JR東日本、鉄道運行に生成AI導入、障害時の復旧時間を50%短縮…推定原因や対処法を提案

●この記事のポイント
・JR東日本、障害時に生成AIを活用して復旧にかかる時間を短縮化する復旧支援システムを導入
・復旧までの時間短縮に加えて指令所の業務負担削減や、より正確な復旧指示を実現
・鉄道の運行管理・保守を担う東京圏輸送管理システムにAIを導入する実証実験を開始
JR東日本が、障害時に生成AIを活用して復旧にかかる時間を短縮化する復旧支援システムを導入した。生成AIが障害の原因や対処法を提案する。復旧までの時間短縮に加えて指令所の業務負担削減や、より正確な復旧指示を実現する。このほか、9月には、鉄道の運行管理・保守を担う東京圏輸送管理システムにAIを導入する実証実験を開始する予定。自律的に事故からの復旧対策を考える「AIエージェント」も開発する。すでにJR西日本が鉄道車両の保守メンテナンスにAIを導入しているように、鉄道運行の領域でもAIの活用が進むが、JR東日本は何を目指しているのか。同社に取材した。
●目次
推定原因・対応方針・復旧見込時刻を生成AIが解析、表示
生成AIを活用した復旧支援システムを導入するに至った背景について、JR東日本は次のように説明する。
「鉄道の信号通信設備は多種多様な機器があり、広範囲に点在しています。故障が発生した場合、どこの機器が故障したかすぐにはわからず、社員が複数の複数箇所に分かれて一つひとつの機器や部品など原因を調査しているため、復旧まで時間がかかることがあります。
これを改善するために、2023年の3月から故障発生時、過去の事例などから最適な手順の調査・復旧を支援するシステムを首都圏の在来線の信号設備の一部で導入していましたが、このシステムは復旧支援に有効であるものの『機械学習を用いたAI』を活用しており、対象とする設備の範囲を拡大したり、新たな事例を登録することはすぐにはできず、メーカーに依頼したうえで多くの再学習作業をさせる必要があるという課題がありました。
上記のような課題意識があるなか、急速に生成AIが進歩し、AIに対する学習行為を行わずとも設備範囲が限定されず事例登録も容易になったことで上記の課題を解決できる見込みとなったことから、復旧支援システムに生成AIを活用することにしました」
具体的には、どのようなシステムなのか。
「現地社員と指令員の無線通話を解析し、自動でトラブルに関しどのような問題が発生したかを時系列に従って記録を行います。その記録を元に、信号通信設備故障の『推定原因』『対応方針』『復旧見込時刻』を生成AIが解析、表示して、社員が適切な手順で復旧作業を実施できるよう、指令員の支援を行うシステムです。指令とトラブルが起こった作業現場との無線でのやりとりを基に、原因の推定や、復旧見込時間の提示までを一気通貫で生成AIが全てアドバイスしてくれるものです」
専門家頼みの「業務の属人化」を脱却
このシステムの導入により、故障発生時の早期復旧が見込めるといった効果があるという。
「効果としては以下の3点を想定しています。
(1)信号通信設備故障発生時の早期復旧
最適な手順での作業により、故障から復旧までの時間短縮が見込まれます。原因特定の難しい複雑な事象において、復旧までの時間を従来の約50%に短縮できることを見込んでいます。
(2)お客さまへのタイムリーな情報提供
提示された『復旧見込時刻』を基に指令員が判断することで、運転見合わせ時の『運転再開見込時刻』をお客さまへ早期に提供することが可能になります。
(3)社員の知識と経験依存からの脱却
現在は、復旧にあたる社員には専門知識と経験を活用して状況を把握し、適切な判断をする能力を求めています。信号通信設備は現地にあわせた多種多様な設備を配備しているため、とくに指令においてはすべての地域のすべての設備に対する専門知識と経験を持つ社員を育成することが課題です。そこで、この知識と経験が必要な部分を生成AIがサポートすることで、基本的な知識と経験があれば判断できる状態に近づけていくことを見込んでいます」
JR東日本は、鉄道の運行管理・保守にAIを導入する実証実験を9月に開始する予定だ。
「ATOSトラブル発生時に監視端末に表示される警報を生成AIに読み込ませ、故障の原因と思われる装置を提案させます。この手法と、マニュアルやノウハウなどを基にした現状の故障原因の調査手法とを比較し、どの程度の時間短縮や省力化が可能か、効果測定を行います」
同社はこの実証実験により、故障原因の調査時間が短縮されることでトラブルの早期復旧ができるようになり、輸送のさらなる安定性向上に寄与することを目指している。
「故障原因の調査の省力化により、専門家頼みの『業務の属人化』を脱却するとともに、生み出された時間を活用して、新しい事業の開発や地域活性化、お客さまサービスの充実など、社員が人ならではの創造的な役割に注力できるようになることを目指しています」
(文=BUSINESS JOURNAL編集部)











