リニア中央新幹線の建設に反対していた静岡県の川勝平太知事が2日、辞職する意向を表明し、リニア開業進展への期待の高まりから株価が反発しているJR東海。そんな同社の高い利益をめぐって「異次元の収益力」だとして一部SNS上で話題を呼んでいる。2024年3月期決算見通しの営業利益はJR東日本の約1.7倍の5330億円に上るが、他のJR会社のなかには経営危機が取り沙汰される会社もあるなか、なぜJR東海は「えげつない額の利益」を稼いでいるのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。
JR各社の24年3月期決算見通しは以下のようになっている。
売上高 営業利益 最終利益
・JR北海道 1365億円 ▲611億円 ▲5億円
・JR東日本 2兆7120億円 3100億円 1650億円
・JR東海 1兆6580億円 5330億円 3300億円
・JR西日本 1兆6325億円 1600億円 820億円
・JR四国 385億円 ▲71億円 43億円
・JR九州 4170億円 457億円 407億円
※JR四国は23年4~12月期決算数値
※▲は赤字
売上高をみてみると、JR東日本はJR東海の約1.6倍だが、営業利益は逆転してJR東海がJR東日本の約1.7倍となっている。また、従業員数はJR東日本が4万1920人、JR東海が1万9914人となっており、単純比較はできないもののJR東海はより効率よく稼いでいることがうかがえる。
コロナ禍からの旅客数の回復や駅ナカ店舗・商業施設など流通事業の伸長を受け、JR各社の業績は回復傾向にある。JR東日本の24年3月期の営業利益は前期比2.2倍、JR西日本も91%増の見通し。なかでも業績好調が顕著なのがJR東海だ。営業利益は同42%増で、23年10〜12月期の運輸収入はコロナ前の18年度同期比で98%まで回復している。
東海道新幹線の存在
なぜJR東海の収益力は、これほど高いのか。鉄道ジャーナリストの梅原淳氏はいう。
「JR東日本、JR東海はともに国鉄から分割民営化された本州のJR旅客会社です。一見すると似たような経営内容に見えますが、実は大きく異なります。2023年3月31日現在でJR東日本の営業キロは7302.2km(うちフル規格の新幹線は1194.2km)であるのに対し、JR東海の営業キロは1970.8km(同552.6km)と、JR東日本はJR東海の3.7倍も長い路線を保有して営業を行っています。従業員数がJR東日本は4万1920人、JR東海は1万9914人と、JR東日本がJR東海の2.1倍多い点も当然といえるでしょう。1営業キロ当たりの従業員数はJR東日本が6人、JR東海が10人と大きく差が付いています。これは外注の度合いによって変わるので単純に比較できませんが、JR東海はより多くの従業員を抱えていても人件費を支払えるから、つまり収益力が高いからとなります。
それではなぜJR東海の収益力が高いのかといいますと一言でいい表せます。日本の大動脈である東海道新幹線を保有しているからです。JR東海によると、2022年度に東海道新幹線によって得られた旅客運輸収入は9861億円とのことで、営業キロ1km当たりの旅客運輸収入は17億8447万円あります。在来線を含めた同社の旅客運輸収入は1兆0699億円で、営業キロ1km当たりの旅客運輸収入は5億4288億円です。
一方で、JR東日本の2022年度の旅客運輸収入は1兆4317億円で、営業キロ1km当たり旅客運輸収入は1億9606万円でした。営業キロ1km当たり旅客運輸収入はJR東海がJR東日本の2.8倍と差を付けられているなか、さらに大きな差があるのは新幹線です。JR東日本が新幹線で上げた旅客運輸収入は4219億円で、営業キロ1km当たりの旅客運輸収入は3億5329万円となり、JR東海がJR東日本の5.1倍も上回っています。
実は1日当たりの輸送人員(利用者数)で見た場合、JR東海の東海道新幹線とJR東日本の東北・上越・北陸の各新幹線の合算値(北陸新幹線は上越妙高-金沢間のJR西日本区間も含む)とではあまり違いがありません。2022年度に前者は36万6052人、後者は33万9074人でした。ところが、大きく異なっているのは旅客1人平均の乗車距離です。東海道新幹線は317kmで、これは東京駅と豊橋駅の先との間に相当します。一方で、JR東日本の新幹線では133kmと、東北新幹線でいいますと東京駅と宇都宮駅の先との間くらいでしか利用されていないのです。
では、JR東日本の新幹線が経営不振かというと、そうではありません。旅客運輸収入を旅客人キロ(輸送人員×旅客1人当たり平均乗車距離)で除した旅客1人1km乗車した際に得られる旅客運輸収入は、JR東海が23円(旅客運輸収入の9861億円÷旅客人キロの424億1800万人キロ)、JR東日本が26円(旅客運輸収入の4219億円÷旅客人キロの164億9400万円)と逆に上回っているからです。やはり、東海道新幹線は日本の大動脈であり、しかも首都圏、中京圏、京阪神圏と日本最大級の都市圏を貫いているうえに山陽新幹線にも乗り入れているため、長距離を通して乗る利用者が非常に多い点がJR東海の収益力の拠り所と言えます」
収益力は一時的にせよ悪化?
JR東海の経営的に懸念材料となっているのがリニア新幹線だ。同社は品川―名古屋間の開業を最短で2027年、東京―大阪間を37年としていたが、建設に反対する静岡県の工区の工事遅れが原因で先月、品川―名古屋間の開業時期を「未定」に変更。すでに同区間の総工費は当初見込みから1.5兆円増の7兆円となっているが、工事期間が延びればさらに膨れ上がる懸念がある。また、無事に開業しても、リニア新幹線と並行して運行する東海道新幹線の利用者数は減ると予想され、日本全体の人口減少も進行することから、トータルで想定通りの利用客数・利益を確保できるのかは不透明だ。JR東海の高い収益力は、今後も継続していくと考えられるのか。
「先に挙げた東海道新幹線の特徴は1964年の開業以来、一貫して変わっていません。したがって、JR東海の高い収益力は基本的に今後も続いていくでしょう。ただし、リニア中央新幹線の建設に要した費用、特に2016年と翌2017年に合わせて3兆円を借り入れた国の財政投融資の返済時期には多少変化していると思われます。財政投融資は30年間の据え置き期間後、10年かけて元金均等で返済することとなっていて、実際には2046年以降、返済することとなっています。借り入れたときにはリニア中央新幹線が品川-大阪間の全線が開業していて、安定して利益を出していると予想されたのですが、現実には品川-名古屋間が最短でも2034年と遅れが見込まれているので、返済条件を変えてもらわないとJR東海の収益力は一時的にせよ悪化すると思います」(梅原氏)
経営再建中のJR北海道
JR東海と対照的なのがJR北海道だ。広い営業エリアに数多くの不採算路線を抱えるJR北海道は毎年多額の赤字を計上し、24年度から3年間で計1092億円の財政支援を国から受ける。鉄道需要が低下するなか、総工費2兆円が投下される北海道新幹線の利用者数は低迷しており、維持コスト含めて負担がのしかかる。25年4月には運賃を平均約8%値上げする方針を発表しており、綱渡りの経営が続く。
「JR北海道、さらにはJR四国の単独生き残りは困難といわれており、以前からJR東海に一体経営させるという案も取り沙汰されている。可能性は低いが、もし仮に実現すれば、リニア建設・維持もあいまってJR東海も安泰ではいられない」(JR関係者)
(文=Business Journal編集部、協力=梅原淳/鉄道ジャーナリスト)