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『新プロジェクトX』全世代で高い離脱率…現代と齟齬、現実を無視した感動演出

文=Business Journal編集部、協力=鈴木祐司/次世代メディア研究所代表
『新プロジェクトX』全世代で高い離脱率…現代と齟齬、現実を無視した感動演出の画像1
(C)次世代メディア研究所

 2000年から約5年半にわたり放送され大きな反響を呼んだNHKのドキュメンタリー番組『プロジェクトX〜挑戦者たち〜』。それが『新プロジェクトX〜挑戦者たち〜』として18年ぶりに復活し、4月からスタートし好評だ。ビデオリサーチ発表の世帯視聴率も6日放送の第1回が11.1%(関東地区)を記録するなど、数字にも好調ぶりが表れているが、次世代メディア研究所代表の鈴木祐司氏は、番組の内容が現代の状況と齟齬(そご)を起こしており、テレビ関係者の間では厳しい評価も少なくないと指摘する。そこで、鈴木氏に解説してもらう。

現代と合っていない

 春編成が始まって1カ月。話題になった新番組のひとつが、18年ぶりに復活した『新プロジェクトX』だった。日本人が忘れかけた勇気と元気を取り戻すとして、“失われた10年”のタイミングで前シリーズは2000年に始まり大ヒットした。そして今年、“失われた30年”を経ての新シリーズとなった。

 第1~4話の視聴率は好調で、SNS上でも高く評価する声が多い。ただしテレビ関係者には厳しい声が少なくない。しかも視聴データを分析すると、同番組が現代と合っていないという危惧が浮かんでくる。かつて“プロジェクトX現象”ともてはやされた番組独特の美学が、製造業からサービス・コンテンツビジネスへの展開が急務となった今の日本をミスリードするかもしれないからだ。

歪な見られ方

 第1話は東京スカイツリー建設、第2話はカメラ付き携帯電話の開発、第3話は三陸鉄道の復旧、そして第4話は黒四ダム建設(前シリーズ再放送)がテーマとなった。

 視聴者は極端に中高年に偏っている。特に65歳以上は圧倒的だが、若者はじめ49歳以下にはあまり支持されていない。報道番組・ドキュメンタリー・ドラマなど、NHKの番組は全般的に若者に見られていない。かつての人気番組をもってしても、この歪(いびつ)な見られ方は変わらないようだ。

第1~4話の視聴率推移

 ここまでで早くも課題が露呈している。復活した『新プロジェクトX』の致命的な欠陥を象徴していると筆者には思われる。

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(C)次世代メディア研究所

 視聴率全体は微減と健闘している。第1話の値を1として第2話以降を指数で示すと、第3話までで9ポイント減にとどまり、第4話でも1割の落ち込みで済んでいる。

 ところが若者視聴者の動向は異なる。Z世代(10代後半から20代)だと、3話目までに4割近くが逃げてしまった。中高生だと4分の3が脱落した。明らかに番組は若者に受け入れられていない。

 ただし特筆すべき点もある。第4話で若年層が大きく復活した点だ。第2話のカメラ付き携帯は、若者にもなじみのあるテーマだ。ところが第3話の東日本大震災とそこからの復興は、自分事にならない人が多かった。これも視聴率急落の要因だった可能性がある。ところが黒四ダムは日本人の多くが知る圧倒的な存在。その難工事の物語は、大いに若者を惹きつけたようだ。

職業別の視聴率

 では働く大人たちは同番組をどう見ているのか。

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 平均値では、第3話までに7~8ポイント減、第4話で16ポイント減となった。実際に仕事をする人々にとっても、違和感がじわじわ広がっている。ただし職業別にみると、受け止められ方に明暗がある。「技能・生産職」や「技術職」では第2話のほうが第1話より高い。評判を聞いて見始めた人が少なくなかったようだ。やはり現場の人々には響く内容といえよう。

 ところが「経営部門」で働く人々は逆だった。早くも第2話で7ポイント落ち、第4話では12ポイントも下落していた。会社組織の全体を見渡す立場の人々には、やはり異なる感想があるようだ。「接客業」の人々は、さらに大きく脱落した。第2話で1割、第4話では4分の1の人が見なくなった。多様な人と接する人々も番組に違和感があったようだ。

立場で異なる視聴率

 仕事場での立場でも視聴率は異なった。

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(C)次世代メディア研究所

「役員・部課長」などの管理職は第2話以降で1~2割の減少となった。「非管理職」では、男性も女性も第3話までに3割ほど脱落した。そして「非正規」も落ち方がひどい。男性は第2話で3割減、女性は回を追うごとに1割ずつ減り、第4話では3割減となった。

 同番組は基本的にプロジェクトのリーダーとその命を受けたエリートたちの物語だ。その構造に「非管理職」や「非正規」の人々は共感できなかったようだ。しかも登場したヒーローたちは全て男性。「男たちは頑張った」と独特のナレーションが繰り返されるたびに、引いてしまった女性が少なくなかったようだ。「非管理職」も「非正規」も、女性は3割前後が脱落していた。

年齢別の視聴率

 年齢別の視聴率動向も興味深い。「経済ビジネスに関心あり」層を年齢別に分析してみよう。

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(C)次世代メディア研究所

 全体平均は徐々に下がり、第3~4話では1割強の下落となった。変化の激しい競争社会で戦う人々にとって、やはり番組は少し違和感がある。これが40~50代の現役バリバリ層だと、第2~3話は1割強の下落となったものの、黒四ダムのような歴史的偉業には目を引かれたようだ。

 興味深いのは60歳以上の現役を引退した層。話題を聞きつけたのか第2話は上昇したが、それ以降は下落の一途だ。“失われた30年”という日本経済の低迷を直に体験してきた層だ。どうやら番組が描く成功物語に異論がありそうだ。

 問題なのは39歳以下の若年層。第2話で4分の1、第3話では3分の1が脱落した。「経済ビジネス」に関心はあるものの、生まれた時から“失われた30年”だった層には、番組が描く成功物語が絵空事に見えているのではないだろうか。「自分たちが直面するビジネスの世界と違い過ぎる」という不満の声が聞こえそうだ。

時代とミスマッチ

 以上のデータは、番組と時代状況とのミスマッチを示している。番組内に登場する人々の奮闘ぶりは感動的だった。ところがそこだけを切り取り、時代状況を無視する作り方に違和感が残る。構造物としての東京スカイツリー建設は確かに偉業だ。ところが番組には、電波からIP網へ移行する時代への目くばせがない。小さな端末にカメラを搭載したのも素晴らしい。ところがSNSの時代へと移行する中、日本企業は次々と地盤沈下した。製造業からシステムやサービス設計が肝(きも)となる状況を番組は描かない。三陸鉄道の復旧も感動的だ。ただしローカル線は経済合理性の問題から、各地で次々と消えようとしている。こうした状況を無視した局所的な感動はどうなのか。

 メディア関係者や専門家のなかには、新シリーズへの批判がある。テーマがものづくりだけに絞られ、前シリーズと同じように感動を強調するための厚化粧演出になっているからだ。

「不屈」
「退路を断つ」
「存続の崖っぷち」

 令和の現代なのに、番組は男たちの浪花節オンパレード。しかし日本の製造業は、インターネットやSNSを前提とした海外のサービスに敗れ続け、日本経済はコンテンツやサービスなど新たな領域への展開が求められている。こんななかで強調される「妻との約束」や「亡き上司への誓い」など。読後感が情緒たっぷりの使い古された感動では、視聴者の思考停止を誘発し、より本質的な問題を覆い隠すという意味で時代をミスリードしないだろうか。

 若者・女性・時代を俯瞰(ふかん)する人々が違和感を抱いているとしたら、『新プロジェクトX』は現代と正しく向き合っているとはいえない。“失われた30年”からの脱出が視野に入っているのなら、グランドデザインを考えるような作りもぜひ考えるべきだ。

(文=Business Journal編集部、協力=鈴木祐司/次世代メディア研究所代表)

鈴木祐司/メディアアナリスト、次世代メディア研究所代表

鈴木祐司/メディアアナリスト、次世代メディア研究所代表

東京大学文学部卒業後にNHK入局。ドキュメンタリー番組などの制作の後、放送文化研究所、解説委員室、編成、Nスペ事務局を経て2014年より現職。メディアの送り手・コンテンツ・受け手がどう変化していくのかを取材・分析。特に既存メディアと新興メディアがどう連携していくのかに関心を持つ。代表作にテレビ60周年特集「1000人が考えるテレビ ミライ」、放送記念日特集「テレビ 60年目の問いかけ」など。オンラインフォーラムやヤフー個人でも発信中。
次世代メディア研究所のHP

Twitter:@ysgenko

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