株式会社アルバトロスは運営する退職代行サービス「モームリ」の利用者データや利用された企業に関するデータなどを公開。そのなかで64回もモームリを利用された大手人材派遣会社の社員の退職理由も明かされ、“無法地帯”的な社員の働かせ方に衝撃が広まっている。
労働者本人がなんらかの理由で所属会社に直接、退職の意思を告知することを避けたい場合に、それを代行してくれる退職代行サービスの利用が増えている。一般的な利用の流れはこうだ。退職の意思を持つ利用者は退職代行業者と打ち合わせを行い、業者が利用者の所属会社に退職の意思を連絡。退職届の提出や会社からの貸与品の返却、オフィスに残っている私物の返却など必要な手続きは郵送で行い、退職が確定する。利用者本人が会社と直接やりとりすることなく退職に至る。
多くの実績を持つモームリは、弁護士の監修を受けたサービスを提供している。労働組合法適合の資格証明を受けた「労働環境改善組合」と提携しており、労働組合の組合員が団体交渉権を持って企業と交渉を行うため、企業側は原則これを拒否することはできないという。料金は正社員・契約社員・派遣社員・個人事業主は2万2000円、パート・アルバイトは1万2000円。退職できなかった場合は全額返金される。
今回アルバトロスが発表した調査結果によれば、モームリの利用者(正社員・契約社員等)の職種としては、サービス業がもっとも多く12.5%、次いで製造業(12.1%)、医療関連(9.1%)、営業(8.5%)と続く。利用者の年齢としては20代がもっとも多く全体の60.9%を占め、30代が22.4%、40代が8.4%。退職代行利用の経緯・退職理由としては「上司から各種ハラスメントを受けている」(33.9%/複数回答可)がもっとも多く、「上司から退職を止められる」(30.2%)、「サービス残業がある」(24.7%)、「勤務外での仕事がある」(18.7%)となっている。利用者の勤続年数としては、1~6カ月がもっとも多く38.7%で、次いで1カ月未満(24.5%)、もっとも少ないのは3年以上(9.7%)。
退職届が受理されない
なかでも注目されているのが、モームリを利用して退職された回数が11回以上にのぼる会社が47社もある点だ。たとえば最多の64回も利用された企業の退職理由として以下が紹介されている(アルバトロスの8月7日付プレスリリースより引用)。ちなみにこの企業は従業員数1000人以上の大企業である人材派遣会社だ。
<・派遣元の求人票には『一般事務』と記載されていたが、入ってみたら『秘書』の仕事を引き継ぐ事になっていた。
・派遣先にて契約外業務をやるよう指示される。上司の思う人材(就業先のプレゼン大会で堂々と賞がとれるプレゼンができる人材)と契約内容(一般事務)が一致しない。
・2週間以上の期間を空けて退職の意思を伝えているにも関わらず、退職届が受理されず、無期雇用という業態を担当者が理解していない。
・質問に答えていただけない、会話が噛み合わない、マニュアルにない作業を指示される等、業務の進行に支障が出て限界となりました。>
転職支援サービス会社社員はいう。
「受け入れた派遣社員の扱いには企業によって大きく差があり、あらかじめ派遣会社との間で取り決めた業務内容をできるだけ遵守し、あくまで派遣社員を『外部の人間』として丁寧にお客様扱いする企業もある一方、契約を無視して、『お金を払っているんだから、なんでもやらせて当然』という思考の企業もある。そもそも派遣社員には事前に決めた業務内容の仕事しかやらせてはいけないというルールを知らない職場もある。
派遣元の派遣会社が派遣社員から相談を受けたり勤務をやめたいとの申し出を受けても、大事なお客様である派遣先企業の気分を損ねると他の派遣会社に乗り換えられてしまうので、派遣社員をなんとか説得して勤務を続けさせようとする。その結果、追い込まれた派遣社員が退職代行を使うというケースはあるかもしれない。そして人材派遣会社は派遣要員として多くの社員を雇用しているので、上位を派遣会社が占めるという結果になっているのだと思われる」
ちなみにモームリを利用された回数が多い企業の上位20社のうち9社、約半数が人材派遣会社となっている。
若者のタイパ意識も影響
退職代行サービスを利用されやすい企業の特徴について、転職支援サービス会社社員はいう。
「パワハラやサービス残業が横行しているくせに、退職しようとする社員がいると、なんとか引き留めようとする企業は少なくない。要は人の扱いが雑なのだが、企業の規模にかかわらず大企業でも中小企業でもそういう企業はある。特に最近の若者はタイパを重視するので、退職するのに労力と神経を使うのは割に合わないと考えて退職代行サービスを使う。そもそも、もう辞めようと思っている会社との関係がこじれても困らないので、『2万円払えば、さっさと辞められる』と考えるのは当たり前だ」
(文=Business Journal編集部)