雨漏りする“ボロ家”社宅への入居強要や、実際の給料が募集要項に提示されていた金額より3万円減額されたことを受け、一般職の入社予定者の9割が入社を辞退したと11日発売の「週刊文春」(文藝春秋)に報じられている「いなば食品」。12日には公式サイト上に反論コメントを掲載したが、日本語があまりに支離滅裂だとして話題を呼んでいる。社員が創業家一族のお世話や家事までやらされているという情報も広まっているが、いなば食品とはどのような企業なのか。
1805年(文化2年)創業の鰹節製造を手掛ける稲葉商店を前身とする稲葉食品(現いなば食品)が設立されたのは1948年。同社を大きく成長させたのが、創業者である三代目 稲葉作太郎氏の子で49年に同社社長に就任した稲葉由蔵氏。58年には同社の柱の一つとなるペットフード市場に参入し、71年には同社の代名詞となるツナ缶「いなばライトツナ」を発売した。
現社長の稲葉敦央氏は父、由蔵氏の後を継ぐかたちで95年に社長に就任。2012年にはペットフードの代表的商品「CIAOちゅ〜る」を発売し、16年にはアメリカ市場にも参入。現在、米国、欧州、アジアなどに37支店、8工場を展開するなど海外展開を進めている。
同社の業績は好調だ。24年3月期連結決算見通しは売上高が前期比24%増の1350億円、純利益が前期比2倍の75億円。26年には売上高2600億円・営業利益220億円、34年には売上高1兆円・営業利益850億円に引き上げる目標を掲げており、さらに社員数を現在の4880名から4万名へ増やし、海外比率80%にするとしている。ちなみに東京本社は高島屋本館の横、18年竣工の高層オフィスビル「太陽生命日本橋ビル」に構えており、業績が勢いに乗っている様子がうかがえる。
「食品メーカーで売上高営業利益率9%前後というのは悪くない数字。今後成長が見込める国内ペットフード市場ではシェアトップを維持しており、着々と海外でも売上を伸ばしている。『いなばライトツナ』、大豆やコーンの缶詰など地味ながらスーパーの棚をしっかり確保できる定番商品を複数持っており、経営は堅実といえる」(金融業界関係者)
<シェアハウスの改修のほぼ一切は 逝去した副社長の担当でした>
そんな同社をめぐり浮上したゴタゴタ。前出「文春」記事によれば、一般職での入社予定者は事前説明とは異なり雨漏りがするボロ家の社宅で2~4人で共同生活をするように強要され、募集要項には給与が22万6000円と記載されていたにもかかわらず、内定後に確認すると19万6450円だと告げられたという。このほか、会社情報の口コミサイト上では、社員がオーナー一族の家族のお世話や家事をやらされたり、古い独身寮に入ることを強制させられたり、なぜか「揚げ物」を食べることを禁止されているといった情報も多数みられる。
物議を醸しているのが、一連の報道を受けて同社が12日に公式サイト上に掲載した「由比のボロ家報道について」と題する以下の見解コメントだ。
<実は、10月26日に間質性肺炎の急性増悪で緊急入院し、1月10日に死亡、2月1日に社葬となった副社長で、いままで本件の一切の担当責任者だった総務部長がこの入院期間中の詳細な指示が酸素吸入による呼吸困難でほぼできず、空白となってしまいました。会社は3月15日付で新総務担当を急遽任命したものの改修自体に残った期限に余裕がなく、修正が極めて遅れました点、心よりお詫びいたします。いままでシェアハウスの改修のほぼ一切は 逝去した副社長の担当でした。今回職場異動のない新卒一般職の16名の方々がご入社辞退となり、心よりお詫びいたします>
<大変申し訳ありませんが、写真のコンクリート剥き出しの場所は洗濯機置き場で、現在は既に洗濯機が置いてありますので現状の映像は異なっています。今回、工場配属の一般職ご入居の皆さまに対し、十分なご説明を申し上げることができませんでした点を深くお詫びいたします。雨漏りは改修手続きを既に開始しております。また畳の交換も近日実施予定でございます>
<このたび、責任者の死亡により作業指示が大変に遅れ、皆さまに非常にご不快をおかけしています。早急に誠意をもって、早期の改修を完了いたします>
<由比のボロ家・雨漏り住宅と指摘されたシェアハウス1件に関してですが、同地由比のシェアハウス対象物件は計6棟でございます。既に3棟に5名の一般職(転勤のない事務職・工場勤務職)入居者がおり毎日勤務しております。今回の対象は唯一の新規の1棟でした。弊社はこの物件を含め、全てのシェアハウスに関して3月20日~26日にかけ、全家屋の点検・クリーニングを実施、完了しておりました。新卒で、勤務場所に原則異動のない新卒「一般職」社員の各位も新たに上記物件に入居し勤務を開始しております。
現在今期、新規一般職の社員は合計で43名、辞令で国内外へ異動する総合職の新卒社員55名も弊社に既に入社し、合計の2024年新卒入社済社員は「計98名」となりました。今後、シェアハウス入居者に対しては、ご負担にならないよう実質家賃の請求を0円にて検討し、実施する決意でございます>
この見解コメントに対しSNS上では「日本語が意味不明」「亡くなった人に責任を押し付けている」「シェアハウスって書いている」といった声があがっている。
経営コンサルタントがいう。
「一部報道では、同社の人事担当者は入社を辞退した人に静岡までの交通費と宿泊代を支払った上で謝罪の言葉も述べていたということであり(12日付「NEWSポストセブン」記事より)、また今回出された釈明コメントでも非を認めて謝罪はしているので、ゴリゴリのブラック企業というわけではないような気がします。このご時世にわざわざ新しい社宅を建設するくらいなので、少し方向性は間違っている部分はあるかもしれないが、それなりに社員思いの会社ともいえる。
その一方、稲葉社長は創業家出身で、会長は稲葉社長の妻の稲葉優子氏、今年1月に逝去した元副社長の稲葉慶太氏も稲葉社長の実弟という典型的な同族企業であり、売上高1000億円の大企業に成長した今でも非上場であるがゆえに、地方のオーナー企業の悪い部分が残ったままになっている。問題となっているプレスリリースの一件だけみても、日本語的におかしくて意味不明な部分も目立ち、真っ当な企業であればプレスリリースで使わないような言葉や表現を含むコメントが公に出てしまうというのは“かなりヤバい会社”ともいえる。社内のチェック・承認体制がきちんと機能していないのではないかとガバナンスの欠如を感じます。そもそも、新入社員の社宅を準備するという一切の業務を副社長がやっていたという説明も摩訶不思議です。悪質な企業というより、いろいろな面で間が抜けている企業というのが正しい表現かもしれません。
大企業になった今も古い同族企業の風土を引きずったままになっており、今回の不祥事を、真のグローバル企業への脱皮の良い契機にしてほしいです」
(文=Business Journal編集部)