コンビニエンスストアのフランチャイズ店(FC)オーナーいえば、一般的にはきついという印象を持たれていることが多いだろう。本部へのロイヤリティ負担に加え、廃棄費用も負担しなければならず搾取されているイメージがある。そして人手不足が加速するなかでも24時間営業を迫られ、FCオーナーは過重労働になりがちという話も聞かれる。とはいえ全国で5万6000店舗以上もあり、大手チェーンではFC店が9割以上を占めるなか、こうした話は実体を表しているのだろうか。今回、コンビニ業界に詳しい関係者への取材を通じて、FCオーナーの実態に迫った。
伸び続けてきたコンビニ業界
国内では少子高齢化が進むなか、コンビニ業界は右肩上がりで成長し続けてきた。経済産業省の商業動態統計調査によると、業界全体の市場規模は2000年の6兆6803億円から10年には8兆1136億円となり、14年に10兆円を超えた。その後はしばらく横ばいで推移しコロナ禍で若干落ち込んだが、22年には12兆1996億円となっている。業界全体の店舗数については、2000年末の約3万5500店から伸び続けて17年に5万6000店を超え、22年末時点で約5万6200店舗となっている。業界トップ3の国内店舗数は次の通りだ(23年10月末時点)。
・セブン-イレブン …2万1438店舗
・ファミリーマート …1万6456店舗
・ローソン …1万4625店舗
まず、FCオーナーが本部から搾取や過剰労働をさせられているというイメージは実体を表しているのか。大阪・東大阪市にあるセブン-イレブンのFC店オーナーと本部の争いが報道されたことも記憶に新しいが、コンビニ業界に詳しい関係者はいう。
「『搾取』されているのであれば、なぜ国内だけでも約6万店ものコンビニ店舗があるのでしょうか。例えば、セブンの場合、2万1300店のうち約97%の2万店がオーナー店(加盟店)です。オーナーは独立した事業主であり、本部との間での契約は『労働契約』ではありません。搾取されていると思う加盟主がいれば、本部との契約を解約すれば済む話です。よく、『24時間365日休みもなく働いている』と報じられますが、それが分かった上でオーナーの判断で加盟契約を締結したはずです。強制的にハンコを押させるようなチェーンはないでしょう。
チェーンに加盟するということは、チェーンとしてお客様とお約束していることがら、たとえば24時間営業を行うなどといった点について、オーナーの勝手な判断で反故(ほご)にしてはいけないということです。もし反故にすれば、チェーン全体に迷惑をかけることになります。ですので、オーナーは契約時に納得して受け入れた内容については必ず守ることが求められます。
オーナーが休みを取れるのか取れないのかは、従業員を育てる力やマネジメント力があるかなどオーナーの力量によります。看板をチェーン本部から借り、店舗運営のすべてに関するシステムは本部が用意したものを利用して自らの商売を行うというのがフランチャイズです。すべてはオーナー自らの判断によって、自身のシフト入りの時間や一日での過ごし方などを決めて良いことになっています。従業員がシフトを守らず自身が長時間店にいなければならないとするならば、それはすべて雇用主であるオーナーによる従業員への教育がなっていないということになります。
コンビニ業界に限らず、昨今は人手不足でシフトが埋まらないという事態が頻発しており、オーナーが長時間シフトに入る必要が生じているのは事実です。しかし、それを『搾取』と考えるのはおかしな話です。労働条件を提示し、しっかりとした教育などを行った上で雇用が継続し安定した店舗運営をできている店が大半です。でなければ、これだけの店舗数にはなり得ません」
最も大きい負担は本部へのロイヤリティ、次に人件費
コンビニFCオーナーの負担をめぐっては、本部へのロイヤリティ支払いや廃棄費用、人件費や賃貸料の負担が重いという話もよく聞かれる。
「額的に最も大きいのが本部へ支払うロイヤリティです。これは自動的に徴収されるものであり、大手3チェーンは基本的に粗利益分配方式を採用しています。例えば売値が100円、原価が70円の商品であれば、30円が粗利益額です。この30円を本部と店舗で分けるという形態です。本部と店双方の取り分の分配比率は、チェーンや契約のタイプによってまちまちですし、売上の多寡で分配の比率が変わるという契約形態もあります」(同)
契約形態については、本部が土地・建物を用意する形態やオーナー自身が土地と建物を用意する形態などさまざまで、それによってロイヤリティの分配比率は変わる。FCオーナーはロイヤリティを支払った後に残った店舗の収入から人件費や賃貸料などの経費を支払わなければならない。特に人件費は大きい負担だという。
「総粗利額から本部ロイヤリティを差し引いたものが店の収入であり、そこから経費を支払う必要があります。経費項目で最も厳しい項目は人件費です。最低賃金が上昇している状況下で、直接的な負担がかなり増加しています。それに加え社会保険の加入対象者がいると、雇用主負担もかなり重くなります。人件費が上がった上に、上昇分にさらに社会保険の料率が課せられるので、ある意味では二重の負担増という話になります。また、労働力不足で従業員一人当たりのシフト入りの時間が増加傾向になっており、週20~30時間を簡単に突破してしまうことで、その分、社会保険加入対象者が増えるため事業主負担が増加するという図式もあります」(同)
チェーン本部の最も重要な仕事は「加盟店を儲けさせ続けること」
一般的には「FCオーナーvs.本部」という対立構図の印象を持たれがちだが、それは事実に反すると同関係者はいう。加盟店が儲からなければFC本部の収入も減るため、本部は店舗側に対し各種サポートを行っている。水道光熱費の大部分を本部が負担することもあるという。
「水道光熱費を全額店舗負担としているチェーンもありますが、80%を本部で負担しているチェーンもあります」(同)
ちなみにセブン-イレブンのサイトによれば、FC契約のタイプA(土地・建物をFCオーナーが用意)とタイプC(土地・建物を本部が用意)のいずれにおいても水道光熱費の8割を本部が負担している。そしてコンビニ各社の本部は、加盟店を儲けさせるべくさまざまな施策を行っている。
「商品廃棄を削減させるために、販売期間を延ばす技術革新を行ってきたほか、お客に商品を手前から取るよう働きかける『テマエドリ運動』などを本部は実施してきました。こうした施策はフードロス削減と共に店舗の負担軽減にもつながります。また、商品廃棄の金額に対して一定の比率を本部側で負担しているチェーンもあります。
ゴミの廃棄も店舗側の大きな負担です。ゴミを減らすべくゴミ箱を店外から店内に移動する店舗レイアウト変更に伴い雑誌売り場のスペース削減なども行われていますが、これは本部が売上の一部を削ってでも店側の負担を軽減させることを優先した結果でしょう。こうした取り組みは本部のロイヤリティ収入減につながる難しい判断といえます。
チェーン本部の最も重要な仕事は、『加盟店を儲けさせ続けること』に尽きます。加盟店の経営が安定して利益を上げ続けられなければ、加盟店の脱退が続きチェーンとして成り立たなくなります。その意味では『加盟店の繁栄なくして本部の繁栄なし』といえます」(同)
一に立地、二にオーナーの力量、三に従業員の安定化
では経営に成功するFCオーナーと失敗するFCオーナーの差を生む要因はどこにあるのだろうか。
「明暗を分けるのは一に立地、二にオーナーの力量、三に従業員の安定化・定着化です。コンビニの経営がうまくいくための条件は、まずは立地に恵まれていることです。車客が大半の店舗の場合、『いかに車が出やすい駐車場か』なども売上を左右します。また、オーナーが従業員のマネジメントをしっかりとできているかも重要です。シフトに簡単に穴をあけるような従業員が多ければ店は成り立ちません。コンビニの経営は24時間休みない駅伝を走っているようなものなので、どこかの時間帯でブレーキが掛かってしまうと、次の時間帯のシフトにも影響を及ぼします。それぞれの時間帯でこなさなければならない仕事を各自がしっかりとやり切って、次のシフトの従業員に店を託す。この連続です。失敗しているオーナーの大半は、従業員のマネジメントをはき違えているケースが多いです。ただ、口で指導していればよいのではなく、仕事の背景や意義、目標数値にまで言及して従業員に伝える必要があります」(同)
ちなみに22年度に閉店したローソンの店舗数は全体の2%未満である。本部による一定のサポートがあるなか、経営手腕があり立地に恵まれれば長年オーナーとして経営し続けることができる。FCオーナーとはいえ経営者であり、労働の延長線上で考えてはいけないことを本取材を通じて実感した次第である。
(文=山口伸/ライター)