武田薬品工業は英製薬大手、グラクソ・スミスクライン(GSK)のワクチン事業を統括してきたクリストフ・ウェバー氏が、今年6月の株主総会における承認を経て、次期社長兼COO(最高執行責任者)に就任する予定であると発表した。現社長の長谷川閑史氏は会長兼CEO(最高経営責任者)に就任するが、1年後にはCEOもウェバー氏に譲るという。ウェバー氏はフランス出身の47歳。これまで武田との目立った接点はなかった。
武田の経営幹部には、近年、外国人が増えている。取締役8人のうち外国人は2人で、執行役の最高意思決定機関である経営幹部会議の定例メンバーは9人中5人を外国人が占める。同社の売上高に占める海外比率はいまや5割を超え、全世界で約3万人の従業員の3分の2が外国人だ。
長谷川氏は「(日本人の)生え抜き社員を含む7~8人を(後継社長候補として)リストアップして、1年かけて選考してきた」と述べているが、なぜ、ライバルの海外製薬会社の幹部を、いわば引き抜くかたちでトップに迎え入れるのだろうか。
長谷川氏はその理由について「(経営の)グローバル化の次のステップをリードするには、豊富な海外経験が必要だ」と語っている。
ウェバー氏は1993年にGSKに入社以来、3つの大陸、7カ国で仕事をしてきた。アジアの責任者を務めた後、ワクチン事業会社社長に就任。12年3月にGSKが第一三共とワクチンの共同出資会社を設立した際には何度か来日しており、アジアと日本に土地勘があると長谷川氏は踏んだ。外資系証券会社アナリストは、「武田は出遅れた新興国市場について詳しいウェバー氏を起用するのは、新興国を成長の柱に据えるという決意の表われ」と分析する。
2011年9月、武田は1兆1000億円という国内製薬会社によるM&A(合併・買収)史上、前例のない巨額資金を投じてスイス製薬会社、ナイコメッドを買収し、業界に驚きを与えた。武田の弱点となっている新興国の販売網を手に入れるのが目的で、海外拠点を28カ国から一気に70カ国に拡大させた。
しかし、ナイコメッド社内では、日本企業の傘下になることを嫌った人材の流出が相次ぐなどして、新興国向けの売り上げは伸びず、M&Aの効果は思うように上がっていない。13年9月中間期決算における国別・地域別売り上げによると、全売上高に占める中南米・アジア・中東・オセアニア・アフリカの割合は11.2%にとどまる。ロシアを新興国に加えるという苦肉の策で、新興国向けの比率はようやく16.2%になった。武田はこの比率を17年に30%前後に高めたいと考えており、それを実現できるトップとして白羽の矢が立ったのがウェバー氏だった。
●外国人社長登用、「国際化」目的で目立つ失敗事例
「カルロス・ゴーンの再現なるか」。武田が今回の社長人事を発表した昨年11月30日、仏メディアはこぞってこう書き立てた。ゴーン氏は1999年、当時経営危機に瀕していた日産自動車と資本提携した仏ルノー側担当者として、日産COOに就任し、見事に日産再建を果たした。最近では日産の業績低迷を受けゴーン氏に対する風当りが強くなっているが、瀕死の日産を蘇らせた外国人社長という評価が固まっている。