スズキの「ワゴンR」に約10年乗っているユーザーがある日、助手席シートの座面が開閉式になっており収納スペースがあることを知って驚いたというSNS上の投稿が話題を呼んでいる。他の車種でもこのように「ユーザーですら知らない意外な便利機能」というのは多いのか。専門家の見解を交え追ってみたい。
2023年の国内新車販売台数が前年比13.8%増の477万9086台となるなど、旺盛な需要に支えられる自動車市場。同年の車名別新車販売台数・軽自動車ランキングで6位となった「ワゴンR」は、1993年に発売され軽自動車ブームの火付け役となった車として知られている。広い室内空間や軽ワゴンNo.1の燃費性能、高い走行性能などが特徴で、日常生活における使い勝手の良さをとことん追求していることから高い人気を誇っている。
現行の6代目の具体的な特徴としては、
・モーターで低燃費をアシストする「マイルドハイブリッドシステム」
・補強部品を減らしながら基本性能の向上と軽量化を両立するアンダーボディー構造「ハーテクト」
・夜間の歩行者も検知する衝突被害軽減ブレーキ、車線逸脱抑制機能、ハイ/ロービームの切り替え忘れを予防するハイビームアシスト、全方位モニター用カメラ、誤発進抑制機能、後方誤発進抑制機能などからなる「スズキ セーフティ サポート」
などが挙げられるが、収納機能の優秀さも多くのファンを獲得する要因の一つとなっている。広い室内空間に加え、リヤシートはバックドア側からもワンタッチで倒すことができ、さまざまな用途を想定したドアポケット収納も豊富。そして、助手席の座面下に備えられた助手席シートアンダーボックスも「ワゴンR」ならではの嬉しい装備だが、前出の投稿をしたユーザーは10年も乗っているにもかかわらず、この存在を知らなかったといい、
<愛車に驚愕の機能が付いてたのを知ってしまった>
<助手席のクッション持ち上げて中に物いれられたのかお前…>
とつぶやいている。「ワゴンR」の助手席の座面と背もたれの境目には、座面を持ち上げて開けるための紐が付いているが、この投稿者が中古車として購入したときからシートカバーがかけられていたため、この紐の存在に気が付かなかったという。
ちなみに23年の車名別新車販売台数・軽自動車ランキング1位のホンダ「N-BOX」にも便利機能がある。パーキングブレーキをかけ忘れて降車してしまった場合にパーキングブレーキが自動でかかるように設定できるというもので、設定方法は以下のとおりとなっている。
・アクセサリーをオンにしてシフトレバーをPにいれる
・ブレーキペダルを踏まずにパーキングブレーキスイッチを引き上げる
・音が鳴ったら手を離して3秒以内に再びパーキングブレーキスイッチを引き上げる
・音が鳴ったら手を離す
日本の自動車メーカーが得意とする“おせっかい装備”
このような、意外にあまり知られていない車の便利機能というのはあるのか。中古車販売店経営者で自動車ライターの桑野将二郎氏はいう。
「ペーパーレスの時代となり、クルマの取扱説明書もウェブからPDFをダウンロードして読んでくださいというブランドがあるなかで、愛車の機能を完璧に把握している人のほうが少ないのかもしれません。
ワゴンRに伝統的に装備されている助手席シートアンダーボックスは、実は初代モデルが登場した1993年からずっと変わっていません。意外と古くからある装備なんです。ワゴンRでの採用でユーザーから高評価を得た結果、最近のスズキ車の多くに採用されており、今ではダイハツやトヨタ自動車、ホンダ、三菱自動車など各メーカーが採用しています。
同じような“隠れた便利装備”としては、シートアンダートレイが代表的だと思いますが、これはもう国産メーカーだけでなくワールドワイドに普及している装備です。また、ドアポケットが分割式になっていたり、グローブボックスも上下二段になっていたり、トランクデッキが二重蓋になっていたりと、最近のクルマは収納スペースがどんどん広がっている印象です。
収納スペースをかせぐ“隠し装備”だけでなく、日本の自動車メーカーが得意としているのが“おせっかい装備”の数々。最近ですと、コンビニフック(コンビニの袋を引っ掛けるフック)や、ドリンクホルダーの横にペットボトルの蓋を置くためのトレイが設置されている車種などもありますが、その用途や目的を知らずに乗っている人が多くいると思います。シートアンダーボックスやシートアンダートレイ、グローブボックスを開けたことがなく、何も収納していないというドライバーが最近は増えているとディーラーに話を聞いたことがあります。
新車を買われた方は取扱説明書をそれなりに読破するかもしれませんが、中古車を買われた方のなかには、取扱説明書が紛失されていて読んだことがないという方もいたり、愛車の機能や装備を半分ほどしか理解していないというケースも珍しくないようです」
世相を象徴するクルマの装備
過去には驚くような装備を持つ車種もあったという。
「クルマを運転するうえで、あってもなくても変わらない装備というのは、メーカーや生産国ごとの考え方の違いが現れていたり、時代が反映されていたりして、興味深いところもあります。とくに日本車は昭和の頃から、ビックリするような装備が次々と現れては消えていきました。
・製氷機付きの冷蔵庫、湯沸かし器(トヨタ『100系ハイエース』)
・移動式FAX(トヨタ『初代セルシオ』)
・加湿器や空気清浄機(日産自動車『初代シーマ』)
・ワイパー付きミラー(日産『初代レパード』)
・サイドガラスワイパー(トヨタ『6代目マークⅡ』3兄弟)
・運転席ドアの傘収納(日産『パルサー』)
・クルマのキーにダイヤモンドを埋め込み(日産『初代シーマ』)
どれもバブル期までの装備群ですが、世相を象徴するように贅沢装備が目をひきます。それが平成~令和と時代が流れるなかで、収納や車内スペースの拡大といった、利便性と合理性の追求へとベクトルが変わっていくわけです。その代表例が、シートアンダーボックスやシートアンダートレイの普及なのではないでしょうか。
欧州車ですと、例えばVWビートルの一輪挿しとか、ボルボについている透明のクリップ(大陸横断の際にパスポートを挟んでおいて提示するための装備)など、洒落が利いていたり、お国柄が見られます。近年のグローバル化によって、こうした装備はどんどん画一的になっていますが、自分の愛車に隠された機能や装備を今一度探してみるのも、面白いかもしれませんね」
(文=Business Journal編集部、協力=桑野将二郎/自動車ライター)