一部で注文用タッチパネル式券売機が使いにくいという声も広まっている大手牛丼チェーン「松屋」。その松屋が客にスマートフォン用アプリ「松屋モバイルオーダー」の利用を促すために、行列ができた券売機で客が「お昼時の渋滞にイライラ」「操作に迷ってドキドキ」などと書かれたイラストの掲示物を店内に設置し、一部のSNS上では「松屋ちゃんとしろよ」「券売機使えない人がモバイルオーダーなんて使いこなせない」などと反感を買っているようだ。なぜ松屋は、自社の券売機の不便さを認めるかのような「呼びかけ」を行っているのか。専門家の見解も交え追ってみた。
全国に1000店以上を展開する飲食店チェーンだけに、何かと話題になることも多い松屋。昨年1月には根強いファンが多い「オリジナルカレー」の代わりに一気に200円アップさせた『松屋ビーフカレー』を680円(税込み/以下同)で発売したかと思えば、8月には100円値下げして味を変更し、一部からは不評の声もあがった。9月にはランチセットの提供終了を従来の15時から14時に前倒しして1時間短縮し、「牛めしランチセット(並盛)」を550円から500円へ50円値下げしたものの、単品注文では80円の玉子がセットから省かれたため、事実上の値上げではないかという声も出ていた。
このほか、11月に期間限定で発売された「ビーフ100%ハンバーグ定食」の各種メニューが軒並み1000円を超えていることについて、SNS上では「もう貧乏人は利用できない」「その値段なら違う店を選ぶ」などと悲鳴が続出したことも記憶に新しい。
松屋を運営する松屋フーズホールディングス(HD)は業績的には大きな節目を迎えている。21~22年3月期は営業損益が赤字に陥ったが、23年3月期は黒字に転換。だが23年4-6月期は「すき家」を展開するゼンショーHDの牛丼事業、吉野家HDの牛丼事業がともに営業黒字の一方(吉野家HDは23年3-5月期)、松屋フーズHDはとんかつ部門などを含む会社全体で営業赤字に。だが、23年7-9月期は営業黒字となっており、通期では黒字予想となっている。
「UIの設計としては失敗」
そんな松屋をめぐって一部であまり良くない評判が広まっているのが注文用タッチパネル式券売機だ。昨年4~5月頃に使いにくいという声が広まり、一部メディアでニュースとしても取り上げられ、SNS上では以下のように「半泣きで券売機の使い方ググってる人」「やたら重いし無駄に操作回数多いし不便」「牛めし2個持ち帰りしようとしただけでテンパった」といった声や、操作したものの買うのを断念して帰ってしまう人もいるという声もみられる。
<画面は無駄にデカいのに使いづらい>
<注文したい料理は決まってるのに、どこにあるのか分からない>
<飲食店の食券機なんか無数にあるのに松屋だけこれだけ話題になるのは相応の理由がある>
<UIの設計としては失敗>
<インターフェースが人知を超えて酷いだけでなくタッチ性能も悪い>
<ご丁寧に注文カートが非常に見づらい位置と色で設計されてる>
<わからないし後ろに並ばれるし、面倒だなって思ってからはすき家に変えた>
<食券出てくるまでにボタン6〜7回押さないといかん>
フードアナリストの重盛高雄氏はいう。
「以前と比べて改良されたと思われるのは、支払い手段の選択を終えた後の画面表示が見やすくなっている点だ。クレジットカードを挿入する場所やカードを当てる場所などが反転表示される。ただ、いまだに使いにくいままという印象。松屋側が想定している操作手順と客側の操作に大きなミスマッチが生じている。店内で他の客が操作する様子を見ていると、
・個人客もしくは2人客、店内飲食、単品、サイドメニューなし
に関しては問題なく操作されていた。券売機のユーザインターフェース(UI)が、複数商品の注文→まとめて決済に重点を置いているため、そのような注文をしない多くの客が『使いにくい』と感じてしまっているのではないか。一人客が店内飲食と持ち帰りを同時に注文するケースにも対応しているため、『続けて選ぶ』を押すと初期画面に戻ってしまう点が、客に戸惑いを感じさせる。
また、12月に券売機を使用したIT企業SEはいう。
「『牛めし』の並盛を選ぶと、『もう一品』をレコメンドする画面が表示され、『ポテサラ生野菜』を追加したかったのだが、その画面のなかにはなく、上のほうに『もう一品』のようなボタンがあったので押したが、何も反応がなく、どうすればよいのかわからず手が止まってしまった。下のほうをみると小さな『追加購入する』というボタンがあったので押すと、画面が遷移したものの、どこを押せば『ポテサラ生野菜』が出てくるのかわからない。上に『牛めし』『カレー』などのカテゴリー別のボタンが並んでいるが、『サイドメニュー』のボタンがなく、戸惑っていると、そのカテゴリー別ボタンの両端に矢印ボタンがあることに気が付き、それを押すと別のカテゴリー別ボタンが複数表示されたものの、そこにも『サイドメニュー』ボタンがない。何度か矢印ボタンを押していると、『おつまみ』というボタンが出てきて、これだと思って押したが、『ポテサラ生野菜』は出てこない。再びいろいろ操作していると『サイドメニュー』というボタンが出てきて、それを押してようやく『ポテサラ生野菜』が表示されたが、気が付くと後ろに4人くらい他の客が並んで行列ができていてテンパってしまった。ちなみにその店舗には一つしか券売機がなく、常に3~5人の列ができていて、列をみて帰ってしまう客もいた。
別の日に『牛生姜焼定食』の生野菜サラダ抜きのライスセットを注文しようとしたところ、カテゴリー別ボタンに『ライスセット』がなかったため、とりあえず定食カテゴリーを選ぼうと思ったが、定食関連だけで複数のカテゴリーがあり、どのカテゴリーに『牛生姜焼定食』があるのかわからない。いくつかカテゴリーボタンを押していると『牛生姜焼定食』を見つけ、生野菜サラダを抜きにするかライスセットを選ぼうと思ったが選べず、店員さんに『券売機でライスセットは注文できますか?』と聞いたところ、『ライスセット?』と聞かれたので、『生野菜サラダ抜きのやつです』と言ったところ、『多分できます』とのことで、店員さんに券売機を操作してもらったが、結局できず。気が付くと後ろに4人ほどの行列ができていたので、『すみませんでした』と謝って店を出た。ちょっと操作性に難があるのは否めないと感じる」(2023年12月20日付当サイト記事より)
あえて自社の券売機の使いにくさを強調
そんな松屋が、前述のとおり、あえて自社の券売機の使いにくさや不便さを強調するかのようなイラストや「お席で、スマホで、簡単注文 松屋モバイルオーダー」などの文言で「松屋モバイルオーダー」の利用を促す掲示物を設置。「松屋でこんな経験ありませんか?」と書かれ、行列ができた券売機のイラストに「お昼時の渋滞にイライラ」「操作に迷ってドキドキ」といった文言が添えられ、行列に並んでイライラする客が「も~休憩時間が終わっちゃうよ」とつぶやいたり、困惑した表情で発券機を操作する客が「どうしよ、あっ 後ろの人にらんでる」とつぶやくシーンも描かれている。
前出・重盛氏はいう。
「座席や店舗外には松屋モバイルオーダーの利用を推奨する掲示物が貼られており、券売機の仕様変更よりも客のアプリ利用の促進に力を入れているように思われる。松屋のすべての客層がスマホを自在に利用できるわけではない。幅広い世代を自社の顧客層だと認識しているのであれば、券売機の仕様変更は急務だ」
外食チェーン関係者はいう。
「松屋としては純粋に『発券機よりモバイルオーダーのほうが便利ですよ』ということを訴えたいがために、このような内容の掲示物をつくったのだろうが、暗に発券機の利便性の悪さを認めてしまっていることからも、松屋にとって発券機は『厄介なお荷物』なのだろう。発券機のハードウェアは松屋独自のものと思われ、その購入・維持費やシステムの開発・メンテナンス費用はかなり高く、維持していく手間も面倒。できる限り客からの注文をモバイルオーダー経由に以降させ、発券機の稼働台数を減らしたいと考えるのは当然」
(文=Business Journal編集部、協力=重盛高雄/フードアナリスト)