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落合陽一氏のピクシーダスト、1年で上場廃止の背景…「株主軽視」なのか

文=Business Journal編集部、協力=中沢光昭/リヴァイタライゼーション代表
落合陽一氏のピクシーダスト、1年で上場廃止の背景…「株主軽視」なのかの画像1
「gettyimages」より

 筑波大学准教授でメディアアーティストの落合陽一氏が会長CEO(最高経営責任者)を務めるピクシーダストテクノロジーズが昨年(2024年10月)、米ナスダックへの上場を廃止すると発表。23年8月の上場からわずか約1年後の上場廃止となり、大きなニュースとして注目されたが、背景には何があるのか。また、「株主軽視」との批判的な声もみられるが、どう考えるべきか。専門家の見解を交えて追ってみたい。

 筑波大学発スタートアップとして2017年に創業された同社は、超音波を活用して頭皮を刺激するスカルプケアデバイス「SonoRepro」、音響メタマテリアル技術を応用したガラスに貼れる吸音材「iwasemi」、世界初の特許技術「ガンマ波変調技術」を搭載した40Hz変調スピーカー「kikippa」などの商品を開発・販売。ここ数年は赤字が続いており、24年4月期決算は売上高が約99億円、営業損益は約201億円の赤字、純損益は約197億円の赤字。

 同社が大きく注目された出来事が、23年8月の米ナスダックへの上場だった。上場で約1380万ドル(当時のレートで約19億6000万円)を得て、上場直後こそ株価は8ドル台をつけていたが、24年に入ると急落。同年10月24日にはナスダックへの上場廃止と預託銀行のADR(米国預託証券)プログラム終了、SEC(米証券取引委員会)への登録廃止などを発表。上場廃止発表直前の時点では株価は1ドル以下となっていた。同社は上場廃止の理由について次のように説明していた。

「NASDAQ上場を維持し米国証券法による報告義務を遵守することによる潜在的コスト及びその他一切の事情を勘案した結果、当社ADRの非上場化を行うことを決定し、財務、人的資源を事業成長に傾けることといたしました」

 また、上場からわずか約1年で上場廃止となり、株価も10分の1にまで下落したことについて「株主軽視」との声も相次ぐ事態となっている。ちなみに23年にナスダックに上場した日本企業は7社であり、そのうちの4社が翌24年に上場を廃止している。

合理的に考えて撤退するのは自然な流れ

 一連のピクシーダストの動きをどう見るべきか。数多くの企業再建を手掛けてきた企業再生コンサルタントで株式会社リヴァイタライゼーション代表の中沢光昭氏はいう。

「上場の主な目的は

(1)資金集め

だけではなく、

(2)創業者・大株主による株式の現金化
(3)信用を高めることによる人材採用や商取引の機会拡大・円滑化

などです。それらのメリットと引き換えに発生するのが上場コストであり、具体的には、証券取引所や監査法人に支払う費用、担当者の雇用、上場基準を満たすために対応する業務時間などです。実質的に本社を米国に移している状態でもない限り、日本で創業した会社がナスダックで上場する目的は(3)ではなく、(1)(2)であると考えられます。ただ、(1)(2)は上場した瞬間、あるいはロックアップ期間の約半年間に達成されてしまいます。つまりメリットの享受は早々に終わる一方、デメリットとコストの発生だけが続く状態になります。そのため、合理的に考えて撤退するのは自然な流れです。

(3)のメリットは最初はなくとも、じわじわと出てきて事業基盤が強化されていくべきものです。そうならないと、デメリットだけが出続けてしまうことになります。ピクシーダストの上場からの撤退は『わずか1年で』ともいえますが、ベンチャー企業は1年も経てば内部事情や外部環境は大きく変わるものなので、その是非はなんともいえません。法的に問題はないのでしょうが、道義的に問題があるのかといえば、道義を貫いて無理に上場を維持して、その結果として突然会社が破綻したら元も子もないので、なんともいえません。上場後に赤字のまま1年ちょっとで上場廃止としたことについて『株主軽視』という声もありますが、株価が高いうちに株式を現金化して利益を得た人はいるでしょうし、投資家が特定の企業の株を買うか買わないかというのは自己責任です。

 撤退することが投資家を欺く行為なのかどうかという議論以前に、今回のようなケースは理屈としては起こりうることであると、ある程度覚悟したうえで投資すべきではないでしょうか」

上場する必要性やメリット

 上場維持には多大なコストとリスクも伴うが、上場には慎重になるべきなのか。また、現在の環境を踏まえると、コストと労力をかけてまで上場する必要性やメリットは大きいといえるのか。

「勝手な印象ですが、できるだけ早めに業績を黒字化させ、それを継続させるということの優先順位が、ベンチャー界隈で少し落ちているように見えます。人材採用において調達額を自慢するような広告を出している企業も多いですが、本来は持続的成長に向けて利益を早くしっかり出せるように事業基盤を築いていくことを目指すべきであり、『(2)創業者・大株主による株式の現金化』に目がくらまずに地道に事業を改善・成長させていくことが肝要であることは今も昔も変わらないはずです。

 もう1つ留意点としては、資金調達がしやすくなっていることがあります。ベンチャーキャピタルによるベンチャー企業への投資額は、リーマンショックの2008年以降、世界市場で7~10倍に増えています。日本市場は世界市場の100分の1と推測されており、それでも年間4000~5000億円が投資されています。15年前と違って資金調達のためのインフラが潤沢になっているので、極論をいえば15年前に10億円集めるのと、現在100億円集めるのとでは、ハードルの高さが同程度になっています。ですので資金集めだけが目的であれば、上場することだけが選択肢ではないはずです。赤字脱却の展望や動きも見えないまま上場する会社があるならば、その理由は何なのかを当事者や関係者も理解しておく必要があるように思います」(中沢氏)

 また、大手金融機関系ファンドマネージャーはいう。

「ピクシーダストの上場と上場廃止については、さまざまな情報が流れてはいるものの、経営陣の考えも含めて実際のところはよくわかりません。また、赤字の企業が上場するということも珍しいことではありませんし、企業の創業者が上場を目指したり、ファンドなどの出資元が上場を急がせるというのは、ごく自然なことです。上場できたものの、実際に上場してみたら想定外のことがたくさん出てきて上場を廃止するということは経営判断としてあり得る話です。結果的に株価が大きく下落して損失を被る投資家が一定程度生じたのは事実でしょうが、ピクシーダストはここ数年は業績的には大幅な赤字でしたし、上場後に株価が下落するという事態は投資においては普通に想定されることなので、こればかりは投資家の自己責任としかいえない面もあるでしょう」

(文=Business Journal編集部、協力=中沢光昭/リヴァイタライゼーション代表)

中沢光昭/株式会社リヴァイタライゼーション代表

中沢光昭/株式会社リヴァイタライゼーション代表

企業再生コンサルタント兼プロ経営者。
東京大学大学院工学研究科を修了後、経営コンサルティング会社、投資ファンドで落下傘経営者としての企業再生に従事したのち、上場企業子会社代表を経て独立。雇われ経営者としてのべ15期以上全うし、業績を悪化させたのは1期のみ。
事業承継問題を抱えた事業会社を譲受け保有しつつ、企業再生とM&Aをメインとしたコンサルティングおよび課題内容・必要に応じて半常勤による直接運営・雇われ経営者も行う。シードステージのベンチャー企業への出資も行う。
株式会社リヴァイタライゼーション 代表・中沢光昭のプロフィール

Twitter:@mitsu_nakazawa

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