TONステーキングでUAEビザ取得?報道の真偽を探る

The Open Network(TON)は7月6日、10万ドル相当を3年間ステーキングすることで、アラブ首長国連邦(UAE)の「ゴールデンビザ」が取得可能になると発表した。
これにより、TONの価格は約10%上昇。トークンのステーキングで長期居住権を獲得できるという仕組みは、デジタル資産の新たな可能性を示すものとして、多くの投資家の注目を集る結果となった。そして、新しい仮想通貨の上場予定一覧にあるように、たとえばAIでコンテンツ最適化を図る銘柄や、店舗決済を改革する銘柄など、すでに話題性がある資産に多くの資産が流入することが予想された。
一方で、UAE当局からはこの時点まで何の発表もなかったことから、疑問を呈する声も少なくなかった。そして7月7日、UAE当局はこのニュースの真偽について公式声明を発表。「そのような制度は存在しない」との明確な否定を行った。
TONによるビザ取得の報道とその経緯
今回注目を集めたのは、TON Foundationが発表した「10万ドル相当のTonをステーキングし、35,000ドルの手数料を支払うことで、UAEの10年ゴールデンビザを取得可能になる」という内容だ。この報道は瞬く間にSNS上で拡散され、Tonの価格は2.73ドルから3.04ドルまで上昇した。
暗号資産投資によるビザ取得というこのスキームは、年利3~4%の報酬を得ながら、居住権も手に入るというもの。近年、UAEが暗号資産企業や富裕層の誘致に積極的であることから、報道には一定の信ぴょう性も感じられた。
しかしその直後、UAEの複数の政府機関が連名で否定声明を発表。UAE連邦移民庁(ICP)、証券庁(SCA)、そして仮想資産規制庁(VARA)は、「TON Foundationは当局の認可を受けておらず、暗号資産を通じたゴールデンビザの取得制度は存在しない」と明言した。これを受け、Tonの価格は急落し、本稿執筆時点では2.79ドルに着地している。
報道の背景には、暗号資産業界の競争が激化する中で、プロジェクトが注目を集めるために用いる巧妙なマーケティング戦略の一環として、誇張された発表がなされた可能性があることも考えられる。特に、UAEのように規制と柔軟性の両方を求めようとする国では、情報の真偽を見極めることが投資家にとって極めて重要となるだろう。
UAEのゴールデンビザ制度とは
UAEのゴールデンビザ制度は、2019年に導入された長期滞在許可制度である。 主に、高度な専門性を持つ人材や、一定規模の投資を行う外国人に対して、最長10年間の居住資格を与えるもので、不動産投資やスタートアップ設立、医師や研究者といった特定の職業従事者が対象となる。
そして、ゴールデンビザを獲得すれば最大10年間の滞在が可能となり、この期間は就労や就学もできるようになる。 したがって、このゴールデンビザの導入以降、UAEは中東地域で最も多くの外国人を受け入れる国の1つとなり、スタートアップや富裕層の移住先として注目を集めている。
暗号資産関連企業も、ドバイを中心に事業拠点を構えるケースが増えており、制度の柔軟性と税制上の優遇措置がその背景にある。一方で、現在の制度では暗号資産の保有や取引のみを根拠としてゴールデンビザを取得することは認められておらず、今回のTON報道が誤解を招いた理由もここにあると言える。
他国に見る、暗号資産による長期滞在許可制度の実例
UAEでのTONステーキングによるゴールデンビザ取得は否定されて一方で、暗号資産による移住や市民権取得の制度は、他国では実際に存在している。
たとえば、世界で初めてビットコインを法定通貨として採用したエルサルバドルでは、採用当初より、外国人に対して市民権を与える法案の可決を目指していた。そして2023年に、「Freedom Visa」プログラムを導入。これは、ビットコインもしくはUSDTで少なくとも100万ドル以上を寄付することで、年間最大1,000人に市民権を与えるという制度である。
また、カリブ海のアンティグア・バーブーダでは、従来からある市民権取得プログラム(CBI)において、公式代理店を通じてビットコインなどでの支払いが事実上認められている。一定額の国家基金への寄付や不動産投資によって市民権が与えられる仕組みで、暗号資産による送金は支払い手段の1つとして機能している。
さらに、欧州の一部の国でも、暗号資産を資金源とした不動産投資や起業によって、ゴールデンビザの対象となるケースが報告されている。たとえばポルトガルでは、ポルトガルの資産運用会社Fundboxと、暗号資産投資プラットフォームであるKvarn Xが提携し、ポルトガルのゴールデンビザ獲得の可能性を提供するためのファンドを設立を公表している。
このように、暗号資産への投資を通じて居住権を得るための仕組みは、世界的には確かに広がっているのである。
暗号資産とグローバル移住の可能性
暗号資産を活用した移住制度は、国によってルールや認可の仕組みが異なるものの、先述の通り現実に導入されるケースが増えている。その背景にあるのは、暗号資産ならではの特徴、つまり「世界中どこへでもすぐに移動できる資産」であるという性質だ。
これまでの資産は、現金や不動産のように管理や移動が複雑であったが、暗号資産はインターネットさえあれば国境を越えて送金可能。しかも、手数料はほとんど発生せず、送金スピードも圧倒的である。この柔軟さが、資産と居住権との関係に新しい可能性をもたらしているのである。また、国によっては暗号資産で得た利益に対する税制が、自国より低く設定されている場合もあり、このことも移住の決め手となるだろう。こうした理由を背景に、暗号資産を活用した移住は、複数の国に生活拠点を持ちたい富裕層やスタートアップ創業者にとって、さらに有力な選択肢となっていくはずだ。
ただし、この度のTONをめぐるケースのように、実際には存在しない制度がSNSによって急速に広まることは、今後も発生し得るかもしれない。そのため、制度の正当性や認可状況については、各国の公式機関の情報を必ず確認することが重要だ。
今後の制度整備の行方
デジタル資産が、各国のビザ制度や居住権制度と結びついていく動きは、今後さらに広がっていくだろう。 特に、外国人による自国への投資や、資本流入を促進したい国々にとって、暗号資産を評価する仕組みづくりは重要な政策手段の1つとなるはずである。
そして、この実現のためには制度の透明性を高め、ルールを明確にすることが不可欠となる。 そうした基盤が整えば、暗号資産を活用したビザや居住権の取得が、より多くの国で実現していくと考えられる。
一方で、暗号資産への期待が過剰になり、投資家の一部には、根拠の薄いプロジェクトに過信してしまうケースもあり得るだろう。 今回、暗号資産取引所バイナンスの前CEOであるCZ氏がすぐに「UAE当局からの発表がないことは疑わしい」ことを指摘していたが、まさしく的を得ていたことになる。そのため投資家は、制度の仕組みやリスクをきちんと理解した上で行動する、より一層のリテラシーが求められる。
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