安倍首相は10月に今年2回目となるトルコ訪問を行い、原発受注で実質合意した。東京電力福島第一原発事故後、日本の原発輸出が初めて実現することになった。トルコの計画は黒海沿岸のシノップに原発4基を建設するもの。建設費だけでも250億ドル(約2兆5000億円)規模とされる。当初は韓国が有力だったが価格面で折り合わず撤退し、10年12月に東芝が優先交渉権を得た。
しかし、翌年の東日本大震災で状況が一変する。東芝が提示した原発の型式が福島第一原発と同じ型であったためトルコ側が拒否、振り出しに戻った。韓国が再度名乗りを上げたほか、中国、カナダや三菱重工業=アレバ連合が参戦した。
今年5月に安倍首相がトルコを訪問。日仏の三菱重工=アレバが優先交渉権を獲得し、10月の2回目のトルコ訪問により原発受注で合意に達したのだ。安倍首相によるトップセールスが実ったもので、トルコ議会の承認を得て、正式に契約を結ぶ。2023年の運転開始を目指している。
安倍首相が原発のトップセールスに熱心なのは、福島第一原発事故後、日本国内では新たな原発建設は絶望的になる一方で、世界的には原発は成長産業であるためだ。現在、建設中のものが68基、建設計画は162基にも及び、操業中の原発は316基ある。
原発は1基当たり5000億円の一大事業だ。費用の半分が原子炉やタービン関連で、残り半分が建設関連。運転開始後は保守メンテナンスが長期にわたる収益源になる。原発は、廃炉までメンテナンスで収益を上げることができるビジネスなのである。
現在、世界の原発メーカーは5陣営に絞られる。東芝=米ウェスチングハウス、日立製作所=米ゼネラル・エレクトリック(GE)、三菱重工=アレバに、ロシアの国営原発企業ロスアトム、韓国の電力会社連合だ。原発は建設から運転停止まで60年以上を要することから、参入障壁は高い。ベンチャー企業が簡単に参入できない仕組みになっているため、限られたメーカーが受注争奪戦を繰り広げることになる。
●国内原発再稼働と防衛大綱改定
原発は国のエネルギー政策の中核をなす国家プロジェクトだ。国家間の協力は不可欠であり、もはやメーカーだけでやれるビジネスではなくなった。
トルコの原発をめぐっては、日仏の両政府が前面に出てきた。安倍首相とフランスのオランド大統領は今年6月、三菱重工=アレバがトルコから受注した次世代の原子炉(高速炉)の開発で協力することで合意した。原発は欧米市場は頭打ちだが、中長期的には中東や中南米、さらにはアフリカへの拡大が見込まれている。安い建設費で原発売り込みをかける中国などに対して、日仏両国は原発建設から核燃料サイクル、廃炉までの一連の技術をパッケージとして売り込む考えだ。