藤本氏は、水を得た魚のように未知の大海を泳ぎ回った。パワーローダーの実用化に向けた要素開発とパワードスーツを商品化し、農業をはじめとするさまざまな分野で使えるようにカスタマイズするビジネスプランを提案した。
藤本氏は02年2月、PSUF推進室に異動。ベンチャーキャピタル評価実施を経て、4月から設立準備期間に入った。それから1年後の03年4月に新社設立を決定し、同年6月、アクティブリンクを創業し、代表取締役社長に就任する。その後、パワーアシスト機器を実用化し、商用化支援事業をプロデュースしてきた。
さらに13年3月、アクティブリンクは三井物産と業務提携および資本提携を行うことで合意した。三井物産を引き受け先として、4400万円の第三者割当増資を実施。これにより、出資比率はパナソニック79.6%、三井物産19.6%、個人0.8%になった。その後、三井物産のルートを活用して、パワーロボットの商用化に意欲的な企業を全国から発掘している。
●「創職系立国」のカギとは
では今後、アクティブリンクはパナソニックといかに共存共栄していこうとしているのだろうか。この点について藤本氏は次のように話す。
「パナソニックはサービスで儲ける会社になるでしょう。例えば、メンテナンス料を稼いでいる国内首位の建機メーカー、コマツのようなビジネスシステムをモデルにしています。アクティブリンクは、そういった新しい儲かる仕組みを構築する上で役立てればいい、と考えています」
パナソニックの経営者は、屋台骨を支えてきた伝統事業のテレビがこれほど早く落ちぶれてしまうとは想定していなかったが、ポスト・テレビは不可欠であるという思いを強めていた。プラズマテレビに力を入れている間も、同事業に代わる新しい柱を何本か打ち立てなくてはならないと考えていたのだった。
実は一部のジャーナリストがA級戦犯扱いしている中村邦夫氏は、社長時代にPSUFを設立し、社内ベンチャーの種をまき始めていた。あまりメディアでは取り上げられていないが、社内ベンチャーが育んだこの小さな芽を津賀一宏社長がパナソニック・グループ内でいかに育て、収益源にするかが見ものである。
過去、日本企業の成長を支えてきた主力事業の多くが錆びついてきた。パナソニックもテレビやスマートフォンでは韓国のサムスン電子にお株を取られてしまった。新たに稼げる仕事をつくらなくてはならない。
これは、就職活動(就活)をしている大学生にも求められる資質だ。まさに「就職」ではなく「創職」なのだ。「草食系男子(女子)」と化した日本人は今こそ、「創職系男子(女子)」にならなくてはならない。さりとても、突然、草食系の人に「肉食系起業家になれ」というのは非現実的である。比較的敷居の低い起業を可能にするためにも、社内企業家の輩出は時代の要請といえよう。
日本の大企業には、優れた「四番バッター」が山のようにいる。ところが、彼らを打席に立たせず、ベンチに座らせている会社が少なくない。また、エリートたちも減点主義の管理のもと、ミスを恐れ、守りの姿勢になっているのではないだろうか。リーダーが守りに入れば、フォロワーも同様のスタンスを取る。これこそが、経営資源の宝庫である大企業からイノベーションが生まれない理由である。
四番バッターにヒット(社内ベンチャー)を打たせ、数年後、ホームラン(急成長、上場)を飛ばすようになれば、多くの雇用創出に貢献できる。つまり、錆びついてきた既存産業に代わる新産業を「創職」することになる。日本が「創職系立国」になるためには、社内起業家の増加がカギとなるだろう。
(文=長田貴仁)