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ある経営者「社外取締役は時給165万円。女性にはいいお仕事」発言が議論呼ぶ

文=Business Journal編集部、協力=中沢光昭/リヴァイタライゼーション代表
ある経営者「社外取締役は時給165万円。女性にはいいお仕事」発言が議論呼ぶの画像1
「gettyimages」より

 YouTube上で公開された、経営幹部人材の紹介などを手掛ける企業の女性経営者へのインタビュー動画で、この経営者が社外取締役という仕事について「勤務時間は月に2時間で時給165万円」「女性にはすごくいいお仕事」「ドリームのあるお仕事」と解説していることを受け、一部で議論がわいている。現在、社外取締役という制度は十分に機能しているのか。また、なぜ高額な報酬が支払われているのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。

 2021年の改正会社法の施行に伴い、以下の要件をすべて満たす企業は1名以上の社外取締役を設置することが義務付けられた。

・監査役会設置会社であること
・公開会社であること
・資本金が5億円以上、または負債総額が200億円以上の株式会社であること
・有価証券報告書の提出義務を負っていること

 東京証券取引所が定める「コーポレートガバナンス・コード」によれば、社外取締役の役割は、企業の持続的成長を促すために株主をはじめとするステークホルダーの観点から経営者を監督することとされる。

 設置の義務化に伴い、ダイバーシティの観点などから女性の社外取締役も増えている。経営のプロ以外でも、中井美穂氏(メディアシーク)、内田恭子氏(キッズスマイル ホールディングス)、中野美奈子氏(四電工)、木場弘子(JR東海)などの女性アナウンサー、高橋尚子氏(スターツコーポレートサービス)、福原愛氏(琉球アスティーダスポーツクラブ)、有森裕子氏(リーフラス)などの元スポーツ選手、酒井美紀氏(不二家)、生稲晃子氏(田谷)などの女優・タレントなど、多彩なバックグラウンドを持つ人物が起用されるケースも少なくない。一社あたりの役員報酬としては数百万円から2千万円ほどに上る人もいる。

「4社受けて、もう80万円ですから」

 そんな女性の社外取締役に関する前述のある経営者の解説が議論を呼んでいる。インタビュー動画内で、女性の社外取締役に向いている人、向いていない人はいるのかという質問に対し、「いないです。簡単にいうと、企業との相性次第です」と説明。また、社外取締役の報酬について次のように説明している。

「月10万円くらいの会社から、一番高いところで日立製作所さんの年間4000万円」

「勤務時間は月に2時間が基本です。なので4000万円の方だと、月収333万円、時給165万円くらいになるという。すごくドリームのあるお仕事」

「一人あたり4社くらいまで受けられるので、月10万、20万くらいの会社だとしても、4社受けて、もう80万円ですから」

「女性のキャリアとして、子育てとかしながらやるには、すごくいいお仕事だと思ってます」

 これを受け、社外取締役の報酬を時給換算している点などについて、さまざまな声が寄せられている。

機能しない社外取締役という制度

 現在、社外取締役の制度は、十分に機能しているといえるのか。数多くの企業再建を手掛けてきた企業再生コンサルタントで株式会社リヴァイタライゼーション代表の中沢光昭氏はいう。

「機能できるはずがありません。能力や時間の点と仕組みの点と双方に問題があります。能力の点については、限られた情報、しかも“取締役様”向けに綺麗に整えられた情報をもとに、常勤取締役と健全な議論が交わせることができる人はものすごく限られています。私は1社だけ非上場の会社で社外取締役をやっていますが、実働スタッフと直接ヒアリングを重ねたりして情報の非対称性、情報格差ができるだけ生じないようにして、常勤取締役と健全な議論ができています。時間的な事情もあり、そこまでやっている人は恐らく少ないでしょう。また仮にできたとしても、組織として良い結果へと導くための建設的な議論が常勤取締役と交わせるのかどうかという点もあります。『あれやこれは、本当に大丈夫なのでしょうか?』などそれっぽい表情をして曖昧な質問を投げかけることは誰でもできる簡単なことです。建設的な議論とはいえません。

 仕組みの面でいうと、自分がお金をもらっている会社に対して忖度ナシに発言できる人は稀有でしょう。高額な報酬をもらっていればいるほどです。私は会社からの役員報酬としてはもらわず、オーナー・出資者へのアドバイザーおよび業務代行の一環として位置付けているので、忖度なしに会社として良い方向に行くかどうかだけを考えて社長以下常勤取締役たちと話せています。厳しい意見を言えば、その内容が正しければオーナーから褒められますが、上場企業の“お飾り社外取締役”は会社から高額な報酬をもらっているので、地位継続が第一になり、厳しい意見なんて言えるはずがありません。

 私の知り合いにも上場企業の社外取締役になっている人は何人もいますが、全員共通して『美味しい立場』というトーンで話しています。働かなくてもよくて成果の評価も受けず、見栄えが良くてお金がもらえる最高の立場、という意味です。そうした社外取締役の周辺の知人友人でさえも、おかしな仕組みだと思っていても、そうした人たちもきっかけさえあればどこかの社外取締役になれそう・なりたい人が多いので、決して批判を口にはしません。当事者や候補者が皆そう言ったり思ったりしているような仕組みは、会社の生え抜きの人たちの意欲を削ぐでしょうし、ただの格差助長の仕組みに見えます。今回の話題になっている経営者の発言は、そうした本音が出ているといえるのではないでしょうか」

責任限定契約で責任から解放

 社外取締役という制度には、どのような問題があるのか。

「日本取引所が本気でやりたいのであれば、上場企業が会費のようなものを払って、日本取引所から個別に上場企業と相談して最適な社外取締役に報酬を払えばいいのではないでしょうか? そもそも、社外取締役の設置を強制される意味がわかりません。各社の判断で必要ならば雇えばいいですし、必要ないと思わなければ雇わなくていい。それで会社が悪くなって株価が落ちたら自業自得です。なかば強制的になってきたのは、官僚の方々や進言している学者や著名コンサルタントの方々が、自分が就けるポストが欲しかっただけではないでしょうか。

 せめて、責任レベルを常勤取締役と同じにしてもいいのではないでしょうか。情報アクセス権限も常勤取締役と同じにして、やる気のある人は頑張って貢献できるようになれば、バランスは取れると思います。『社外取締役は社内事情や隠されていた情報は知らないのはしょうがないから、責任も軽いよね』という前提のもと、形式的には責任限定契約で責任から解放されています。責任も軽く、やれることもそんなになければ、会社の成長にどう貢献できるのでしょうか? 特定の分野の知見がある人材が必要というのであれば、適切な対価を払ってアドバイザーやコンサルタントを雇えばいいでしょう。そうした人たちは役に立たなければ解任できますが、社外取締役は年1回くらいのタイミングしかスムーズにクビにできません。良い報酬と社会的な名声が得られるという、現在のビジネス界で稀有な美味しい立場ではないでしょうか」(中沢氏)

社外取締役を実質的に強制する制度は見直すべき

 女性の社外取締役を紹介するサービスも存在するが、女性の社外取締役へのニーズは高いのか。

「ニーズが高いのは『経営陣に多様性を取り入れるべき』と官僚の方々や日本取引所が言っているからでしょう。各社個別の事情があるのでしょうから、社外取締役が必要な会社もあれば必要ない会社もあるので、強制するような流れはおかしいと思います。ミスマッチな人材が社外取締役に就任しても、社内では誰も批判できないことが問題の放置につながっています。そして割を食うのは、社外取締役の報酬の原資を一所懸命に毎日働いて生み出している一般従業員です」(中沢氏)

 一部の企業では社外取締役に、その従事時間の割に高額な報酬が支払われるケースも少なくないが、その理由はなんなのか。

「そのような会社の金銭感覚がおかしいだけではないでしょうか? 役に立たない人に高いお金を出す会社は、体質が見栄っ張り、つまり、それっぽい肩書の人に椅子に座ってもらって体裁を整えることに対価を払っているということになります。組織の下のほうで日々頑張っている一般の従業員が、本当に可哀想です。生え抜き従業員や顧客サービスあるいは株主還元に向かえるお金を、見栄や体裁に使えてしまう会社を増やすような仕掛けが、なぜ進んでしまったのか不思議です。社外取締役を実質的に強制する制度は見直すべきではないでしょうか?」(中沢氏)

(文=Business Journal編集部、協力=中沢光昭/リヴァイタライゼーション代表)

中沢光昭/株式会社リヴァイタライゼーション代表

中沢光昭/株式会社リヴァイタライゼーション代表

企業再生コンサルタント兼プロ経営者。
東京大学大学院工学研究科を修了後、経営コンサルティング会社、投資ファンドで落下傘経営者としての企業再生に従事したのち、上場企業子会社代表を経て独立。雇われ経営者としてのべ15期以上全うし、業績を悪化させたのは1期のみ。
事業承継問題を抱えた事業会社を譲受け保有しつつ、企業再生とM&Aをメインとしたコンサルティングおよび課題内容・必要に応じて半常勤による直接運営・雇われ経営者も行う。シードステージのベンチャー企業への出資も行う。
株式会社リヴァイタライゼーション 代表・中沢光昭のプロフィール

Twitter:@mitsu_nakazawa

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