「モームリ」弁護士法違反疑惑で家宅捜索、社長は過去に疑惑否定…50億円市場に波紋

●この記事のポイント
・警視庁が退職代行「モームリ」運営会社アルバトロスを家宅捜索。非弁行為や弁護士紹介料授受の疑いを捜査している。
・同社の谷本社長は以前のBUSINESS JOURNALの取材で「交渉や報酬提携は一切行っていない」と説明し、合法性を主張していた。
・急拡大する退職代行市場で、法的な線引きと業界の透明性確保が今後の焦点となっている。
警視庁が家宅捜索、捜査の焦点は「非弁行為」と「弁護士紹介料」
退職代行サービス「モームリ」を運営する株式会社アルバトロス(東京都新宿区)に対し、警視庁が弁護士法違反(非弁行為)や弁護士法第27条に抵触する「非弁提携」の疑いで家宅捜索を実施したと報じられている。
複数の報道によると、同社が退職希望者を弁護士に紹介し、その見返りとして報酬を受け取っていた疑いもあるという。警視庁は、退職代行業務の実態とともに、こうした斡旋・報酬の流れが法に抵触していないかを慎重に調べている模様だ。
同社が展開する「モームリ」は、退職の意思を企業に直接伝えづらい人に代わって通知を代行するサービス。SNSを中心に広まり、2022年3月の事業開始からわずか2年あまりで退職実施件数が1万5000件を突破するなど、退職代行市場を代表する存在となっていた。
今回の捜査で焦点となっている「非弁行為」については、BUSINESS JOURNALが今年3月6日にすでに取材記事を掲載している(『弁護士「モームリは非弁行為で違法では」→社長が反論し話題…退職代行への誤解』)。
当時、SNS上で一部の弁護士が「モームリのサービス内容は弁護士法に抵触するのではないか」と指摘したのに対し、同社代表の谷本慎二氏が「当社は交渉は行っていない」と反論。そのやり取りが話題を呼んだ。
谷本氏はBUSINESS JOURNAL編集部の取材に対し、次のように説明している。
「弊社はあくまで退職の意思を企業に伝えるだけで、条件交渉は一切行っていません。もし交渉が必要になりそうな案件があれば、弁護士を紹介しています。その際も当社が紹介料を受け取ることはなく、純粋な紹介です」
つまり、今回の疑惑である非弁行為および非弁提携のいずれも否定しているのだ。
また同社は、労働組合法に適合した「労働環境改善組合」と提携し、組合員が団体交渉権を持って退職を伝える仕組みを採用していると説明している。谷本氏は「弁護士監修のもとで運営しており、非弁行為には当たらない」と繰り返し強調していた。
「非弁行為」と「非弁提携」――2つの法的リスク
弁護士法第72条では、弁護士資格のない者が他人のために法律事務を行うこと(非弁行為)を禁じている。また、同法第27条では、弁護士と非弁業者が提携して利益を分け合うこと(非弁提携)を禁止している。
今回の家宅捜索では、これら2つの観点が同時に捜査対象になっているとみられる。
特に、退職代行の過程で「弁護士への紹介が有償で行われていたかどうか」は、捜査の大きな焦点のひとつとみられる。斡旋報酬を受け取っていた場合、弁護士法違反に該当する可能性があるためだ。
一方で、業界関係者の間では「退職代行から弁護士への紹介自体は、利用者保護の観点から一定の合理性がある」という見方もあり、合法・違法の線引きが改めて問われている。
退職代行市場の急拡大とルール整備の遅れ
退職代行市場は、働き方の多様化とSNSの普及を背景に急拡大してきた。民間調査によると、2025年時点で市場規模は50億円前後に達すると見込まれており、弁護士法人、労働組合、一般事業会社など多様な形態が乱立している。
しかしその一方で、利用者と企業の間でトラブルになるケースも報告されており、法的リスクの所在が曖昧なまま成長してきた側面もある。今回のモームリへの捜査は、こうした市場全体に対し「適法運営の線引きをどこに置くか」を問い直す契機となりそうだ。
現時点では、アルバトロス社や谷本社長が法的な処分を受けたわけではなく、警視庁の捜査も「疑い」の段階にとどまっている。
今後、同社の業務内容や弁護士との関係性、報酬の授受の有無がどのように立証されるかが焦点になる見通しだ。
退職代行サービスは、働く人の心理的・時間的負担を軽減する一方で、法規制の空白地帯にも足を踏み入れている。今回の捜査が、利用者保護と業界の健全化をどのように両立させる方向に進むのか、注目が集まっている。
以下、3月6日付当サイト記事『弁護士「モームリは非弁行為で違法では」→社長が反論し話題…退職代行への誤解』を再掲する。
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利用者が急増している退職代行サービス「モームリ」について、ある弁護士が非弁行為に該当するため弁護士法違反に該当するのではないかとX(旧Twitter)上にポスト。これに対しモームリ運営会社アルバトロスの谷本慎二社長がX上で「説明しましょうか?」と反応し反論。SNSという公開の場で、弁護士から次々に出される質問に回答して“ラリー”が展開されている件が話題を呼んでいる。弁護士等でない者が法律的な問題について、本人を代理して相手方と交渉することは非弁行為に該当するが、谷本社長は「そもそも弊社は企業側と交渉はしないので、非弁行為には該当しない」と説明する。谷本社長に詳細を聞いた。
労働者本人がなんらかの理由で所属会社に直接、退職の意思を告知することを避けたい場合に、それを代行してくれる退職代行サービス。そんなサービスを社会的にポピュラーな存在にまで押し上げたといえるのがモームリだ。昨年8月の時点で、2022年3月の事業開始からわずか2年4カ月で相談件数2万8000件、退職代行実施件数1万5000件を突破。利用によって蓄積された膨大なデータの公開に積極的なのもユニークな点で、昨年8月には利用者1万5934人分について、退職代行利用の経緯・退職理由、性別・年代別利用者数、職種別利用者数、勤続年数別利用者数、退職金制度の有無、複数回退職代行を利用された企業などを公開。今年2月には、最も多く利用された企業40社を発表(1位:人材派遣会社、2位:コンビニチェーン、3位:人材派遣会社)して話題を呼んだ。
「非弁行為に該当するか否かという話ではないんです」
そんな同社のサービス内容について、ある弁護士が非弁行為に該当しているのではないかと指摘し、議論を呼んでいる。
モームリの利用イメージはこうだ。退職の意思を持つ利用者は退職代行業者と打ち合わせを行い、業者が利用者の所属会社に退職の意思を連絡。退職届の提出や会社からの貸与品の返却、オフィスに残っている私物の返却など必要な手続きは郵送で行い、退職が確定する。利用者本人が会社と直接やりとりすることなく退職に至る。サービス内容については弁護士の監修を受けており、労働組合法適合の資格証明を受けた「労働環境改善組合」と提携しており、労働組合の組合員が団体交渉権を持って企業と交渉を行うため、企業側は原則これを拒否することはできないという。料金は正社員・契約社員・派遣社員・個人事業主は2万2000円(税込)、パート・アルバイトは1万2000円。退職できなかった場合は全額返金される。
今回、前述の弁護士は、モームリが実質的に退職交渉まで行っているのではないかと懸念され、労働者と会社間の紛争が避けられない局面となった以降に話し合い・交渉を継続すると弁護士法72条違反になる可能性が高いとして、サービス内容が法律に抵触しているのではないかと指摘している。X上では弁護士から繰り返し出される質問に対して、一つひとつ谷本社長が回答するというかたちで、やりとりが続いていたが、谷本社長はBusiness Journalの取材に対し、次のように説明する。
「先方の弁護士の方が、当社のサービス内容をあまり把握されておられないのかなということはありまして、弊社のサービスでは、会社側との交渉に該当する事例の場合は対応していません。当社にご依頼が来た時点で『退職の確定』に重きを置き、当社はあくまで会社に利用者の退職の意思をお伝えするというかたちにとどまっております。それによって、正社員であれば法律に則って2週間後に退職が確定するという流れです。契約社員などの有期雇用の場合は、やむを得ない理由をお伝えして、退職が確定するというかたちになります。
たとえば会社側から『今から退職日まで2週間、ずっと出勤しないのか』と聞かれれば、『本人は“どうしても出勤できない”と言っています』『御社としても2週間出勤してもらうメリットはないかと思います』と伝えて、それで終わりです。ほとんどが即日、もしくは最終出勤日に退職が決まるという流れで、当社が行うのは、それだけです。基本的には退職をするという事実を伝えて、確定するという流れなので、非弁行為に該当するか否かという話ではないんです。
例えば賃貸住宅のオーナーが不動産管理会社に依頼して、家賃を滞納している入居者に督促の連絡をさせるケースで考えてみると、不動産管理会社が単に『家賃を支払い忘れてますよ』と入居者に伝えるだけなら、非弁行為にはならないと思いますし、『不動産管理会社は非弁行為をやっているから、なくそう』という声はあがっていません。
よく勘違いされるのですが、未払い給与や残業代の請求などの退職以外の内容のご依頼が来た場合は、弁護士や労働基準監督署にご相談してはいかがでしょうかとお伝えしています。また、最近では、退職を伝えた企業と交渉にまで発展することは、ほとんどありません。企業側も『あ、そうですか』という感じで終わることが多いです。利用者の方から相談をいただいた段階で、交渉が必要になりそうな案件であれば、弁護士を紹介するようにしています」
(文=Business Journal編集部)










