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「理系の技術職が膨大な社内調整で神経すり減らし→生産性低下」問題の根源

文=Business Journal編集部、協力=安藤健/人材研究所ディレクター
「理系の技術職が膨大な社内調整で神経すり減らし→生産性低下」問題の根源の画像1
「gettyimages」より

 少し前に企業に勤務する技術職であるX(旧Twitter)ユーザーが<理系開発職だけど「社内調整みたいなクソ面倒で神経をすり減らす仕事を40年も続けてて、発狂しないのはすごいと思う><弊社に来て、客先と開発と生産管理と製造と検査の間ですり潰される仕事について欲しい。誰か代わって>と投稿し、さまざまな反応が寄せられている。企業や大学をはじめとする研究機関で高度な専門知識を持つ技術職・開発職が、膨大な社内調整や各種事務手続きに忙殺されることが日本企業などの生産性低下につながっているという点は以前から指摘されているが、なぜ解消されないのか。また、大企業で難関大学文系学部卒の社員が何十年も社内調整に明け暮れて高い給料を得るケースが少なくない点も、同様の問題を生んでいるという指摘もあるが、そのような実態はあるのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。

 今年2月、日本の昨年(2023年)1年間の名目GDP(国内総生産)が4兆2106億ドルとなり、米ドル換算でドイツを下回り世界4位に転落したことがニュースとなったが、ドイツの人口は日本の約3分の2。この事実に表れているとおり日本の一人あたりGDPは低く、内閣府が今月23日に発表したところによれば、23年の国民一人あたりの名目GDPは前年比0.8%減の3万3849ドルであり、経済協力開発機構(OECD)加盟38カ国中22位。フランス(19位)、イタリア(20位)、韓国(20位)よりも低い。

 背景には労働生産性の低さがある。公益財団法人日本生産性本部の調査によれば、23年の日本の一人当たり労働生産性は9万2663ドルで、主要先進7カ国で最低、OECD加盟38カ国中32位。ハンガリーやスロバキアなどの東欧諸国とほぼ同水準だという。

PMやPDMを置く必要性

 そんな日本企業の非効率さを象徴するかのような前出Xポストが、少し前に一部で話題を呼んでいた。この投稿者はこのほかに以下のようにも綴っている。

<プロジェクトに50人関わって、各部のステークホルダーが10人いたとして その間で走り回る奴が少ないし、走り回らないと仕事が進まないし回らないし、好き勝手言っているし>

<自分より偉い立場の2人の言っていることが違ったとして、君がその間を何度も伝書鳩しても、何も進まないのだ>

 これは日本企業に特有のことなのか。人材研究所ディレクターの安藤健氏はいう。

「大企業のように組織が大きくなればなるほど、各部門が自らの都合や利益を優先して部分最適を図ろうとし、セクショナリズムに陥りやすくなるため、部門間の調整に大きな労力を割かれることになります。日本人はハイコンテクスト文化が強く、お互いに直接的にフィードバックをするということを避ける傾向があるため、より合意形成が難しくなってきます。

 また、日本企業ではプロジェクトを進める際にウォーターフォール型をとることが多く、詳細の要件や計画を詳細に固めてから順番どおりに推進しようとするため、いったん決めた事柄を途中で変更しづらい点も非効率さを生む要因となっています。プロジェクトの規模が大きいほどプロセスが複雑化し、かつ『特許申請が漏れていたら大変なことになる』といったように極力、想定リスクを排除しながら進めようとするため、全体の調整や交通整理をする人が必要となってきます。

 米国企業ではそうした役割を担う専門職としてプロジェクトマネージャー(PM)やプロダクトマネージャー(PDM)を置くというのが当たり前になっていますが、日本ではマネジメントの専門職の育成が進んでいなかったり、PMやPDMを置く必要性が認識されていなかったりして、プロジェクトの一メンバーである技術者や開発者がやらざるを得なくなり、不満やストレス、非効率さが生まれやすいといえます」

中間管理職や無駄なポストを増やさなければならない

 一方で、特に大企業では延々と社内調整だけに明け暮れる社員が生まれることも労働生産性の低さにつながっているという見方もあるが、実際にはどうなのか。

「成果や役割、仕事の内容によって賃金が決まる職務給や役割給とは異なり、日本企業では個人の能力に紐づいて賃金が支給される職能給制度が主流であるため、企業の成長自体が止まってもなお、人の能力は上がり続ける前提で賃金を上げ続けなければなりません。同時に、その高い賃金を支払うために中間管理職や無駄なポストを増やさなければならないという弊害が生まれます。その結果、無駄に長い承認プロセスが必要となり生産性向上や迅速な意思決定の障害になりがちな面も、社員が社内調整に労力と時間を取られる要因になってきます」(安藤氏)

 また、自動車メーカー関係者はいう。

「日本は製造業に強みを持ち、製品の企画から開発・生産・販売・アフターフォローというサイクルを回すためには社内調整というのが非常に重要であり、そこに大きな価値が置かれやすいという面はあるかもしれません。たとえばトヨタ自動車の強さの源泉は、多くの従業員が関与する製造現場でいかに無駄をなくして効率を高めてコストダウンを実現し、利益を高めるのかという『カイゼン』にあり、そのために社内調整に注力するのは正義ということになります。なので一言に社内調整=悪ではなく、社内調整がより効率的に遂行される仕組みが必要なのではないでしょうか」

(文=Business Journal編集部、協力=安藤健/人材研究所ディレクター)

安藤健/人材研究所ディレクター

安藤健/人材研究所ディレクター

青山学院大学教育人間科学部心理学科卒業。2016年に人事・採用支援などを手掛ける「人材研究所」(東京・港)へ入社。2018年から現職。国内大手企業での新卒・中途採用の外部面接業務や人事向けセミナーなどを手掛ける。毎月1回、組織・人事に関わる人のためのオンラインコミュニティー『人事心理塾』を企画・運営。著書に『人材マネジメント用語図鑑』(ソシム)、『誰でも履修履歴と学び方から強みが見つかる あたらしい「自己分析」の教科書』(日本実業出版社)。
安藤 健 | 株式会社人材研究所

Twitter:@andoK_official

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