OpenAI、なぜ変節?意図しない成功で市場競争・政治に巻き込まれ…米国防総省から多額受注

●この記事のポイント
・OpenAI、米国防総省との間で防衛へのAI利用などについて2億ドル(約290億円)の契約を締結
・累計約2兆円もの出資を受けた米マイクロソフトを、独占禁止法違反で当局に告発することを検討か
・想定外の成功によって、公益重視の営利企業に移行するという苦渋の決断
OpenAIの変節ぶりが注目されている。同社はこれまで利用規約で軍事関連の活動への自社のAIの利用を禁止していたが(24年に規約を変更し一部を容認)、今月、米国防総省との間で防衛へのAI利用などについて2億ドル(約290億円)の契約を締結したと発表。また、これまで累計約2兆円もの出資を受けた米マイクロソフトを、独占禁止法違反で当局に告発することを検討しているとも報じられている。こうしたOpenAIの変化の背景には何があるのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。
●目次
AIが強いパワーを持って国際政治・経済を動かすものに
まず、米国国防総省と契約した背景について、エクサウィザーズ「AI新聞」編集長・湯川鶴章氏はいう。
「OpenAIの成り立ちを振り返ると、もともとは2015年にNPO(非営利団体)として研究組織的なかたちで立ち上げられたのが始まりでした。AIを一部の有力企業のものではなく、人類みんなのものにしましょうという思いでOpenAIという社名をつけたくらいです。一つには、彼ら自身が予想していなかったほど会社が成功してしまい、当初はビジネス的に大きな利益を得るつもりはなかったにもかかわらず、市場競争に巻き込まれ、AIモデルの性能を上げていくためには大量の高性能半導体を買わなければならないということで、資金が必要になってきました。NPOのままでは資金が集まらないので、昨年にはPBC(パブリック・ベネフィット・コーポレーション)と呼ばれる公益重視の営利企業に移行するという苦渋の決断をしました。
そして今度は政治とも関係を持たざるを得なくなりました。AI開発でも軍事でも中国がどんどん米国に追い付いてきて、中国が軍事に積極的にAIを活用すれば、中国に対して民主主義国家のアメリカが不利になる可能性も出てきた。そうなると、米国企業であるOpenAIも『軍事に自社のAIは使わせません』と言っている場合ではなくなり、米国政府には協力せざるを得ないという状況になりました。こうして、自分たちが考えていた以上にAIが強いパワーを持って国際政治・経済を動かすものになり、それらの世界に入るつもりはなかったのだけれど入らざるを得なくなった、ということではないでしょうか」
マルチモデル戦略に行かざるを得ないマイクロソフト
もともと生成AIの一スタートアップだったOpenAIが大きく成長して世界的に注目されるきっかけとなったのは、2019年からマイクロソフトから累計約2兆円もの出資を受けたことであった。マイクロソフトが初めてOpenAIに投資をしたのは19年。その金額は10億ドルにも上ったことでOpenAIは世界的に注目の的となり、マイクロソフトはOpenAIが開発するChatGPTに使用される言語モデル「GPT-3」の独占ライセンスを取得。23年にはマイクロソフトはChatGPTの技術を活用したAIアシスタントツール「Microsoft Copilot」をリリースするに至った。
両社の戦略的パートナーシップは今後も継続される。2030年までの契約期間中、OpenAIの知的財産へのアクセス、収益配分の取り決め、OpenAIのAPIに対するマイクロソフトの独占権が継続されることが決まっている。
そんな両者の間の隙間風がクローズアップされるきっかけとなったのが、今年4月、OpenAIがソフトバンクグループ(SBG)などから400億ドル(約6兆円)の出資を受けることで合意したことだった。両社はAI共同開発事業「Stargate Project(スターゲート・プロジェクト)」を推進するなど蜜月ぶりをみせている。
マイクロソフトとの間の確執が顕在化しつつある背景は何か。報道によれば、OpenAIが買収を予定している米ウインドサーフのIP(知的財産)をマイクロソフトが利用することに、OpenAIが反対していることが対立を生んでいるという。マイクロソフトはOpenAIに多額の出資をする見返りに、OpenAIの所有するIPを使用する権利を持つ。また、OpenAIが5月に発表した組織再編をマイクロソフトが承認していないことも影響しているといわれている。
「世界中に大企業顧客を抱えるマイクロソフトは、顧客からクラウドサービスのAzure(アジュール)でOpenAIだけではなくてグーグルやメタ、中国のディープシークなども使いたいという要求を受けており、OpenAIだけを優遇するわけにはいかない。顧客に顔を向けたときに、さまざまな企業のAIモデルを使えるようにする必要があり、マルチモデル戦略に行かざるを得ません。
一方、OpenAIが今、もっとも親密な関係を築いているSBGは、孫正義会長の直感に基づき、数多く存在するAIモデル開発会社のなかでOpenAIに賭けて多額の資金を出資したという側面があり、マイクロソフトとは経営の視線の先が異なります。こうしたなかでOpenAIとしては、『マイクロソフトがあんまりうるさく言ってくるなら、独禁法違反だと当局に告発しますよ』という姿勢をみせているのだと思われます」(湯川氏)
(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=湯川鶴章/エクサウィザーズ・AI新聞編集長)