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「悪魔合体」は炎上ではなく戦略?メルカリ×駿河屋提携の先にある越境EC構想

2025.12.24 2025.12.23 19:33 企業
「悪魔合体」は炎上ではなく戦略?メルカリ×駿河屋提携の先にある越境EC構想の画像1
メルカリ公式サイトより

●この記事のポイント
・Xで「悪魔合体」と話題になったメルカリ×駿河屋提携。その真意を取材すると、越境取引900億円規模へ拡大する中で、日本のホビー・エンタメを「信頼の流通インフラ」として世界へ届ける戦略が見えてきた。
・メルカリは駿河屋との提携を「最重要戦略」と位置づける。数千万点の在庫と鑑定力、AIと越境ECを組み合わせ、真贋不安が残る海外市場で「安心して買える日本文化」の確立を狙う。
・海外で高まる日本アニメ・ホビー需要。その一方で流通の信頼不足が課題だった。メルカリ×駿河屋は台湾・香港から展開を始め、リアル店舗も視野に入れた新たな世界展開モデルを構築する。

「悪魔合体」「駿河屋とメルカリ」──。12月17日、X(旧Twitter)上でこのワードがトレンド入りした。ホビー・エンタメ分野で圧倒的な在庫量と鑑定力を誇る駿河屋と、国内最大級のCtoCマーケットプレイスであるメルカリ。その資本・業務提携は、驚きと期待、そして一部には戸惑いをもって受け止められた。

 一見すると異質にも映るこの組み合わせだが、BUSINESS JOURNAL編集部の取材に対し、メルカリは「話題先行の提携ではない」と強調する。むしろ今回の決断は、同社が描くグローバル戦略の核心に位置づけられているという。

●目次

越境取引900億円時代、その7割を占める「ホビー・エンタメ」

 編集部の取材に対し、メルカリは今回の提携を次のように説明した。

「今回の提携は、メルカリがミッションとして掲げる『新たな価値を生みだす世界的なマーケットプレイスを創る』ための最重要戦略です」

 背景にあるのは、同社の越境取引の急拡大だ。過去3年で取引額は15倍に成長し、現在は年間約900億円規模。そのうち、約7割を占めているのが、日本発のホビー・エンタメ商品だという。

「この爆発的な需要に対し、数千万点の在庫と3,000万件超の商品カタログデータ(順次拡大予定)、そして高度な鑑定眼を持つ駿河屋さんとの連携は、今後グローバルに展開していく上で欠かせない要素だと思います」

 需要はすでに世界中に存在する。しかし、それを“正しく届ける仕組み”が足りていなかった。メルカリはそのギャップを、今回の提携で埋めにいく構えだ。

「日本の宝を、不透明な市場から守る」という発想

 SNS上では「悪魔合体」といった刺激的な言葉が飛び交ったが、メルカリの受け止めは冷静だ。

「一部のSNSでの内容については、社内でも単なる話題性にとどまらず、お客さまにとってより良い体験を実現することを重視しています」

 同社が目指すのは、規模の拡大そのものではない。

「この提携により、日本国内の確かな鑑定基準に基づいた商品を、メルカリのテクノロジーで世界へ繋ぎます。『日本の宝(コンテンツ)を、不透明な市場から守り、正しく世界に届ける』。この信頼のインフラを構築することこそが、今回の提携を通じて実現したい世界です」

 海外市場では、需要の高さとは裏腹に、真贋や価格の妥当性に対する不安が根強い。だからこそ、鑑定と流通を一体で設計し直す必要がある、という発想だ。

海外市場の壁は「人気」ではなく「信頼」

 メルカリは、日本のアニメやゲームカルチャーの広がりについて、次のように分析する。

「日本のアニメやゲームをはじめとするカルチャーは、世界中で高い支持を得ており、動画メディアやSNSの普及によって、その広がり方や熱量は近年さらに加速していると認識しています」

 一方で、流通の現場では課題も顕在化している。

「グローバル市場においては、その需要に対して『信頼できる商品が必ずしも十分に行き渡っているとは言えない』という課題があります。その結果、海外のファンが『本物かどうか判断しづらい』『価格が適正かわかりにくい』といった不安を抱えたまま、取引を行わざるを得ない状況が生まれてきました」

 今回の提携は、単なる越境販売強化ではない。

「単に商品を海外に並べることが目的ではありません。日本で長年培われてきた文化的価値や専門性を、安心・安全なかたちで世界に届けるための流通基盤を構築することにあります」

台湾・香港から始める「成功モデルづくり」

 最初の展開先として選ばれたのは、台湾・香港だ。

「まずは、台湾・香港のように日本カルチャーへの理解が深く、越境ECの受容度も高い市場から展開を進め、そこで得られる知見をもとに、今後のグローバル展開のモデルケースを築いていきたいと考えています」

 駿河屋の鑑定力と在庫、メルカリの越境EC基盤。この組み合わせによって、「世界中のファンが、まるで日本の店舗で商品を選ぶかのような信頼感をもって購入できる環境」をつくることが狙いだ。

AIが支える「数百万点」のグローバル流通

 数百万点規模の商品を扱ううえで、テクノロジーの役割は大きい。

「数百万点規模の専門的な在庫を世界中に展開するには、テクノロジーによる支援が欠かせません」

 メルカリは、AIを活用して駿河屋の商品カタログを多言語化・最適化し、出品や検索の精度を高める方針だ。

「また、鑑定についてもAIの活用で精度向上を検討しています」

“人の目”と“AI”を組み合わせることで、スケールと信頼性の両立を図る。

 実店舗を中心に展開してきた駿河屋にとっても、今回の提携は大きな意味を持つ。

「実店舗を中心に展開してきた駿河屋にとって、今回の提携は、店舗で培ってきた専門性や在庫の価値を、より広い市場に届けていくための新たな選択肢だと考えています。地域や国境といった物理的な制約を超え、これまで接点のなかったお客さま層にも価値を届けられる可能性が広がります」

 特に、日本のアニメやホビーへの関心が高い一方、流通インフラが未成熟な北米やアジア圏では、両社の強みが生きるという。

リアル店舗は「文化を体験する場所」

 米国などで検討されているリアル店舗について、メルカリは次のように語る。

「単なる販売の場というよりも、日本のエンタメ・ホビーカルチャーや、その品質基準を体験できる場所としての役割を想定しています」

 リアルな体験を通じて、「オンラインでの取引に対する理解や信頼を高め、マーケットプレイス全体の活性化につなげていきたい」という考えだ。

 今回の提携を通じてメルカリが目指す姿は明確だ。

「単なる取引の場を超え、日本の多様な文化的価値を、最も信頼できるかたちで世界へ届ける流通の基盤となることです。国境を越えて、安心・安全にモノの価値が循環する社会を実現するため、駿河屋さんとともに、日本のリユース文化を世界へ広げていきたいと考えています」

「悪魔合体」という刺激的な言葉の裏側にあったのは、日本のコンテンツ流通を次の段階へ引き上げようとする、極めて現実的で長期的な戦略だった。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)