食品メーカー大手の「いなば食品」が炎上している。きっかけは4月11日発売「週刊文春」(文藝春秋)が、『「いなば食品」新入社員9割が辞退 女帝の“ボロ家ハラスメント”』と報じたことによる。騒動を受けていなば食品はホームページに謝罪文を掲載したが、同社の主張と週刊文春の報道には相違がある。実際はどうなのだろうか。
「いなばのライトツナ」をはじめとする缶詰や、「CIAOちゅ〜る」などのペットフードが圧倒的な知名度を誇る食品メーカー、いなば食品。売上高1750億円、営業利益155億円(いずれも2024年業績見込)の大企業だ。テレビCMも多く、全国的にもよく知られている。
そんないなば食品に突如として降って湧いた炎上騒動。「週刊文春」によると、今春入社した一般職の女性のうち9割が入社を辞退したという。入社を辞退した一人によると、募集要項には給与が22万6000円と記載されていたのに、内定後に確認すると19万6450円だと告げられた。さらに、社宅として案内されたのが、雨漏りもするボロ家で、そこに2~4人で共同生活するように指示されたと報じられている。
この記事が公開されるのに合わせ、入社を辞退した本人だという女性がSNS上で、社宅として案内されたボロ家の写真や動画を投稿したり、関係者に話を聞いたというSNSユーザーが「週刊文春」の報道に追随するような投稿をしたことで、炎上は加速。いなば食品を批判する声や、給与などが入社前にした雇用契約内容と相違しているのであれば違法であると指摘する向きも多く出ている。
いなば食品を辞退しました。
— がんばる (@XR3OmpH8GE42006) April 11, 2024
昨日文春が出た直後、焦って綺麗な社宅をホームページに載せていましたが、実際はこれです。
私が入った時は冷蔵庫、洗濯機はなしでした。また、エアコンがない部屋には扇風機を支給するとの話でした。
記事には給料は3万減らされた額と記載されていましたが(続く pic.twitter.com/Og6GYnSCCY
騒動を受けていなば食品は12日、同社HPに「この度は皆様方にマスコミ報道等にてのご心配をおかけ致し、衷心よりお詫び申し上げます。今後とも社員一同、社業に邁進してまいりますので何卒引き続きご支援を賜りますよう心よりお願い申し上げます」とする謝罪文を掲載。また、ボロ家・雨漏り住宅と指摘されたシェアハウスについて、入社式前には点検・クリーニングを実施、完了していたと説明。さらに、騒動の発端となった社宅の改修が遅れた原因について、一切を担当していた副社長が昨年10月に緊急入院し、1月に逝去したことで空白が生じたためだと釈明している。その全文は文末に掲載する。
だが、「週刊文春」が報じている内容と、いなば食品の説明にはいくつか齟齬がある。そこでBusiness Journal編集部は、いなば食品に直接問い合わせた。
――ボロ家で共同生活をするように指示されたと報じられていますが、事実ではないということでしょうか。
いなば食品「改修する前の家を見せたのは事実ですが、入居までには改修することを告げてありました。実際に入社式前には改修を完了しており、週刊文春やSNS上で出回っている画像は改修前のものです」
――募集要項に記載されている給与から約3万円減額されたとの報道については事実でしょうか。
いなば食品「減額したというのは事実ではありません。総合職と一般職の給与の差額が約3万円ということであり、今回報じられている一般職の方が勘違いしたのだと思います」
――事実とは異なる報道をされたということですが、「週刊文春」に対して抗議などの措置をとる予定はありますか。
いなば食品「特に文春さんと争うつもりはありません。弊社としては事実を発信し続けるだけです
――一般職の新入社員がこぞって入社を辞退したということは、なんらかの合意や団体行動があったということでしょうか。
いなば食品「それについては、まったくわかりません。社員間で話し合いがなされていたのかなどは把握していません」
夢と希望を抱いて入社を決めた会社を、入社式翌日に辞めるという決意をした女性たち。いなば食品の説明の通りであれば、彼女たち全員が、ボロ社宅での共同生活や給与減について“勘違い”をしたということになる。真相は不明だが、すでに同社で働いている方々と今後同社へ入社する方々が、気持ちよく働ける環境が整備されることを祈るばかりである。
以下、いなば食品の説明文
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「由比のボロ家報道について」
由比のボロ家・雨漏り住宅と指摘されたシェアハウス1件に関してですが、同地由比のシェアハウス対象物件は計6棟でございます。既に3棟に5名の一般職(転勤のない事務職・工場勤務職)入居者がおり毎日勤務しております。
今回の対象は唯一の新規の1棟でした。弊社はこの物件を含め、全てのシェアハウスに関して3月20日~26日にかけ、全家屋の点検・クリーニングを実施、完了しておりました。新卒で、勤務場所に原則異動のない新卒「一般職」社員の各位も新たに上記物件に入居し勤務を開始しております。
現在今期、新規一般職の社員は合計で43名、辞令で国内外へ異動する総合職の新卒社員55名も弊社に既に入社し、合計の2024年新卒入社済社員は「計98名」となりました。
今後、シェアハウス入居者に対しては、ご負担にならないよう実質家賃の請求を0円にて検討し、実施する決意でございます。
実は、10月26日に間質性肺炎の急性増悪で緊急入院し、1月10日に死亡、2月1日に社葬となった副社長で、いままで本件の一切の担当責任者だった総務部長がこの入院期間中の詳細な指示が酸素吸入による呼吸困難でほぼできず、空白となってしまいました。会社は3月15日付で新総務担当を急遽任命したものの改修自体に残った期限に余裕がなく、修正が極めて遅れました点、心よりお詫びいたします。
いままでシェアハウスの改修のほぼ一切は 逝去した副社長の担当でした。今回職場異動のない新卒一般職の16名の方々がご入社辞退となり、心よりお詫びいたします。
大変申し訳ありませんが、写真のコンクリート剥き出しの場所は洗濯機置き場で、現在は既に洗濯機が置いてありますので現状の映像は異なっています。今回、工場配属の一般職ご入居の皆さまに対し、十分なご説明を申し上げることができませんでした点を深くお詫びいたします。雨漏りは改修手続きを既に開始しております。また畳の交換も近日実施予定でございます。
弊社のシェアハウスの現状は既にHPに映像を掲載しておりますが、全件健全で居住場所としては適切な物件を内検の上、選択しておりますのでご安心ください。このたび、責任者の死亡により作業指示が大変に遅れ、皆さまに非常にご不快をおかけしています。早急に誠意をもって、早期の改修を完了いたします。
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(文=Business Journal編集部)