年収400万円でも新築が買える?マンション狂騒曲の裏で起きる“戸建て回帰”の必然

・首都圏新築マンションは平均8,000万円超と実需層には過酷な水準に。対照的に新築戸建ては約4,400万円と半額近く、年収400万円台からでも現実的な選択肢として注目が集まっている。
・価格だけでなく、専有60平米のマンションと100平米超の戸建てでは居住性と固定費に大差がある。管理費・修繕積立金が不要な戸建ては、長期的な家計負担でも優位性が際立つ。
・通勤時間という弱点はあるものの、「急行停車駅の隣駅」などを狙えば資産性も確保可能。見栄より実利を重視する実需層の価値観転換が、住宅市場の地殻変動を生んでいる。
「もう、普通のサラリーマンにはマンションは買えない」――。首都圏の住宅市場を取材していると、こうした嘆きを耳にする機会が増えた。
実際、首都圏の新築マンション平均価格は2024年度に8,000万円台へと到達した。東京都心部では1億円超が珍しくなくなり、新築マンションはもはや「住むための住宅」というより、富裕層や投資家が保有する金融商品の色合いを強めている。
だが、このマンション狂騒曲の陰で、静かな、しかし確実な地殻変動が起きている。新築戸建て市場の急回復だ。
東日本レインズのデータによれば、直近9月の首都圏新築戸建て成約件数は1,600件超と過去最高水準を記録。マンション販売が鈍化する月が散見される一方で、戸建て市場では前年比で二桁成長を示すエリアも現れている。
なぜ今、賢い実需層は「あえて」マンションを選ばず、戸建てへと回帰しているのか。その背景には、感情論ではなく圧倒的な経済合理性が存在する。
●目次
マンションは「54%」も高い――残酷な価格差の現実
かつて「戸建てはマンションより高い」というイメージがあった。しかし現在、その常識は完全に逆転している。
2024年度の首都圏平均価格を比べると、差は一目瞭然だ。
・新築マンション平均価格:8,135万円
・新築戸建て平均価格:4,439万円
戸建ては、マンションの約54.6%の価格水準にとどまる。この差を住宅ローンの返済負担率(年収の35%以内)から逆算すると、さらに厳しい現実が浮かび上がる。
新築マンション購入には、世帯年収800万~1,000万円が事実上の最低ラインとなる。一方、新築戸建てであれば、年収400万円台からでも現実的な返済計画が成立する。
さらに中古市場に目を向ければ、首都圏の中古戸建て平均価格は3,939万円と4,000万円を下回る。この「手の届きやすさ」こそが、過熱したマンション市場から距離を置いた実需層を強く惹きつけている。
「今のマンション価格は、金利上昇リスクや将来の価格調整をほぼ織り込んでいません。一方、戸建ては実需ベースの価格形成が続いており、家計に対する耐性が高い選択肢になっています」(不動産ジャーナリストの秋田智樹氏)
60平米のマンションか、100平米の戸建てか
価格だけでなく、住まいとしてのスペック差も見逃せない。
近年の新築マンションは、価格上昇を抑えるために専有面積を削る傾向が強まり、平均60~70平米が主流となっている。一方、戸建住宅では、3階建てを選択肢に入れれば100平米超を確保することは難しくない。
リモートワークが定着した現在、この30平米の差は単なる広さ以上の意味を持つ。仕事部屋を確保できるか、子ども部屋を諦めるか――生活の質そのものを左右するからだ。
さらに、マンションには毎月必ず発生する固定費がある。管理費、修繕積立金、駐車場代を合計すると、月額5~8万円に達するケースも珍しくない。35年間で換算すれば、2,000万円超の「消える支出」だ。
戸建てでは、これらのコストは原則として発生しない。このキャッシュフロー差は、将来の教育費や老後資金に確実な影響を与える。
「マンションの修繕積立金は、今後さらに引き上げられる可能性があります。長期的な家計シミュレーションでは、戸建てのほうがトータルコストを抑えられるケースが増えています」(同)
唯一にして最大の弱点――「通勤」という壁
もちろん、戸建てが万能というわけではない。最大のデメリットは、立地、とりわけ通勤利便性だ。
東京23区内で戸建てを購入しようとすれば、相場は7,000万円超。マンション平均よりは安いとはいえ、一般的なサラリーマンにとっては依然として高い壁である。
平均価格帯(4,000万円台)で新築戸建てを狙うなら、埼玉・千葉・神奈川といった郊外エリアに目を向け、片道1時間前後の通勤を受け入れる必要がある。
利便性を「お金」で買うのがマンション、時間をかけて「広さ」と「余裕」を買うのが戸建て――。この住まい選びの二極化は、今後さらに鮮明になるだろう。
では、これから戸建てを選ぶ実需層は、どこに注目すべきか。狙い目とされるのが、「急行停車駅の隣駅」かつ「徒歩15分圏内」のエリアだ。
例えば神奈川県なら、小田急線の快速急行停車駅「登戸」ではなく隣の各駅停車駅。埼玉県なら、浦和・大宮といったブランド駅を外した周辺駅が該当する。
こうしたエリアは、マンション価格高騰の恩恵で資産価値が維持されやすい一方、供給量も一定数あるため、割安な優良物件を拾える可能性が高い。
ただし、注意すべき点もある。2025年4月から始まった省エネ基準適合義務化だ。
これ以前の基準で建てられた戸建ては、将来売却時に「時代遅れの住宅」と評価され、価格を大きく下げるリスクがある。断熱性能や耐震等級(等級3など)を確認することは、もはやビジネスパーソンの必須リテラシーといえる。
「資産価値なら駅近マンション」という神話は、価格が適正だった時代の話だ。現在のマンション価格は、将来の価値を先食いしている可能性すらある。
その一方で、年収400万円台からでも手が届き、家族がゆとりをもって暮らせる新築戸建ての成約が急増している事実は、日本の現役世代が「見栄」よりも「実利」を選び始めた証左ではないか。
住宅すごろくのゴールは、もはや「都心マンション」ではない。賢い郊外戸建てへ――。その価値観の転換は、すでに静かに、しかし確実に始まっている。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部)











