NTTは政治資金規正法で政治献金が禁じられているが、同社のグループ企業3社が自民党の政治資金団体「国民政治協会(国政協)」に対し、2022年までの10年間で総額1億5100万円の献金をしていたと5日付「しんぶん赤旗」ウェブ版記事が報じた。自民党は、NTTドコモ以外の大手キャリア(携帯電話会社)が猛反対しているNTT法廃止を推進しており、また政府は多額の事業発注をNTTグループに行っていることから、NTTと政府・自民党の癒着を問題視する声も出ている。
NTT法廃止をめぐる動きが慌ただしくなりつつある。NTT東日本とNTT西日本は旧日本電信電話公社(電電公社)から引き継いだ通信局舎や光ファイバー網などの「特別な資産」を保有しており、他の通信会社がモバイル通信サービスや光回線サービスを提供する際にはNTT東とNTT西の資産を利用している。NTTドコモと他のキャリアは電気通信事業法に則り、これらの設備を同じ金額・条件で利用しているが、NTT法が改正されて総務大臣の許認可取得なしでNTT東とNTT西、ドコモが合併した場合、ドコモが競合他社より有利な条件で通信サービスを利用することで公平な競争が阻害される恐れがあるとして、他キャリアは法廃止に反対している。
「NTT法では、NTT東とNTT西は事業計画策定について総務大臣の許認可を取得する必要があると定められており、両社とドコモが合併しなくても、もしNTT法が廃止されればNTT東とNTT西は光ファイバー網を他キャリアに貸し出す際の条件を今まで以上に自由に設定できるようになる可能性もある。要はさまざま条件面で身内のドコモを優遇したり、他キャリアとの接続料を値上げする懸念があるということで他キャリアが反発している。NTTグループが過去に国から引き継いだ『特別な資産』は国民の税金で整備されたものであり、NTTグループが国の許可なしにそれを使って自由にビジネスを展開できるようになれば、公平な競争が阻害される懸念がある」(全国紙記者)
KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルのキャリア3社、日本ケーブルテレビ連盟に加え、インターネットプロバイダーとMVNO(仮想移動体通信事業者)、地方自治体など181者が連名でNTT法廃止に反対する意見も公表するなど、同法廃止への反発が広がるなか、同法廃止へ前のめりの姿勢をみせるのが自民党だ。
自由民主党のプロジェクトチーム(PT)は1日、2025年をめどにNTT法の廃止を目指す提言をまとめた。固定電話を含めた全国一律のユニバーサルサービス責務は25年の通常国会での撤廃、政府のNTT株保有義務(3分の1以上)や外資を3分の1未満にする外資規制、研究成果の開示義務の撤廃も目指すとしている。
「自民党の提言はまさにNTTの主張そのもの。自民党は時代に合わなくなったから法廃止だというが、なぜ必要な部分の改正ではだめなのか、いきなり廃止を目指すと言い出したのかが不可解。NTT法廃止の必要性を訴えるNTTの動きと歩調が合っているのは事実だ」(同)
キャリア3社と日本ケーブルテレビ連盟のトップが4日に開いた会見でソフトバンクの宮川潤一社長は「NTT以外の通信会社すべてが反対しているのに、なぜ押し切るのか。ここが論点だ」「政治の力で決着し、これに『おかしい』と有識者や我々が感じたら裁判になる」と発言。KDDIの高橋誠社長も「大いなる目的があると推測せざるを得ない」と指摘するなど、政治的な思惑の存在を示唆している。
NTTの完全民営化への警戒
そんなNTTと自民党の蜜月ぶりが見え隠れするタイミングで出たのが、今回のNTTグループによる政治献金報道だ。献金を行ったのは、NTT完全子会社であるNTTドコモ、NTTが50%以上の株を持つ子会社・NTTデータ、NTTの100%子会社・NTTアーバンソリューションズの中核会社・NTT都市開発の3社。NTTグループはマイナンバーカードや官公庁の各種システムをはじめ、国から毎年多額の事業発注を受ける立場だけに、政府とNTTの関係は深い。21年にはNTTの澤田純社長(当時/現会長)やNTTデータの幹部などから総務省審議官と同省出身の内閣広報官だった山田真貴子氏(当時)らが高額な接待を受けていたことが発覚した不祥事も記憶に新しい。
NTTはHP上で「政治資金規正法に則り、政治献金は行っていません」としているが、山岸純法律事務所代表の山岸純弁護士はいう。
「政治資金規正法は、第22条の3、2項で『国から資本金の出資を受けている会社は、政治活動に関する寄附をしてはならない』と明記しています。違反した場合、26条の2により3年以下の禁固刑や50万円以下の罰金が科せられます。
日本電信電話株式会社(NTT)は政府から資本金が払われているところ、ニュースで謳っている『NTT企業グループ』はNTTと資本関係があるわけですから、『政府のお金がNTT企業グループの資本となっている』と評価されても仕方ないでしょう。刑罰がある法律は厳格に適用しなければならず、『そう評価できる』というだけでは刑罰を適用することはできませんが、NTT側は企業としての社会責任が問われます」
また、中央省庁官僚はいう。
「『即違法』ではないものの、ドコモはNTTの完全子会社、NTTデータは株の過半をNTTが握る企業であり、NTTがグループ企業を使って政権与党に献金しているという構図。客観的な構図的にも『法の抜け穴をついている』といわれても仕方なく、完全にシロとはいえない。
これまで分離・分割が進められてきたNTTグループだが、ここ数年は揺り戻しが生じて、NTTデータとNTTリミテッドの統合やNTTによるドコモの完全子会社化など『大NTT』復活の様相を呈しつつある。特に海外進出の拡大を狙うNTTにとって、時代に合わないユニバーサルサービス責務や研究成果の開示義務、外資規制などは足かせになる。そこでNTT法の改正ではなく一つ飛びで廃止の動きが政治主導で出てきていることに対し、他キャリアが強く警戒している。ドコモの市場支配力の向上につながりなねないNTTによる完全子会社化を国があっさり認めた前例もあり、NTT法廃止でなし崩し的にNTTが完全民営化を果たして巨大な組織力と『特別な資産』を武器に事業を展開することは、他キャリアにとっては脅威になる」
ドコモ以外のキャリア3社が4日に開いた会見では、各種通信料金の高止まりやサービス多様化の停滞への懸念も示された。また、NTT法廃止の影響についてKDDIの高橋社長は「各社が進めている通信サービスすべてに影響が出る可能性があります。特にモバイルサービスについては根幹となる特別資産をNTTさんがお持ちなので、それが影響するサービスすべてに影響が出てくる可能性があります」と語っている。
(文=Business Journal編集部、協力=山岸純弁護士/山岸純法律事務所代表)