「脳と原子力、じつは切っても切れない関係です」(茂木健一郎/電気事業連合会/2010年)
「電気を使っている以上、どこかでどうにかせなアカン」(千原せいじ/NUMO:原子力発電環境整備機構/10年)
「電気を使ったらゴミが出ることをご存知ですか?」(菊川怜/資源エネルギー庁/02年、高レベル放射性廃棄物処理に関する広告)
新聞や雑誌を開けば、原発について語るタレントたち。実は、これらは原発広告(原子力発電を正当化する広告)の数々だ。
「大量の原発広告は40年間にわたり、合計で4~5兆円の広告費が費やされてきました。国民に『原発は安全である』という印象をメディアを通じて植え付けてきたのです。これは、広告業界にいる誰もが知っている話です。11年3月11日の東京電力福島第一原子力発電所事故後は、原発広告に協力してきた大手メディアが自らの反省を込めて検証するだろうと思っていたのですが、そうした動きはありません。それどころか、今年3月24日の青森県ローカル3紙に日本原燃と電気事業連合会によるカラー30段(見開き全面)広告が掲載されました。原発事故からわずか2年、みそぎが済んだとばかりに再び原発広告が復活し始めたのです。また原発広告をやり始めるのでしょうか? この動きは危険です。誰も原発広告の検証をしないのなら、広告業界に18年間身を置いていた自分がやろう、と始めたのです」
このように語るのは、原発事故以前にあった原発報道をタブー視する風潮は、その醸成に広告代理店が大きな影響を与えていたとの事実を明らかにした『電通と原発報道』(亜紀書房刊)の著者である本間龍氏。本間氏が危険だと指摘するのは、青森県ローカル3紙に掲載された「『はやぶさ』に学ぶ 青森そして日本への提言 失敗こそ成長のカギ 独創性豊かな人材を」という広告だ。この広告は神津カンナ(作家)と川口淳一郎(宇宙航空研究開発機構教授)による小惑星探査機「はやぶさ」をテーマにした対談が掲載されている。広告では原発事故に関してはまったく触れていないが、「失敗こそ成長のカギ」という言葉で、暗に原発も成長へのカギであると誘導するつくりになっている。
●新聞広告が最も強い心象を生む
本間氏の最新刊『原発広告』(同)では、原発広告のカラクリが紹介されている。
「見開き全面広告にすれば少なくとも数百万円、場合によっては数千万円が入ってきますから、広告収入が多くを占める地方の新聞社にとってはありがたい話ですよね。しかし、こうして年間で数億、数十億円の広告料収入になるとすれば、メディアにとって最重要な得意先になってくる。広告主の意図がどうであれ、広告を出すという行為は、メディア側が得意先にとってネガティブなことを書けない、というタブーをつくり出していくんです」
「原発広告の中で最もメッセージ性が強く、一度に多くの読者に届くのが新聞広告です。テレビコマーシャルは15秒または30秒という時間の制約があり、雑誌は新聞に比べて部数がはるかに少ない。もちろん速報性においては、テレビやネットに及びませんが、新聞は読者がゆっくりと読めるので、詳しい解説や意見を広めるには最適です。さらにもうひとつ重要なことは、新聞はほかのメディアよりも読者の信頼度が高く、『あの新聞に載っているのだから、おかしな広告ではないだろう』と思わせる信頼感が強みなのです」
新聞における原発広告は、原発推進を主張する読売新聞が突出して多く、人が家にいて、細かく目を通してもらえそうな土日を中心に広告を掲載している。