Aさんは、昼間は介護、深夜はコンビニ勤務という2つの仕事をしていた。コンビニはスタッフの数が少なく、店長から「誰かスタッフを紹介してほしい」と相談を受け、昨年初めに介護の仕事で知り合いだった女性のBさん(仮名)を紹介した。
その後、同年3月、Aさんは店長から「Bさんはあまりに仕事の程度が低いのでクビにしたい」と相談を受ける。Aさんは自分が紹介した手前、その時は「もう少しだけ面倒をおかけしますがお願いできませんか」と言ったが、AさんもすでにBさんの仕事ぶりがひどいのは知っていたという。
この店舗は高速道路沿いあり、フランチャイズ店ではなく本社直営店であるため、店長の交代があるのだが、同年6月に新しい店長が赴任した。気になるBさんの仕事ぶりについて、Aさんはこう語る。
「500mlのジュースや牛乳は、手前から奥へと古い日付順に並べなければなりません。古いものが売れ残らないようにするためです。ですがBさんは、5カ月勤務していても、まだそれをできないレベルでした」
Aさんもこの頃からどうしたらBさんにスムーズに退職してもらえるか考え始めたが、良いアイデアは浮かばなかった。一方で、その店長はBさんと一緒のシフトに入ろうともせず、彼女に注意せず、彼女に教育もせず、彼女に指導らしきことは一切しなかったという。そして、同年7月下旬、事件が起きた。
Aさんによれば、Bさんにはもともと、無断欠勤や虚言癖など勤務態度上さまざまな問題があったが、その日はさらにひどかったらしい。
「ヨーグルトは逆向きに並べ、商品が入っていたダンボールは通路にそのまま置きっぱなしにしてお客様が通れないようにしていました。もうすぐ朝の8時になる頃です。揚げ物の下に敷いてある大量の油が染み込んだキッチンペーパーは次の時間帯の人へ引き継ぐために交換するのが手順ですが、彼女はこれを替えていませんでした。軽く注意したところ、素手でその脂ぎった紙を握りつぶし、思いっきりゴミ箱へ投げつけるようにして捨てました。この時、店内にはお客様もいて、それを見ていました。私が『そういう態度はよくないよ』というと、わざとそっぽを向いて私の話を聞いていないように、汚れた手を洗い始めました」
Aさんは数カ月我慢してきたものがプチっと切れて、「なんだその態度は。話しているんだからこっち向け」と彼女のユニフォームの襟を軽く引っ張った。するとBさんは軽くよろけ、倒れないようにその場にしゃがみこんだという。
翌日、Aさんはその事件のことを店長に報告したところ、「今後はそのようなことがないように気をつけてくださいね」と言われ、終わったかと思っていたという。
一方的な解雇へ
ところが、4日後、店舗が入っている高速道路の会社、ネクスコ西日本に客を名乗る人物から「店内でトラブルを見て不快に思った」との連絡が入った。このときから店長と地域を統括している人物がAさんに対して「解雇はできないので自己退職するように」と圧力をかけ始めた。トラブルがあったときの映像を2人とも見て、暴行だと思ったということらしい。
その2人はAさんと話す前に、すでにBさんから話を聞いていて、「店長自身がこれからBさんを指導する意向である。Bさんはひどくおびえている」と伝えてきた。さらにBさんは「Aさんから引っ張られて腰を強く打ち付けて、全治するのに時間がかかる」と話していたという。
これですっかり加害者にされてしまったAさんだが、納得がいかないために自主退職を断ったところ、前出の地域統括担当者はAさんに「3週間の謹慎処分だ」と伝えた。さっそくAさんは労働基準監督署に連絡を入れ、事の経緯を説明すると、監督署が動いたらしく、店長から謹慎解除の連絡が入った。
その後、Aさんは店長らから「改善要望書」を書くように言われ、反省の弁を書いて提出した。また、“当面の間の契約書”という条件で、「契約勤務日および時間については9月15日を目処とする」と書かれた契約書にサインすることになった。
ところが、その1週間後、先に提出した「改善要望書の内容における反省が足りない」ことを理由に、雇用契約の打ち切りを正式に通告してきた。Aさんは「“当面の間の契約書”のはずがそうではなかった。狡猾な詐欺を仕組まれたみたいだ」と会社側のやり方に憤りを隠せない様子で語る。Aさんは店長に電話をして「不当解雇で争う構えがあるので、解雇理由証明書を発行してほしい」と伝えたところ、店長は「なるべく早くとり行う」と返事した。またAさんは労働局に設けられている「紛争調整委員会」の「あっせん制度」に申し込みをした。
しかし、2週間たっても解雇理由証明書はもらえず、8月下旬、本社の業務部人事課の担当者がAさんに会いたいと言ってきた。Aさんはその人事担当者に対しても、それまでと同様に事の経緯をていねいに説明した。担当者は「会社が判断する懲罰に応じてもらえるか」と聞いてきたので、Aさんは「解雇でないのならば従うつもりはある」と書面で応じた。すると担当者は懲罰が決定するまで2~3日かかると説明し、Aさんも一連のトラブルもこれで終わると思ったという。
しかし、9月に入って1週間たっても懲罰の内容は伝えられず、ようやく「解雇理由証明書」が届いた。そこには9月15日での契約終了が明記され、その理由として「暴力、脅迫などの行為があったため」とあった。結局、その後も「懲罰」の話は一切なく、Aさんは9月15日付でなし崩し的に雇い止めとなってしまった。
その後、9月24日、労働局であっせんが行われ、会社側は解決金15万円で解決しようとしたという。あっせんは物別れに終わり、Aさんは裁判も視野に入れて弁護士に相談中だという。
証拠隠滅の可能性も
今回の一連の経緯において、いくつかの疑問点が残る。
まず、店長はどの程度Bさんに対して教育・指導、そして注意していたのか。次に、地域担当者がAさんに自主退職を迫るという行為は、法的に問題がないのか。また、Aさんはネクスコ西日本に寄せられた苦情が正確にどのようなものなのか質問しても、会社側はまったく調査せず、Aさんに知らせていないこと。
さらに問題だと思われるのが、Aさんの「暴行現場」が映っているとされる映像をAさんはヤマザキから見せてもらえず、トラブルが起きた当日朝3時~8時までの映像について、「すべて消去されて残っていない」とヤマザキ側はAさんに説明しているが、もし事実であれば証拠隠滅の可能性もある。このほかにも、雇い止め理由証明書の発行や本社からの事情聴取など、一連のヤマザキ側の対応が一般常識的にみてもあまりに遅く、会社の労働管理システムが正常に機能しているとはいいがたい。
筆者がヤマザキ本社業務部人事課に取材を申し込んだが、「被害者がいることであり、お答えできない」との回答であった。
(文=編集部)