大手製パン会社・山崎製パンが先月31日、「2024年12月期中間連結会計期間における業績予想値と実績値との差異」を発表。 売上高・純利益ともに予想値を上回る実績値となったが、その理由について<「いのちの道」の教えに従い、すべての仕事を種蒔きの仕事から開始する営業・生産が一体となった部門別製品施策・営業戦略>によると記述。上場企業の公式の決算資料の記述としては異例だとして一部で話題を呼んでいる。
山崎製パンは24年12月期中間決算について、2月時点では売上高6060億円、営業利益240億円、純利益160億円と予想していたが、実績値はそれぞれ6177億円、310億円、216億円と上振れした。その要因について同決算書内で次のように説明している。
<「いのちの道」の教えに従い、すべての仕事を種蒔きの仕事から開始する営業・生産が一体となった部門別製品施策・営業戦略、小委員会による「なぜなぜ改善」により、変化するお客様のニーズに対応した2極化・3極化戦略を推進したことに加え、前期7月に実施した価格改定の寄与もあり、食パン、菓子パン部門を中心に好調に推移いたしました>
<デイリーヤマザキや(株)ヴィ・ド・フランスなどの小売事業が日次管理・週次管理・時間管理の経営手法により回復傾向となるとともに、連結子会社の業績の改善もあり、売上高、利益共に2024年2月14日公表の業績予想値を上回りました>
「いのちの道」とはキリスト教の聖書に出てくる言葉だが、山崎製パンの経営とキリスト教の関係は有名だ。1979年に社長に就任して以降、45年にわたり経営の実権を握る飯島延浩社長は、プロテスタント教会で洗礼を受けた敬虔なキリスト教信者であることが知られている。同社の「経営理念・経営方針」には次のような記述がみられる。
<個人の尊厳と自由平等の原理に基づき、いのちの道の教えの言葉に従い、困難に屈することのない勇気と忍耐とによって、神のみこころにかなう永続する事業の実現を期すこと>
<新しいヤマザキの精神と新しいヤマザキの使命に導かれて、いのちの道の教えの言葉に従い、すべての仕事を種蒔きの仕事から開始する「部門別製品施策・営業戦略」、「小委員会によるなぜなぜ改善」を行ない、次の六つの具体方針の実践、実行、実証に邁進する>
<聖書の教え・キリスト教の精神を基盤とし、ピーター・ドラッカー博士の経営理論に導かれる事業経営を行うとともに、神のみこころにかなう会社にならんとする新しいヤマザキがここからスタートいたしました>
<私は山崎製パンに与えられた神よりの使命、山崎製パンの社会的使命、新しいヤマザキの精神から一時も目を離さず、その実践、実行、実証に徹して努力してまいりました>
<当社はクリスチャンの会社ではなく、聖書の教え・キリスト教の精神に導かれる事業経営を徹底して追求してきた会社であります>
<当社は主イエス・キリストとともに歩む生命の道を一度歩み切る幸いを得、生産部門、営業部門一体となって行う業務執行体制を構築することができました。そして、生命の道全体を導く言葉は「神の国とその義を先ず第一に求めなさい。そうすれば、それに加えてこれらのものはすべて与えられます。」というみ言葉であることを知りました>
山崎製パンに勤務したことがある人物はいう。
「普段働いているなかでキリスト教の存在を感じることはなく、信者ではないと出世できないということもないと思う。製造現場の品質管理は徹底されているが、神の教えに従うというより、食品メーカーとして一般的な取り組みにすぎないだろう」
元外資系経営コンサルティング会社社員はいう。
「経営理念や決算書にまで色濃く宗教色が現れる上場企業はかなり珍しい。企業が社員に特定の宗教の信仰を強要したりすれば信教の自由の面で問題となってくるかもしれないが、そういうことはないようだし、経営自体はうまくいっているので、外野がとやかく口を出す話でもない」
製パン業界で圧倒的なトップ
製パン業界で山崎製パンは圧倒的なトップだ。「ダブルソフト」「薄皮シリーズ」「ランチパック」「ナイススティック」「ホワイトデニッシュショコラ」「ミニスナックゴールド」など長寿シリーズを多数抱える山崎製パン。手掛ける商品は食パン、菓子パン、サンドイッチなどのパン類に加え、菓子類、飲料類など幅広い。このほか、コンビニエンスストア「デイリーヤマザキ」やベーカリーショップの運営なども行っている。そのため企業規模は大きい。年間売上高は1兆円、従業員数は1万9000人を超え、全国に計28の工場・生地事業所を擁している。
業績も好調だ。23年3月期連結決算は、売上高は1兆1756億円(前期比109.2%)、営業利益は420億円(190.5%)、当期純利益は302億円(243.9%)となっている。
そんな同社だが、今年に入り悪いニュースも相次いで流れている。2月に同社の千葉工場(千葉市美浜区新港)で女性アルバイト従業員(61)がベルトコンベヤーに胸部を挟まれ死亡した事故も含めて、同社工場では過去10数年で4件もの死亡事故が起きていることがわかった。4~5月発売の「週刊新潮」(新潮社)は、同社の工場で骨折などのケガをした従業員が出社を命じられたり、現場責任者からベルトコンベヤーを停止しないよう言われていたため稼働させたまま危険な作業をして指が切断される事故が発生していると報道。また、工場では包装済みの袋を開けてパンを取り出し、翌日納品分の袋に入れ直すという消費期限の偽装的行為や、一部店舗に対し本来の納品数・代金分の個数より少ない数量を納品する「中抜き」、ノルマ達成のために店舗から注文を受けていない商品を無断で納品するという行為、商品で問題が発覚すると、その商品を回収するために社員が納品された店舗を回って一般客を装って購入することなどが行われているとも報じられた。
人手作業が多い理由
山崎製パンの工場の実態について、同社の元従業員はいう。
「他社と比べて多いのかどうかは、正直なところよく分かりませんが、指を切断してしまうといった事故はあります。食品工場と聞くと大部分が機械化・自動化されていて人間は機械の操作や管理をメインでやっていると想像されるかもしれませんが、山崎製パンに限っていえば、人手による作業が結構多い。たとえば大きな円形でグルグル巻き状の『ミニスナックゴールド』や、中に板状のチョコが入った白いデニッシュの『ホワイトデニッシュショコラ』も実は人手でパン生地を巻いています。
人手作業が多い理由は、高い品質を維持するためです。そもそもパン生地は粘土より軟らかく、くっついたりするので扱いが難しく、またパンは生地を焼いて膨らませるという性格上、生地と生地の間の微妙な隙間の違いが食感の差を生み、生地を重ね合わせる際も硬く重ねるのか“ふんわり”重ねるのかで出来栄えが変わってきます。定番商品であればあるほど固定客がいるため、少しでも食感や味が変わると『あれ?』と不満を持たれてしまうので、その微妙な匙加減は人手に頼る必要があるのです。加えて、同じ商品は同じ見栄え、同じ量にそろえる必要があり、どうしても人手での調整が必要になってきます。
このように非常に手間がかかる一方、1個100円そこそこで売らなければならず、利益を出すためには膨大な量を販売する必要があるため同社の工場は24時間稼働となっています。よりクオリティの高い商品をより安価に販売する努力というのは企業としては正しいのかもしれませんが、結果的にそれが異常なほどの効率優先主義を生み、ベルトコンベヤーを止めにくい空気やケガでも出社を余儀なくされるほどの人員逼迫を招いているのかもしれません」(24年5月26日付け当サイト記事より)
(文=Business Journal編集部)