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なぜ世界最強の通信企業だったNTTは、GAFAになれなかった?凋落の研究

文=真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授
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NTTのHPより

 近年、日本電信電話株式会社(NTT)は、NTTドコモの完全子会社化などを進め、グループ全体で事業運営の効率性向上に取り組んできた。NECや富士通などかつて「電電ファミリー」と呼ばれた企業との連携も強化されている。その取り組みに期待を強める投資家が徐々に増加している。年初来から10月21日まで、NTTの株価は約28%上昇した。その間、世界的に株価は下落した。

 今後の展開を考えると、世界各国はインフレが進行する中で景気後退に向かう可能性が高い。NTTグループを取り巻く事業環境の厳しさは増すだろう。同じことは、米国のGAFAなど世界の有力IT先端企業にも当てはまる。見方を変えれば、ここから先、企業の事業戦略の立案、実行力の差は一段と鮮明化する。先行きは楽観できないが、NTTがグループ企業との組織統合、および他企業との連携をさらに強化し、よりスピーディーに成長を実現することは可能だろう。ある意味、NTTはビジネスチャンスを増やし、収益力を強化するチャンスを迎えつつある。その実現のためにNTT経営陣に求められることは、新しい企業風土を醸成することだ。

インターネット革命に出遅れたNTT

 2020年9月、NTTはドコモの完全子会社化を発表した。それ以降、構造改革が加速した。その背景には、1990年代以降、同社がグローバル市場での競争力を高めることができなかったことが大きい。

 1985年にNTTは民営化された。その後、日本経済の成長と資産バブル膨張の熱気に支えられて成長を遂げた。1989年、NTTは世界最大の時価総額を誇る先端企業に成長した。しかし、それ以降、同社の時価総額は減少傾向をたどった。特に、インターネットへの対応の遅れは大きかった。1990年代、米国ではインターネット革命が起きた。それによって情報通信の手段は電話(NTTにとっての通信事業)から、インターネットに急速にシフトした。ヤフーなどの企業がネット検索やメールなどのサービスを提供した。それによって個々人は必要に応じてネットに接続し、情報を閲覧できるようになった。

 世界経済のグローバル化が加速する中でインターネットが普及したことによって、世界各国企業のサプライチェーンマネジメントも効率化した。それを「ウェブ1.0の時代」と呼ぶ。1999年には、NTTから分社化したドコモが世界で初めて携帯電話(当時はガラケー)でネットに接続する「iモード」のサービスを提供した。しかし、ドコモはiモードを世界に普及させることはできなかった。その要因として、グループ全体が一致団結して海外での事業運営を加速させることは難しかった。一方、米国や中国ではグーグルやアリババなど新興のIT企業が急成長を遂げた。その結果として、NTTグループの競争力は低下した。

 リーマンショック以降、世界のネット業界は「ウェブ2.0」の時代に本格的に移行した。アップルのiPhoneなどスマホが普及した。それをきっかけに、SNS、広告事業、サブスクリプション型の各種ビジネスモデルが急成長した。GAFAによる寡占は時間の経過とともに鮮明化した。有力IT先端企業はビッグデータの収集と保存、分析を加速させ、より多くの事業を生み出して寡占がさらに進んだ。データは原油に代わる世界経済の成長の源泉と呼ばれるほど重要性が急速に高まった。

生き残りをかけた組織の統合

 コロナショックの発生もあり、世界経済のデジタル化は加速している。その結果、日本のインターネット後進国ぶりはより鮮明だ。本質的に言えば、世界の中で、日本のデジタル・ディバイド(デジタル技術の恩恵を受けることが難しい状況)が浮き彫りになった。1989年時点で世界最強の通信企業だったNTTの凋落は、それまでにまして鮮明になったといっても過言ではない。その状況にNTT経営陣だけでなく、日本政府も危機感を強めた。

 その結果、分社化から再結集へ、NTTの事業戦略は根本から組み替えられた。経営トップの強いリーダーシップのもと、まず、通信事業の運営組織が統合された。NTTはドコモを完全子会社化した。その上で、ドコモはNTTコミュニケーションズとシステム開発を行うNTTコムウェアを子会社化し、コスト削減を徹底した。その成果は徐々に業績に表れている。2022年4~6月期の連結決算では営業収益と当期利益が過去最高を更新した。

 組織の統合によって、NTTグループ全体で新しい取り組みも増えている。ポイントはビッグデータの活用だ。その一つに、NTTライフサイエンスは遺伝子解析サービスなどを提供するジェネシスヘルスケアと資本業務提携を結んだ。それによって製薬企業や医療機関などによりよいデータ分析サービスを提供し、ウェルビーングの向上実現が目指されている。

 デジタルツイン分野での取り組みも強化されている。デジタルツインとはリアルな世界のデータを収集し、バーチャル空間で再現することをいう。例えばファクトリーオートメーション(FA)をイメージ通りに実現するために、まず、デジタル空間内に工場や設備を再現する。その上で、想定通りにセンサなどが稼働するかを確認する。そこで得られた知見を実社会で生かし、より効率的な事業運営を目指す。傘下のNTTデータは工場のボイラ運転効率化に向けたサービスを提供する予定だ。具体的には、ボイラにセンサを設置し、二酸化炭素などの排出データを収集する。データを用いてシミュレーションを行う。その結果を用いて、温室効果ガスの排出を減らす。排出される蒸気の有効利用方法をソリューションとして企業に提案することなども目指されている。

ウェブ3.0の時代に向けさらなる改革は不可避

 世界のIT業界は、ウェブ2.0から3.0に急速にシフトしている。ウェブ3.0の時代では、IT業界はGAFAなどによる寡占から、個人などが主体的にデータを管理・活用するようになると予想される。デジタルツインは、生活の場でも当たり前になるだろう。必要に応じてネットに接続するという常識は崩れる可能性が高い。常に、リアルとバーチャルな世界が同時に進む展開が予想される。それがNTTに与えるインパクトは大きい。

 米国の株式市場では、GAFAの成長性に明確な違いが表れ始めた。年初来、GAFA株の中でもメタの下落率が大きい。SNS上での広告事業に依存したメタの成長鈍化懸念は急速に強まっている。言い換えれば、IT先端企業が過去の成功体験、設備投資のサンクコストにとらわれることなく、新しい取り組みを強化できるか否かが問われる。

 具体的な取り組みとして、分散型元帳と呼ばれるブロックチェーンの活用、非代替性トークン(NFT)の利用機会の増加、メタバース、量子コンピューティング、それに対応した新型のチップ開発などがある。また、そうした新しい技術や発想を実用化するためには、新しい素材の創出も欠かせない。

 NTTは、ウェブ1.0、2.0の時代に対応することは難しかった。しかし、ウェブ3.0の時代では、ウェブ2.0を支えた発想が既存企業の成長の足かせになるかもしれない。それに加えて、米国などではインフレ鎮静化のために中央銀行が金融政策を引き締めなければならない。米国のIT分野では、業績悪化懸念が高まり、多くの企業がリストラを余儀なくされるだろう。それはNTTにとって、人材獲得や買収の好機になりうる。

 NTTは成長を加速させる重要な局面を迎えつつある。必要なことは、これまで以上にNTT全体で組織の集中力を高めることだ。そのために、通信分野同様、データ分野に関してもNTT傘下に組織が再結集される可能性は高い。他企業との連携もさらに強化されなければならない。それらが成果を生むためには、雇用や組織運営の既成概念を打破し、常に、自律的に新しい発想の実現に取り組む企業風土の醸成が欠かせない。同社経営陣のさらなるリーダーシップ発揮に注目が集まる。

(文=真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授)

真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授

真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授

一橋大学商学部卒業、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学大学院(修士)。ロンドン証券現地法人勤務、市場営業部、みずほ総合研究所等を経て、信州大学経法学部を歴任、現職に至る。商工会議所政策委員会学識委員、FP協会評議員。
著書・論文
仮想通貨で銀行が消える日』(祥伝社、2017年4月)
逆オイルショック』(祥伝社、2016年4月)
VW不正と中国・ドイツ 経済同盟』、『金融マーケットの法則』(朝日新書、2015年8月)
AIIBの正体』(祥伝社、2015年7月)
行動経済学入門』(ダイヤモンド社、2010年4月)他。
多摩大学大学院

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