ビジネスジャーナル > 企業ニュース > みずほFG、旧3行でトップ分け合い
NEW

絶望の「みずほFG」再び旧3行でトップ分け合い、システム障害でも社外取締役が全員留任

Business Journal編集部
絶望の「みずほFG」再び旧3行でトップ分け合い、システム障害でも社外取締役が全員留任の画像1
みずほ銀行の店舗(撮影=編集部)

 みずほフィナンシャルグループ(FG)は相次いだシステム障害の責任をとって3首脳が一斉に退陣。新しい社長、会長が1月17日に正式に決まった。結果は、旧3行がトップを分け合う、旧態依然とした内向きのトップ人事である。みずほFGの再出発は期待薄だ。

 21年11月26日、金融庁は8度のシステム障害を起こしたみずほ銀行と持ち株会社みずほFGに、業務改善命令を出した。「短期間に複数のシステム障害を発生させ、個人・法人の顧客に重大な影響を及ぼした」と経営陣の責任を厳しく追及した。これを受け、みずほFGの坂井辰史社長(旧日本興業銀行出身、62)とみずほ銀の藤原弘治頭取(旧第一勧業銀行出身、60)が22年4月1日付で辞任予定。みずほFGの佐藤康博会長(旧興銀出身、69)も同日付で会長職を退き、6月の株主総会で取締役を退任することになった。

 10年におよんだ旧興銀の支配は終焉するはずだったが、坂井社長の後任も興銀出身の木原正裕執行役(56)が昇格。4月から2月1日に2カ月前倒しされた。佐藤会長の後任は旧第一勧銀出身の今井誠司副社長(59)に落ち着いた。今井副社長の就任は4月1日付だ。木原・新社長の弟は岸田文雄首相の懐刀といわれている木原誠二官房副長官であることから、政界からも注目される人事となった。指名委員会委員長の甲斐中辰夫弁護士は1月17日の記者会見で「弟が政治家ということは考えていない。金融庁は政治家を利用した空中戦は最も嫌う」と述べた。

 みずほのトップ人事で想定外だったのは木原・新社長の就任が2カ月前倒しされたことだけだ。

ガバナンスの脆弱性

 業務改善命令を出した金融庁が最終的に問うたのは、システム障害の背景にあるガバナンス(企業統治)の脆弱性だ。金融庁は業務改善命令で「取締役会が坂井社長ら執行部門に対して適切な指示を与える態勢になっていなかった」と指摘した。みずほFGの取締役会の構成は、計13人のうち社外取締役が6人を占めている。今回の処分は、社外取締役の責任を問う過去に例のない内容となった。

 2013年に明らかになった反社会的勢力への融資問題を機に、大手行のなかで最も早く「指名委員会等設置会社」に移行した。坂井社長の選任も社外取締役だけで構成する指名委員会が主導した。当時の、みずほの最大の課題は、他のメガバンクと比較してコスト高の構造だった。コスト削減に力を発揮するとの判断が、坂井社長が選出される決め手になったとされる。坂井氏は18年の就任以来、構造改革に邁進。19年度からの5カ年計画で、人員や国内拠点の削減を進めた結果、17年9月中間期に76.4%だった経費率は21年9月中間期には60.2%まで低下。ライバルの三井住友フィナンシャルグループを下回った。

 副作用も生じた。システム関連の人員削減を進めた結果、勘定系システム「MINORI」で一連のシステム障害が頻発した。21年6月に第三者委員会が公表した報告書によると、「MINORI」の開発や運用に関わった人員はシステム稼働前の約1100人からおよそ500人(21年3月末)に半減した。

 金融庁は、取締役会について「システムリスクに直結する怖れのある人員の削減計画や業務量の状況について十分な審議を行っていない」と指摘した。「社外取締役は執行部の説明を追認するばかりでチェック機能が不十分だった。社外取締役が多数で構成するリスク委員会や監査委員会が機能していなかった」ことを問題点として挙げた。

真の意味で「独立した」社外取締役で構成されていない

 みずほのガバナンスの形態は指名委員会等設置会社である。取締役会の権限は強く、執行部門の監督が主な責務となる。6人の社外取締役は小林いずみが取締役会議長に就いているのをはじめ、甲斐中氏が指名委員会、山本正巳氏が報酬委員会、月岡隆氏が監査委員会の各委員長を務めている。

 欧米では金融機関の取締役会が重大な不祥事を見逃した場合、巨額の損害賠償請求や重い刑事罰を科すことがある。リーマン危機の経験から公共性の高い金融機関の取締役は株主のみならず社会に対して一段と高い公的責務を負うとの認識からだ。だが、みずほの一連のシステム障害で社外取締役がどう対応したのか見えてこない。

 社外取締役の最大の仕事であるガバナンスの機能不全の責任をとって辞任を申し出た社外取締役は一人もいない。「システム障害という経営の根幹にかかわる問題解決に貢献できなければ社外取締役は全員交代すべきではないか」(企業ガバナンスに詳しいアナリスト)との声が出るのは当然の帰結である。

 小林いずみはANAホールディングス、三井物産、オムロンの社外取締役を掛け持ちする“タレント取締役”である。障害を重ねた元凶と呼ばれているシステムベンダーの一社は富士通だが、社外取締役の山本氏は富士通の元社長で利害関係者である。社外取締役がシステム障害の実態把握や問題解決にどれだけの時間とエネルギーを注いだのかとの疑問が湧く。

 みずほは「社外取締役の機能不全」を早急に是正するために、いくつかのアクションを起こす必要があったのだが、実際に行われたかどうか確認できない。取締役会の大半を、真の意味で「独立した」社外取締役で構成すべきなのに、そうはなってはいないのが実情だ。

 実務に密接に関わるパートナー企業の利益代表ともいえる社外取締役が経営陣と一体となって議決権を行使できないようにするためには、株式の持ち合いを解消するか、持ち合いを大幅に縮小することが必要だが、みずほFGにその動きはなかった。

「6人いる社外取締役をさらに増員することを検討する」と報じられ、1月17日、みずほ銀行は日本IBMで副社長を務めた下野雅承氏を招く人事を発表した。今後も大手企業の元経営者を軸に、6月の株主総会に向けて社外取締役の人選を急ぐことになるという。

 みずほFGの坂井社長の後任の木原氏は、問題を多く含んだままの現行の指名委員会が選んだ。同委員会は委員長の甲斐中氏と小林喜光氏、月岡氏、山本氏、小林氏の合計5人の社外取締役で構成されている。

 金融庁から「人材像について、十分な議論を行っていない」と指摘された取締役会、指名委員会が後任社長を選んだわけだ。従前のルールのままでいいのか、といった議論がきちんとなされた痕跡はない。指名委は金融界やマスコミの批判に頑なになったとの見方さえある。

 業務改善命令で、みずほFGは1月17日までに業務改善計画や経営責任を明確にする報告の提出を求められていた。スケジュールありきではなかったのか。木原・新社長、今井・新会長もこのスケジュールに合わせて、バタバタと決められた。次期社長を正式に発表する段階で「誰を、どういう基準で選考したのか」について、社外取締役は記者会見を開き、詳細にわたって説明することが強く求められていた。

 1月17日の木原・新社長のお披露目会見に同席した甲斐中氏は「外部から専門知識のない人がメガバンクのトップを務めるのは難しい」と発言。「外部人材をトップに据えるくらいの思い切った人事・組織改編が必要」という指摘を一蹴した。それでも甲斐中氏は「外部のCEOを招聘するという選択肢は当然あった。外部の調査機関に依頼して候補者をリストアップしてもらう段階では外部候補者もいた」と認めた。しかし、「専門知識のある人で、(みずほFGのトップに)適任という人はいなかった」とした。

お飾りでしかなかったのか

 みずほFGは14年4月24日、指名委員会等設置会社(以下、委員会設置会社)に移行した。指名・報酬・監督の3つの委員会を置く株式会社のことで、社外取締役を各委員会のメンバーの過半数にしなければならない上に、人事や報酬の決定で強い権限を持つ。業務執行は執行役が担うことで、経営の監視と執行を分離し企業統治を強める狙いが本来はある。

 委員会設置会社への移行は3メガバンクで最初だった。みずほは指名委員会の4委員をすべて社外取締役にし、社外の役員に全面的に委ねることとなった。14年6月の定時株主総会で新体制が発足した。新体制の要となる取締役会議長には元経済財政政策担当相の大田弘子社外取締役が就任。社外取締役には元昭和電工社長・会長の大橋光夫氏、元新日鉱ホールディングス(現・ENEOSホールディングス)会長・野見山昭彦氏、元日立製作所会長の川村隆氏、甲斐中氏、元日産自動車副会長の安楽兼光氏が名を連ねた。

 現在、社外取締役にとどまっているのは甲斐中一人だけ。この間、新日鉄(現・日本製鉄)元副社長の関哲夫氏、公認会計士の阿部紘武氏の2人が社外取締役に就いている。18年4月1日、佐藤社長が会長に退き、後任にみずほ証券の坂井辰史社長がなった、証券子会社の社長からFG社長という前例のないルートだったことでトップ人事は二重の意味でサプライズとなった。

 坂井社長誕生のポイントは、本命を目された人物が持ち株会社の社長になれなかったことと、旧日本興業銀行の支配が連綿と続くことだった。木原・新社長も旧興銀の出身だ。興銀の支配が継続されるとしか映らないのは、人事の刷新という観点から見てもマイナスである。

 社外取締役は執行部があげてきた、自分たちに都合の良い人物を追認するしかないのが実情だという指摘もある。みずほFGも、社外取締役がトップを決めることに形式的にはなっているが、結局は執行部の意向が反映されただけだといわれ続けてきた。

 木原氏が旧興銀だからバランス上、会長は旧一勧の出身者がいいということになり、木原氏より年長である今井氏が会長の椅子に座ることになったのではないのか。みずほ銀の頭取が旧富士出身者だから、これで完全に旧3行のバランスの上に安住した人事ができ上がった。

 社外取締役によるガバナンス体制は、絵に描いた餅に陥りやすい。今回のみずほFGの内向きの旧態依然としたトップ人事の決め方を見ていると、みずほFGも例外ではなかったということになるだろう。甲斐中指名委員長は「危機的な状況での人選だから、バランスを取るとか、興銀支配を維持するということを指名委員会が考えるなら、それは指名委員として失格。適材適所で配置を考えた」と言い切っている。

 みずほFGのトップ人事は、「みずほFGは変わらない、変えようとしなかった」(関係者)ことを印象付けるだけで終わった。2000年9月の3行統合後に入行した「みずほ入行組」がトップになるまで旧行意識の改革は先送りされる、といった冷めた声が銀行内から流れてくる。

(文=編集部)

【みずほFGの社外取締役】

・甲斐中辰夫(82) 指名委員会委員長  元最高裁判所判事

・小林喜光(75)            元三菱ケミカルホールディングス社長・会長

                    東芝元社外取締役、取締役会議長

                    東京電力ホールディングス取締役会長

・佐藤良二(75)            公認会計士

・月岡隆(70)   監査委員会委員長  元出光興産社長・会長

・山本正巳(68)  報酬委員会委員長  元富士通社長・会長

・小林いずみ(63) 取締役会議長    元メリルリンチ日本証券社長

絶望の「みずほFG」再び旧3行でトップ分け合い、システム障害でも社外取締役が全員留任のページです。ビジネスジャーナルは、企業、, , の最新ニュースをビジネスパーソン向けにいち早くお届けします。ビジネスの本音に迫るならビジネスジャーナルへ!