最近、「Uber Eats(ウーバーイーツ)で稼ぐならバイク配達員」「バイク配達員は自転車配達員より明らかに配達単価が高い」といった話題が注目を集めている。そこで、まだ配達地域が東京都港区、新宿区の一部エリアだったウーバーイーツの黎明期から自転車で商品を運び続ける筆者が、配達中に知り合ったバイク配達員に聞いた稼ぎの話と、自分の稼ぎを比較、検証してみた。
そして検証した結果、明らかになったのは……バイクのほうが稼げるということ。バイク配達員に聞いたとか、検証したとか大げさに書いたが、調査したのは都内で配達を行う2人のバイク配達員のみ。配達員用アプリで確認できる過去の配達履歴とその収入を見たら明らかだ。今年のお正月に筆者が配達した記録がこちら。
そして、収入画面を掲載することに同意いただいたバイク配達員の記録がこちら。
画面下にある「プロモーション」が、一定の回数を配達したらもらえるもの。「チップ」は注文者からいただけることがあるもの。なので、ボーナス的な収入を除くと自転車配達員の筆者は税込7万273円。バイク配達員は3万9558円。自転車配達員である筆者の配達回数(乗車の数)は173回で、バイク配達員は51回。1回あたりのボーナス要素を除いた配達報酬は、自転車が406.2円、バイクが775.6円と2倍弱の開きがある。さらに待機時間と配達時間を合わせた「オンライン時間」を見ると、自転車が64時間8分でバイクが17時間21分。時給に換算すると自転車が1095.7円、バイクが2280円と2倍以上の差となった。画面掲載の同意をいただけなかった方も、自転車配達員の筆者より1回あたりの配達報酬、時給とも2倍ほどの差があった。
大きな差が出てくる理由
なぜ、このように大きな差が出てくるのか。ウーバーイーツは報酬決定のシステムがブラックボックスとなっているため、細かいことは不明だ。だが、バイク配達員の話や、筆者がこれまでに運んだ経験から考えられるのは2つ。配達距離や時間が長いほど配達報酬が上がること。そしてバイク配達員に長距離の配達依頼が優先的に回ってくるのではないかということ。
東京都内で自転車配達員をしている筆者の場合、配達員を多く見かける時間帯に配達していても、舞い込んでくるのは配達距離1.5km以内の報酬300円程度の依頼ばかり。バイク配達員の履歴を見ると報酬500円以上、距離3km以上がたくさんあった。一方通行の道が多い都内の場合、近距離なら自転車のほうが早く届けられるので、運営側はこのような対応をとっているのだろう。
また、注文する側としては「せっかくウーバーで注文するなら、近所の店より、あまり行く機会のない遠くの店の料理を頼んでみよう」との思いがあるだろう。こういったことから長距離の配達依頼が増え、バイク配達員に優先的に依頼が届き、自転車配達員との稼ぎに大きな差が開いていると思われる。
ウーバーだけで稼ぐのはリスキー
ここまで、バイクの配達員のほうが自転車より稼げるという話を書いた。では、ウーバーイーツ配達員という仕事は稼ぐための手段として使えるものなのか。
バイク配達員の報酬単価、時給換算データを見ると、アルバイトより時給が高い。さらにウーバーイーツは、アルバイトなどの一般的な仕事と異なり、稼ぐ時間を自分で自由に決められる。舞い込んでくる配達依頼が面倒そうな案件だった場合、断ることも可能だ。時給が高くて自由度が高いので、バイクで配達する場合は「おいしい」仕事といえるだろう。また、アルバイトは事前に勤務できる時間を提出する手間があり、せっかく時間を空けても自分の希望する時間帯すべてにシフトが入るわけではない。それを考えると時給換算で1000円程度稼げる都内の自転車配達も「あり」な仕事だろう。実際そのようなことから、シフト制のアルバイトをせず配達員をする学生も多い。なかには配達員を専業とするフリーターもいる。
現在の都内の状況を考えると、ウーバーイーツの配達はバイクの場合は「稼げる仕事」、自転車の場合は「いい仕事」といえるだろう。だが、筆者が自転車配達を始めた6年前の1回あたりの配達報酬は480円、時給に換算すると2000円ほどだった。バイク配達員も「以前より稼げなくなった」という言葉をよく口にする。さらに配達員用アプリのアップデートの際にバグが発生して突然アカウントが停止されて働けなくなるという事案も起こっている。働いてお金を稼ぐ行為は衣食住を確保する手段であり、命をつなぐことに直結すること。スマホゲームでまれに起こるトラブルと同じ感覚で働けなくなる可能性があるのは少々厳しい(しかも、スマホゲームの詫び石のような補償はない)。なので、ウーバーだけで稼ぐのはリスキーだ。
また、配達中にトラブルが起こった場合、運営にはチャット機能でしか連絡が取れず、多くの場合は定型文による返事しか返ってこない。担当者が応答するチャット機能に切り替わることもあるが、一定時間メッセージを送らないと回線が自動的にシャットアウトされてしまう。トラブルの状況を報告する文章を打っている時にシャットアウトされることもしばしばある。そのため、アルバイトである程度のトラブルやその対処を経験した方でないと厳しい局面も出てくるだろう。
このように問題点はいろいろあるウーバーイーツ配達の仕事だが、働き方の自由度は他の仕事と比べると圧倒的に高い。これまでになかった働き方のスタイルは、突然仕事が入ることが多い芸能関係の仕事をする若い方や、子育てをする家庭、病気を抱える方にとってはありがたいもの。今後、報酬が下がったとしても、時給換算で800円ほどになるまでは「使える」と判断する人も多いだろう。ただ、トラブルに遭遇してしまうと、状況によっては収入源が断たれてしまうこともある。なので、配達員の仕事をするなら、シフト制のアルバイトをしつつ、空き時間で配達員をやる、もしくはトラブルに遭ってしまった方のSNSを見てトラブル対処法を学ぶといった備えをしてから働くことをお勧めする。
(文=渡辺雅史/ライター)