AWS、世界シェア3割割れの衝撃…「ネオクラウド」台頭でGPU価格破壊、王者の反撃策とは

●この記事のポイント
・AWSの世界シェアが30%を割り込み、AI特化の「ネオクラウド」が急伸。GPUの安価提供と在庫確保力でスタートアップが流入し、クラウド市場の構造が大きく変わり始めている。
・ネオクラウドは高密度ラックや液冷など特化設計で無駄を排し、AWSより大幅に低価格を実現。対してAWSは業務文脈を理解する“記憶するAI”による体験価値で巻き返しを狙う。
・クラウドの勝負軸は「場所」から「知能」へ転換。GPU中心の計算領域はネオクラウド、業務統合や自動化はAWSという棲み分けが進み、企業のクラウド戦略は新段階に入っている。
クラウド市場の覇者・AWSが、歴史的な転換点に直面している。Synergy Research Groupが公表した2025年7~9月期調査によると、AWSの世界シェアはついに30%を割り込んだ。AzureやGoogle Cloudの追い上げだけでなく、AI時代に特化した新興クラウド=ネオクラウドの急成長が背景にある。
なぜ、これほどまでに新興勢力が追い上げているのか。そしてAWSは巻き返せるのか。本稿では、構造的な変化を専門家の視点も交えて読み解く。
●目次
- AWSのシェアはなぜ落ちたのか…台頭する「ネオクラウド」
- なぜ「ネオクラウド」はAWSより圧倒的に安いのか?
- クラウド戦争の焦点は「インフラ」から「体験」へ
- AWSは巻き返せるのか…「記憶するAI」で逆襲
AWSのシェアはなぜ落ちたのか…台頭する「ネオクラウド」
AWSのシェア低下は、単なる競争激化の表面的な現象ではない。根底には、AI時代に最適化された新たなクラウド構造=ネオクラウドの台頭がある。
「AWSは万能型クラウドとして成長してきました。しかしAI時代に必要なのは“何でも揃う百貨店”ではなく、“GPUが安く大量に使える専門店”です。用途が先鋭化したことで、AWSの強みがそのまま弱みになりつつあります」(ITジャーナリスト・小平貴裕氏)
■ネオクラウドとは何か?
ネオクラウドとは、AIモデルの訓練・推論に必要なGPU計算に特化したクラウドのことだ。いわば「AIのためだけに最適化したクラウド基盤」であり、汎用クラウドとは設計思想が根本的に異なる。
主要プレイヤーには以下がある。
・CoreWeave:最新GPUを大量調達し、AI企業向けに高速供給
・Nebius:欧州中心。データ主権ニーズの取り込みで急成長
・Crusoe Energy:未利用ガスを電力化し、超低コストGPUを提供
・Lambda Labs:研究コミュニティから圧倒的支持
彼らはいずれも、AIスタートアップが最も求めるリソース=GPUの「安さ」「即時性」「大量供給」を武器に、AWSの弱点を突いている。
なぜ「ネオクラウド」はAWSより圧倒的に安いのか?
ネオクラウドが安い理由を理解すると、クラウド市場の構造変化が鮮明に見える。
■大手クラウドは「汎用性の呪縛」で高コスト化する
AWS・Azure・GCPは、数百ものサービスを抱え、あらゆる業種の要望に応えるために設計された“万能型”クラウドだ。一見すると強みのようだが、AI用途だけを見ると過剰な設備や運用負荷が“コストの塊”となる。
代表的なコスト要因は、
・レガシー資産の維持
・汎用ワークロード用に最適化された既存ラック
・膨大な冗長化・可用性コスト
これらがGPU価格にそのまま乗ってしまう。
■ネオクラウドは「特化設計」で無駄を徹底排除
対してネオクラウドは、最初からAI計算だけに特化した“専門店”だ。
具体的には、
・GPUを高密度で搭載できる特化ラック
・省エネ性の高い液冷システム
・分散学習向けに最適化した高速ネットワーク
など、「GPUを最大効率で回す」ために必要なもの以外をそぎ落としている。
「ネオクラウドは“AI計算以外はやらない”という思想で作られているため、大手クラウドよりも構造的に安くなる。百貨店と専門店の価格差が生まれるのと同じ原理です。液冷と高密度設計の組み合わせは、電力当たりのGPU性能を最大化し、価格破壊を可能にしています」(同)
■GPU不足時代、スタートアップはどこへ逃げたのか
2023年以降、NVIDIA GPUは世界的な供給不足に陥り、多くのAI企業がGPUの確保に苦しんだ。
AWSは自社AI開発や大口顧客へリソースを優先する傾向があり、スタートアップが「半年待ち」「予約すらできない」ケースも多かった。
その隙を突いたのがネオクラウドだ。彼らは独自電力源や大量調達スキームを使い、スタートアップを一気に取り込んだ。
クラウド戦争の焦点は「インフラ」から「体験」へ
AWSは価格競争では勝てない。巨大な既存インフラがあり、構造的にネオクラウドほどの低価格を実現できないためだ。
ではAWSはどう反撃するのか。その答えが、“AIエージェントの体験価値”に戦略を切り替えたことにある。
■AWSの切り札:「AIエージェント・メモリー機能」
AWSが2025年に強化したのが、AIエージェントに「記憶機能」を持たせる仕組みだ。
メモリー機能を使うと、AIが以下を長期的に学習し続ける。
・利用者の過去の操作
・プロジェクトの進行状況
・社内ドキュメントの文脈
・担当者それぞれの好み
つまり、単なるチャットボットではなく、業務プロセスに寄り添う“AIスタッフ”として機能し始める。
■インフラではなく「業務理解」で勝負するAWS
GPU価格ではネオクラウドに勝てないAWSは、代わりに“企業の業務理解”という高付加価値領域に戦場を移した。これはクラウドの本質を大きく変える。
AWSは巻き返せるのか…「記憶するAI」で逆襲
メモリー機能がAWSの逆襲の軸になる理由は、AWSがもともと企業システムと深く結びついているためだ。
企業の基幹系は依然としてAWS上で動くことが多く、ログ、データベース、アプリケーションの多くがAWSに依存している。
ここに「記憶するAI」が組み合わさると、AWSから離れにくくなる“超強力ロックイン効果”が生まれる。
「AWSは単にGPUを貸すのではなく、企業固有の業務プロセスを理解し続ける“企業専属AI”の構築に舵を切っています。これは価格ではなく体験価値の勝負です。顧客がAWSから離れづらくなる強力な戦略で、ネオクラウドとは別次元の競争軸になります」(同)
■クラウドの未来:棲み分けが進む可能性
この先、次のような市場構造がより鮮明になるだろう。
・AIモデル開発・学習 → ネオクラウド(価格・在庫の強み)
・企業システムへの深い統合・自動化 → AWS(メモリーAIの強み)
クラウドはもはや単なる“場所貸し”ではない。「知能をどれだけ提供できるか」が競争の焦点となる。
ネオクラウドがAI学習分野でシェアを奪う流れは、2026年以降も続くだろう。GPUは急速にコモディティ化し、価格競争はさらに激化する。一方のAWSが生き残る道は、インフラではなく“AIの業務理解能力”という高付加価値領域にどれだけ踏み込めるかにある。
シェア3割台への回帰は、「記憶するAI」がエンタープライズ市場にどれだけ浸透するかにかかっている。クラウド戦争の主戦場は、すでにGPU量ではなく、“AIの賢さ”の勝負へと移った。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部)











