあるものの、ネットの口コミほど悪くはない現場が多いというのが実情なのか。
「山崎製パンは工場数も多く、求人数も比例して存在するので、アルバイト経験者はかなりいると予想されます。したがって、ネット上に投稿される口コミも増えるので、ネガティブな意見を見かけやすくなるのでしょう。そして、ネガティブな投稿をする人のほとんどが、ほんの短期間だけアルバイトを経験した人の可能性も充分あり、配置されたのがたまたま忙しいラインだった、嫌な人がいるラインだった、ということも考えられます。そうなると『もうやりたくない』と訴えるのは当然でしょう。
山崎製パンの商品は、カビが生えないほど清潔な場所で作られているという話をよく聞きます。事実、品質管理には細心の注意を払っている企業ですし、工場内の服装、衛生チェックはかなり厳しめ。作業用キャップから髪の毛が少しはみ出るだけで注意されるぐらい徹底的に行っているのです。加えて、社会貢献活動にも積極的で、大規模災害時には緊急食糧支援と称して自社の商品を無償で提供することもありました。もともとの知名度や評判が高く、工場の母数が多い分、ネガティブな意見が悪目立ちしてしまう面があるのは否めませんが、すべての工場がネット上の悪評通りなワケではありません。もちろん製造ラインは忙しいものの、それだけでブラックな現場だとはいえません」(同)
(取材・文=文月/A4studio、協力=新田龍/働き方改革総合研究所代表取締役)