NTTは持ち株会社の次期社長に島田明副社長(64)が昇格する。澤田純社長(66)は代表権のある会長に就く。NTT東日本の社長には持ち株会社の渋谷直樹副社長(59)、NTT西日本の社長にはロンドンに拠点を置く海外事業会社NTTリミテッドの森林正彰副社長(60)が就く。3社の社長交代は4年ぶり。NTTの篠原弘道会長(68)とNTT東日本の井上福造社長(66)、NTT西日本の小林充佳社長(64)は、それぞれ相談役に退く。
通信業界関係者が注目したのは、新しく社長になった島田氏ではない。会長となる澤田氏のほうだ。社長を経て代表権のある会長に就く人事は、NTTでは過去30年近くなかったからである。社長退任後、代表権のある会長になったのは2代目社長の山口開生氏(任期は1988年~90年)以来のことだ。
NTT社長の在任期間は5~6年が相場。澤田氏の前任である7代目社長の鵜浦博夫氏(任期は2012年~18年)は、社長退任後に相談役になった。取締役ではなく、代表権もなかった。NTT社長が退任後、代表権のある会長に就くのは、文字通り“サプライズ人事”である。日本経済新聞電子版(4月27日付)は、舞台裏をこう報じた。
<「4兆円使った結果を出せ。途中で逃げるな」2021年、総務省幹部への接待問題が明らかになり、進退が揺れる澤田社長にある有力OBが発破をかけた。「4兆円」とはNTTがドコモの完全子会社化に投じた費用で、社内外の反発を受けながらも主導したのが澤田氏だった。複数の関係者は、この一言が澤田氏が退任を思いとどまるきっかけになったとみる>
澤田氏は実力会長として「院政」を敷くという見方でほぼ一致している。
ドコモの弱点、法人事業を強化
18年6月、NTT社長に就任した澤田氏はグループ再編を進めてきた。再編の成否を握るのは、低迷するNTTドコモの立て直しだ。4兆円を投じドコモを完全子会社にした。
ドコモはグループの稼ぎ頭だ。ドコモの22年3月期の営業利益(国際会計基準)は1兆725億円。NTT全体(1兆7685億円)の6割を占める。大手携帯通信3社を比較するとドコモは、KDDI(1兆606億円)、ソフトバンク(9857億円)と横一線で並ぶ。シェアは1位だが収益力では明らかに見劣りがする。
料金値下げの影響は小さくない。KDDIが872億円、ソフトバンクは770億円の減収要因となったという。ドコモの場合は20年3月期から22年3月期までのモバイル通信サービスの減収額が2700億円になるなど非常に大きかった。これをカバーしたのが、法人事業とEC、金融事業などだった。
澤田氏が今後の成長戦略として注力していくと語っているのが法人事業だ。1月1日付で、NTTドコモは長距離固定通信のNTTコミュニケーションズ(コム)とシステム開発のNTTコムウェアを子会社にした。ドコモは企業向けにスマホの一括販売を行ってきたが業務効率化などの提案力は弱かった。大企業を顧客に持つコムやコムウェアと融合できれば弱点は解消できると考えた。
ドコモにコムの法人向け事業を統合する。7月には事業移管を終え、新生ドコモとして再出発する。法人事業の売上高を25年度に20年度比約25%増の2兆円へ引き上げる。グループ全体で2000億円の増益効果を見込む。
澤田氏が期待する新領域の開拓は一筋縄でいかない。ドコモは金融・決済など非通信のスマートライフ事業に力を注いでいるが、コムとの統合がどのような波及効果をもたらすかが見えてこない。通信を本業とする会社同士が組んでも非通信の強い事業は生まれないだろう。
自社グループにない発想の取り込みが必要になる。KDDIやソフトバンクなどのライバルに比べると、NTTが苦手とする分野だ。官庁以上に官僚的といわれる企業体質は、一朝一夕には変わらない。澤田改革でドコモは復活できるのか。従業員の意識改革を進め、攻めの経営に根差した、“新しい企業文化”を形成できるかどうかにかかっている。
(文=Business Journal編集部)