世界的な高級ファッションブランド「ディオール」の約2780ドル(約44万9100円)のバッグについて、製造業者に支払われている代金が57ドル(約9200円/原材料費を含まない)であることがわかった。12日付「BUSINESS INSIDER」記事が報じている。ジョルジオ・アルマーニの1900ドル(約30万6000円)以上するバッグは製造業者に支払われている代金が99ドル(約1万6000円)だとも報じられているが、一般的に高級ブランド品の原価率はどれくらいなのか。また、ファストファッションチェーンの商品と品質に差はあるのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。
70以上ものブランドを傘下に持つ世界最大の高級ブランドグループ、仏LVMHモエヘネシー・ルイヴィトン。「LOUIS VUITTON(ルイ・ヴィトン)」「BVLGARI(ブルガリ)」「Tiffany & Co.(ティファニー)」「CELINE(セリーヌ)」「FENDI(フェンディ)」のほか、高級ワインブランド「ドン・ペリニヨン」「CHANDON(シャンドン)」なども保有。年間売上高は861億ユーロ(約13兆7900億円/2023年12月期通期決算)にも上る。巨大グループを率いるべルナール・アルノー会長兼CEOは大富豪としても知られており、24年の米誌フォーブス「世界長者番付」では推定保有資産額が2330億ドル(約35兆円)で世界1位となっている。
LVMHが世界トップの高級ブランドグループに成長する契機となったのが、1989年のクリスチャン・ディオールの買収だ。2017年にはLVMHがウエアやジュエリーなどを扱うクリスチャン ディオール クチュールを買収し、「ディオール」ブランドは完全にLVMHの傘下となった。
ディオールと日本の関係は深い。ディオールは日本に初めて進出した西洋のファッションブランドといわれており、東京でディオールが初めて日本人モデルを起用したファッションショーを開催したのは1953年のこと。現在、国内に約20店舗を展開している。
ジョルジオ・アルマーニは独立系のブランド。日本では銀座タワーをはじめ約20店舗を展開している。
売れ残りリスクの違い
そんな両ブランドが今、揺れている。前出「BUSINESS INSIDER」記事によれば(報道元はロイター、ウォール・ストリート・ジャーナル)、ディオールから製造を受託する業者には中国の業者もあり、労働者が施設内に寝泊まりして24時間体制で製造しているという。アルマーニもサプライヤーの監督不行き届きで告発され、イタリアの裁判所は労働規定に違反しているとして両社の工場を1年間、司法管理下に置く措置を取ったという。
ディオールの商品で製造業者に支払われる費用(原材料費除く)は販売価格のわずか2%相当、アルマーニは5%相当ということになるが、一般的に高級ブランド商品の原価率はどれくらいなのか。アパレル業界でトレンドリサーチやコンサル事業などを手がけるココベイ社長の磯部孝氏はいう。
「ます前提として、製造原価には原材料費、人件費、付属品、プリントや刺しゅうにかかる費用など商品の製造にかかる費用のすべてが含まれます。原価率は同じアパレルでも業態によって差があり、大まかな数字としては、ファストファッションのユニクロは43~46%、『しまむら』は65%と高めであるのに対し、ハイブランドの三陽商会は36%、オンワードは43%ほどだといわれています。
こうした差は、売れ残りリスクの違いによるものです。『しまむら』は製造した商品はすべて売り切ってしまい売れ残りが生じないようにすることを前提にした原価率になっていると考えられます。一方、ハイブランドはブランドイメージを維持するために安易な値引き販売を避ける傾向があり、ある程度の廃棄コストを見込む必要があるため原価率が低めになります。
また、ハイブランドを求める顧客は、そのブランドの商品を購入する行為、所持したり着る行為そのものにステータスや自己満足を感じるため、一等地への店舗出店や高級感のある外装、スタッフのホスピタリティ向上など商品以外のところにもコストをかける必要があり、それも価格の上昇につながります」
サプライチェーンをめぐるあり方は転換期
今回ディオールとアルマーニで問題となっているのはサプライチェーンに関する部分だが、高級ブランドのサプライチェーンをめぐるあり方は転換期を迎えているという。
「これまでブランドにとってサプライチェーンというのは企業の競争力にかかわる部分なので、企業秘密扱いされてきましたが、SDGsの観点から透明化して開示すべきという流れに大きく転換し、隠すことが許されなくなりつつあります。ファッションの透明性を高める活動を行うFASHION REVOLUTIONグローバルは毎年、ファッション透明性インデックスを発表しており、世界平均スコアは26%です。1位はイタリアのOVSで83%、2位がグッチで80%。日本勢ではユニクロが50%、アシックスが45%、無印良品が28%、ミズノが18%、しまむらは4%となっています。
日本の経済産業省も『繊維・アパレル産業における環境配慮情報開示ガイドライン』を設定し、繊維・アパレル企業に環境負荷低減の情報開示を求めており、従来のような大量廃棄を前提とするビジネスモデルも難しくなりつつあります」(磯部氏)
高級ブランドは販売面でも大きな変化を求められているという。
「ハイブランドでは商品の希少性を保つため生産量・供給量を絞るということが行われています。たとえばエルメスの高級バッグ『バーキン』はオンライン販売や店舗店頭での陳列を控え、エルメスの商品の購入実績が高い上客だけを個室に案内して個別で商品を紹介することで知られていますが、これが事実上の抱き合わせ販売にあたるとして米国で集団訴訟を起こされています。また、ロレックスは10年以上にわたり正規代理店にオンライン販売を禁止して販売を阻害したとして、フランスの競争委員会から9160万ユーロ(約143億円/当時のレート)の罰金が科されました。こうした動向は長期的にみれば、高級ブランドの価格設定にも影響をおよぼしてくる可能性があります」(磯部氏)
アパレルの消費者は大きく2つのタイプに
では、高級ブランドの商品と、たとえばユニクロや「しまむら」など日本のファストファッションチェーンの商品を比較した場合、品質に大きな差があるものなのか。
「評価は難しいです。特にアパレルはバッグや靴などと比べて品質の違いが伝わりにくい面があります。アパレルの消費者は大きく2つのタイプに分けられます。着られればなんでもよいという価値観でアパレル品を単なる日用品と捉えているタイプと、そのブランドの世界観に価値を見いだし、服を身につけることに自己満足を感じるタイプです。後者のタイプにとっては、価格が高いブランド品でもその価格に見合う価値があるということになります。
また、ファストファッションチェーンのように大量生産だと一商品あたりの製造コストは低くなってきますが、オートクチュールやセミオーダー、フルオーダーの場合は手作業が増えて大量生産ができないためコストが高くなります」
(文=Business Journal編集部、協力=磯部孝/ファッションビジネス・コンサルタント)