OpenAI独自開発のウェブブラウザは、グーグルの牙城を崩しネット勢力図をひっくり返す?

●この記事のポイント
・米OpenAIが独自に開発した新たなウェブブラウザを発表すると一部で報じられている
・ネットの世界で広告で利益をあげていた事業者やEC事業者などは影響を受ける可能性
・AIのおかげで人を雇用する必要がなくなるため、有料のサブスク加入者が増加
米OpenAIが独自に開発した新たなウェブブラウザを発表すると一部で報じられている。これまでウェブブラウザ市場では米グーグルのChromeが約6割のシェアを握り強い影響力を誇ってきたが、その覇権がついに崩れる可能性はあるのか。そして、OpenAIのウェブブラウザとは、どのような体験をユーザーにもたらせるものなのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。
●目次
サブスク型のAIサービスが急成長
OpenAIがウェブブラウザを提供する理由について、グーグルのChromeへの対抗という次元の話ではないと、エクサウィザーズ「AI新聞」編集長・湯川鶴章氏はいう。
「ウェブブラウザのように見せかける仮想ブラウザという形態ではありますが、すでにOpenAIはChatGPTでウェブブラウザを提供しており、現在でも『Pro』プラン契約者は使えます。チャットボットからAIエージェントの時代に移行し、質問に答えてくれるだけではなくてAIエージェントが必要なアクションをしてくれるようになったことで、ウェブブラウザという環境は非常に有効なんです。
例えば米Perplexityのウェブブラウザでは、『5種類のバイクのなかで一番早く配達されるのはどれ?』と質問を入力すると、AIエージェントが自動で各サイトに行って配達日を調べて比較して、『一番早く配達されるのは●●です』という答えを返してくれます。『エヌビディアのCEOが動画の中でPerplexityに言及しているところを再生して』と質問すると、YouTube動画を見つけてきて、ちょうどPerplexityについて言及しているところを再生してくれます。『バターチキンカレーとコブサラダを作りたい』と入力すれば、AIエージェントが自動でウォールマートのサイトに行って必要な材料の購入から配達までしてくれます。
このように、AIエージェントが複数のサイトを自動で行ったり来たりしながら、実際にブラウザを動かしてさまざまな作業を短時間でやってくれますが、OpenAIのブラウザも、まさに同じような体験をユーザーに提供するものになると予想されます。
アマゾンでは同じ商品でも価格が日々変化していますが、『最安値になったら教えて』とAIエージェントにリクエストしておいて、実際に最安値のタイミングで買えるようになる。しかも、従来のウェブブラウザと違って広告が表示されないので、よりユーザーにとって便利になります。一方で、ネットの世界で広告で利益をあげていた事業者や、このアマゾンの例でいえばEC事業者などは大打撃を受ける可能性があります。
このように見てくると、OpenAIやPerplexityがウェブブラウザを提供する背景としては、グーグルのChromeに対抗するといった次元の話ではなく、純粋に『AI時代に求められるウェブブラウザを突き詰めると、こういうかたちになるよね』というものを提示しているにすぎないともいえます」
広義の意味でOSの世界で覇権を握る
OpenAIは広義の意味でOSの世界で覇権を握ることを目指しているのではないかと湯川氏はいう。
「AI時代のウェブの世界で圧倒的な力を持ちたいと考えているのではないでしょうか。例えば企業はRAGという技術を使って社内のデータを蓄積・活用していますが、そうしたウェブに載っていない情報まで入手することを狙っているのでしょう。
OSという概念を大きくとらえると、さまざまなサービスに必要な技術を提供するシステムという意味になりますが、モバイル時代はグーグルのAndroidとアップルのiOSが覇権を握り、大きな影響力を業界全体に持ってきたわけです。OpenAIはAI時代のOSで覇権を握りたい、その第一歩がウェブブラウザなのでしょう。AIエージェントにさまざまなデータを扱わせようとすると、ウェブ上のデータ、ウェブ以外のデータ、それから現実社会のデータを扱えるようにする必要があり、まずはウェブ上のデータをすべて扱えるようになるためにはウェブブラウザを手掛けるしかありません。そのため、OpenAIがウェブブラウザを手掛けるのは必然といえます」
サブスク型のAIサービスが急成長
グーグルは広告事業であげた巨額の利益をサービス開発に投じているが、OpenAIは広告をユーザーに表示させないということは、ユーザーから対価をとっていくということか。
「無料が当たり前だったネットの世界で、果たしてユーザーから対価を取れるのかという点が、これまで業界内で大きな論点でしたが、ここ半年くらいでサブスク型のAIサービスが急成長し始めています。AIサービスでは月額3000円、プロバージョンだと月額3万円くらいのサブスクプランにユーザーが飛びつくという現象が起きています。AI開発会社の人たちに話を聞くと、『ここまでサブスクが受け入れられるとは思ってなかった』といった声が聞こえてきます。
では、なぜユーザーがそこまでお金を出すことになったのかといえば、AIのおかげで人を雇用する必要がなくなるためです。たとえばモバイルアプリによって便利にはなるものの、人の代わりになるほどではなかったですが、AIを使えば『これって、人を雇うのと同じだよね』『しかも人を雇うより全然安いよね』『人間より優秀だよね』という感覚を多くの人が抱き始めています。なので、AIサービスにお金を払っている人は『全然ペイできちゃう』という感覚なんです。
もっとも、こうした新しい動きは、まだ出始めたばかりなので、どこまで広告なしでサブスクだけで成立していくのかは未知数の部分があるのも事実です。セキュリティー対策も含めてブラウザサービスを維持していくには多額の資金が必要なので、広告をやらないで資金を確保していけるのかどうかは、現段階ではなんともいえません」
もしOpenAIが本格的にウェブブラウザを提供してくれば、現在の市場勢力図が大きく変わってくる可能性はあるのか。
「OpenAIのウェブブラウザが事業として成功するのかは分かりませんが、仮に成功すれば、ガラッと変わる可能性がありますし、広告やアプリの業界、ウェブサービスを提供している企業はビジネスモデルを変える必要に迫られるかもしれません。これまでChrome、Edge、Safariが圧倒的に強かったブラウザ市場は、新規参入は無理だといわれてきましたが、その構図が変わるかもしれません。
週間アクティブユーザーが5億人といわれるChatGPTのユーザーが一気にOpenAIのブラウザを使うようになれば、既存のウェブブラウザ事業者に加えて、これまで広告を出してウェブサービスを提供してきた多くの事業者が大きな影響を受けるほどの変化が起きるでしょう。とはいえ、既存のウェブサービス側からの反発も予想されますし、グーグルやアップルも何らかの対策を打ち出してくるでしょうから、今年の後半は混乱が生じるかもしれません」
(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=湯川鶴章/エクサウィザーズ・AI新聞編集長)











