暗号資産で決済も配車サービスも…実用化に向けた次世代金融インフラ構想

●この記事のポイント
・イオレが暗号資産を実用化する次世代金融インフラ「Neo Crypto Bank」構想を発表し、2027年にスーパーアプリの提供を目指す。
・戦略は資金調達から運用・活用まで4段階で展開し、AI統合やビットコイン保有拡大、他社連携も進める計画。
・トークセッションでは専門家がステーブルコインの普及や非金融領域への拡張を議論し、暗号資産時代の到来を示唆した。
PCやスマホ向けの各種サービスを展開するイオレ(東京都中央区)は、暗号資産の実用化を見据えた次世代金融インフラ「Neo Crypto Bank」構想を打ち出し、このほど戦略発表会を開催した。
発表会ではまず、代表取締役社長の瀧野諭吾氏が登壇。事業戦略発表の背景や経営体制強化の経緯、そして急速に進化する暗号資産金融の現状について説明した。
「構想を実装へと移す準備を重ね、暗号資産を投機ではなく事業の財務戦略と位置づけ、新たな金融・経済インフラの基盤として活用していく。かつて情報技術の最先端にいた日本は成長の過程で『問題を恐れる国』となり、外資の巨大プラットフォームに依存することに慣れてしまった。しかし、いまこそ主導権を取り戻す時だ。AIとブロックチェーンで預ける・運用・決済を統合し、“信頼”そのものをテクノロジーで創り出すことを使命としている」
●目次
2027年に「スーパーアプリ」提供へ
続いて、執行役員CBOで暗号資産金融事業責任者の花島晋平氏が登壇し、「Neo Crypto Bank」構想の詳細を説明した。

花島氏はまず、「15〜16年前に登場したビットコインをはじめとする暗号資産は急速に経済圏を拡大したが、社会実装はまだ途上にある」と現状を指摘。そのうえで、同社が描く戦略は「資金調達(DAT=Digital Asset Treasury)」「貸付(DAL=Lending)」「運用(DAM=Management)」「活用(DAU=Utilization)」の4段階で構成されると説明した。
初期段階のDATでは、資金調達と暗号資産の購入を行い、続くDALで貸付サービスを展開。第三段階のDAMでトレーディングやステーキング(銀行の定期預金に似た暗号資産運用)を行い、最終段階のDAUでそれらの資産を活用した新たな金融サービスの展開を目指す。
DATフェーズでは、2025年第3四半期から段階的にビットコイン(BTC)の購入を開始し、2027年末までに保有額43億円規模を目指す計画だ。
最終段階では、金融プラットフォームを基盤にチャット、決済、ショッピング、配車サービスなど複数の機能を統合した「スーパーアプリ」を開発。これまで暗号資産と結びつかなかった多様なサービスを一つに接続するという。

また、この構想の実現に向けて、暗号資産交換業登録を有するFINX JcryptoやSLASH VISION、J-CAMなどとの連携を進めており、ZUUとも暗号資産金融レンディング領域で協業を開始した。
さらに、イオレのAI事業による機能統合(AIインテグレーション)も実装予定。花島氏は、「AIとの接続により、ECや資産運用の顧客体験を変革していく」と述べた。
例えば、ユーザーは自分に最適な商品を適切な価格・条件で購入できるようになり、最適な運用商品を安全かつ効率的に選択できるようになるという。
花島氏は目標として、2027年度末までにキャッシュレス決済の市場で「回数・金額ともに1%のシェア(約4億回/1.2兆円)」を目指すとした。
円建てステーブルコイン「JPYC」発行とリスク対応

トークセッションでは、「finoject」CEOの三根公博氏、「Animoca Brands」CEOの天羽健介氏、「SBI VCトレード」CTOの池田英樹氏が登壇し、暗号資産の今後について多角的な議論を展開した。
三根氏は、日本でステーブルコインのライセンス制度が整備されたことを「大きな前進」と評価。年内にも円建てステーブルコイン「JPYC」の発行が始まる見込みであると説明した。
JPYCはブロックチェーンを基盤とした新しいデジタルマネーで、24時間リアルタイムかつ低コストの送金・決済が可能。JPYC社は8月に金融庁から発行ライセンスを取得し、従来の「前払い式支払手段」から、顧客による買い戻し請求を可能にした。一方で、金利変動により返金額が減少するリスクを伴う「ALM(資産負債管理)」への慎重な対応が必要だと指摘した。
花島氏が「企業は暗号資産を“保有”から“運用”へと進化させる段階にある」と説明したのに対し、天羽氏は「保有はあくまで入口にすぎない」と述べ、
「最終的な目的はブロックチェーンを活用した新しいビジネスの創出であり、今後は金融領域を超えて、ゲームやコンテンツといった非金融領域への展開が進むだろう」と語った。
池田氏は、ビットコイン以外の銘柄への需要拡大を踏まえ、取引所としてのリスク管理支援の重要性を強調した。
今後の展望──企業も個人も「暗号資産時代」へ
質疑応答では、「一般消費者向けサービスなのか」という質問が寄せられたが、花島氏は「基本的には一般ユーザー向けだが、BtoB利用も視野に入れている」と説明。BtoB領域で生じる課題については「今後順次対応していく」とした。
また、イオレの強みについて問われると、瀧野社長は「海外に流出した優秀な専門人材を呼び戻したい」と述べ、「年収3000〜4000万円、必要に応じて6000万円クラスの人材を採用する用意がある」と意欲を見せた。
暗号資産を使ってコンビニで買い物をしたり、ECサイトで決済したり──そんな日常が現実になる日は近い。
企業が自前の“暗号資産銀行”を持ち、新たなビジネスモデルを創出する時代が訪れようとしている。イオレの「Neo Crypto Bank」構想は、その先駆けとなる可能性を秘めている。今後の展開に注目したい。
(文=横山渉/フリージャーナリスト)






