非上場でも売上高242億円…イングリウッド「商品を売る最強集団」

リテール業界に特化した販売支援を手がけるイングリウッド。2005年の創業以来、EC領域での専門知見を活かし、事業拡大を遂げてきた。
「商品を売る最強の集団であり続けること」という理念のもと、増収増益を続け、非上場企業でありながら2024年8月期には売上高242億円を達成。2024年12月には中国・上海市に現地法人を設立した。BtoBマーケティング支援を主軸とする企業として、なぜこれほどの成果を上げられているのか。
同社の取締役副社長兼CGO・三好悠介氏は「自社ブランドで培った知見を活かし、競合にもあたるような企業とも協業することで市場を創造しています」と語る。今回は、イングリウッドの成功の秘訣、中国市場進出の背景について話を聞いた。
競合支援でマーケットを活性化
ーー貴社の事業内容を教えてください。
自社ブランドをBtoC向けに展開しながら、そこで蓄積したデータやナレッジを活用して、BtoB向けにコンサルティングやマーケティング支援を提供しています。
具体例として、冷凍された弁当を家庭に届けるサブスクリプション事業「三ツ星ファーム」をご紹介します。これは当社のBtoC事業の中でもっとも成長している事業で、サービス開始からわずか3年で累計販売食数が2,000万食を突破しました。食品業界において、単一ブランドでこれほどの急成長を遂げた例は極めて稀です。
その結果、競合になるような企業から「どうやったんですか?」という問い合わせが来るようになりました。これらの企業に対して、商品企画、メニュー開発、商品ローンチ後のマーケティングまで、包括的なコンサルティング支援を提供するというのが当社のビジネスモデルです。
――「三ツ星ファーム」をきっかけに、2024年には味の素との資本提携もされていますね。なぜ競合となりうる他社にも、ノウハウを提供しているのでしょうか。
イングリウッド単体で取り組むよりも、競合へのノウハウ提供を通じて、大手企業をはじめとするさまざまな企業が参入することによって、マーケット全体の成長を加速できると考えているからです。
ーー結果として自社のブランドも成長にもつながると?
そうです。三ツ星ファームのケースでは、従来の冷凍のお弁当には「時間がないときの仕方なく食べるもの」というイメージがありました。そこで私たちは、低糖質・高タンパクで、毎日食べても飽きない豊富なメニューを揃えたんです。そうすることで、「栄養バランスの取れたおいしい食事がとれる冷凍宅配お弁当」という新たなマーケットを創造しました。このマーケットにはさまざまな企業が参入してきましたが、私たちのブランドと支援している企業がともに成長し、相乗効果を生み出しています。自社ブランドと支援事業という両輪をバランスよく成長させることが、売上の持続的な成長につながっていると考えています。
蓄積したデータ、即断即決できる体制が強み
――貴社は、「三ツ星ファーム」のほかにもトータルセルフケアブランド「AKNIR」や、スニーカーを主軸としたECサイト「SNEAK ONLINE SHOP」など幅広いジャンルに展開しています。どのような発想で新たな事業を生んでいるのでしょうか?
データドリブンな経営を重視し、社内のデータサイエンティストの分析に基づいて事業を推進しています。
当社では、自社のEC事業、企業向けコンサルティング、マーケティング支援を通じて、かなりの量のデータを蓄積しているんです。そのため、注目を集めているマーケット、売れ筋商品、効果的な広告メッセージといった市場のトレンドをリアルタイムで把握できています。
たしかに、データ量では当社を上回る大手企業も存在します。しかし、当社では経営陣全員が日々データを詳細にチェックしているため、市場の変化に即応した意思決定と実行を実現できるのが強みです。
――大企業では、柔軟な判断が難しいケースも見られますよね。
私も大企業出身ですが、大企業では既存事業とのカニバリ等で意思決定が難しいことも多いです。当社は撤退基準も明確にしKPI管理を徹底することで意思決定スピードを上げています。
さらに、当社の経営陣が各成長フェーズに応じて入れ替わっていることも、判断の迅速化につながっていますね。実はベンチャー企業でも創業メンバーは外せないなどで意思決定が遅くなっているケースも多いです。当社ではプロスポーツチームのように、各フェーズに最適な布陣を組んで経営を行っています。
中国企業の後追いも歓迎
――現在、中国の景気は悪く、撤退する企業も多い中、2024年12月に中国法人を設立していますね。中国市場参入の背景を教えてください。
日本市場は、少子高齢化し、所得も上がらず非常に厳しいマーケットです。かつ高品質な商品が溢れていて世界一マーケティングが難しい国だとも考えています。逆に日本で成功したデータドリブンなマーケティングは世界で通用すると考えています。中国もマーケットを見極めれば非常に魅力的な市場です。
ただし、中国市場には特徴的な課題があります。さまざまな外資系企業が参入し、良い商品はたしかに売れるものの、すぐに中国の地場企業が低コストの類似商品を投入してきます。その結果、当初好調だった製品の売上が急落するというパターンが一般的です。
しかし、私たちは三ツ星ファームの事業展開と同様の考え方で臨んでいます。他社にも積極的に市場参入していただき、ともに中国の消費者向けに高品質な商品とマーケットを創造することで、日本での成功モデルと同様に市場拡大を目指しています。
――売上が約250億円規模で、今後も事業拡大が見込まれているかと思います。現在、非上場の理由と、今後の方針についてお聞かせください。
上場は市場からの資金調達を容易にする手段ですが、これまでは自社の利益を再投資することで十分な成長を実現できていたため、上場の必要性を感じていませんでした。
しかし今後は、海外展開やM&Aなど、新たなステージへの挑戦を計画しています。社会を変えていくようなチャレンジを実現する手段として、上場も視野に入れる時期に来ていると考えています。
(文=福永太郎/編集者・ライター)