例えば、1月9日付日本経済新聞は「年280兆円規模の国内個人消費で、60歳以上の高齢者を世帯主とする家計の存在感が一段と高まっている」と述べ、シニア市場の変化を次のように解説している。
(1)政府の家計調査によると、13年11月の2人以上の世帯では65-69歳の消費額が前年同月比8.3%増え、全世帯の伸び率(2.1%)を上回った。
(2)11月の65-69歳以上の世帯の消費額は28万7807円。全世帯の平均額27万9546円を約1万円上回った。
(3)シニア消費は高齢者人口の伸びを上回っている。総人口に占める65歳以上の高齢者の割合は00年の17.4%から13年には25.2%に上昇。一方、国内消費全体に占める65歳以上の世帯の比率は18.4%から34.2%(11月時点)まで上がった。
(4)60歳以上の世帯で見ると消費額は全体の46.6%を占め、従来の主力だった40-59歳の世帯の消費(40.8%)と比率が逆転した。
また、こうした変化を背景に「今後の有望市場は、一歩踏み込んだ生活支援サービスだ。『最も力を入れていくのは宅配サービスだ。潜在ニーズはすごく大きい』。セブン-イレブン・ジャパンの井阪隆一社長はこう語る」とも報じている。
一方、市場調査会社の矢野経済研究所は、昨年7月発表した『食品宅配市場に関する調査結果 2013』で、「06年に463億円だった高齢者向け弁当宅配市場規模は、15年には775億円に拡大」と予測している。
前出の外食業界関係者は「日経新聞と矢野経済のレポートを突き合わせると、『調理離れシニアの増加』がうかがえる」と、次のように話している。
「現在70歳以上の高齢者の大半は自炊派であり、足が不自由、自宅近くにスーパーがないなどのいわゆる『買い物難民』が必要に迫られ、高齢者向け弁当宅配サービスを利用していた。加えて、現在60代半ばに達した『団塊の世代』以降はマクドナルドやファミレスなどの外食に抵抗感のない人が多く、さらに『弁当宅配なら、いちいち家から出かけなければならない外食より便利』と考える人が多い。こうした高齢者層が、ワタミの弁当宅配を成長させた一因ではないか」
実際、ワタミがタクショクの買収により弁当宅配事業に参入した08年の1日当たり配食数は、わずか4.6万食だった。事業規模の小さいタクショクの経営資産を継承した直後だった事情もある。それが翌年には33%増、その翌年は93%増と急伸、12年3月期までの3年間で08年比4.7倍の急成長ぶりを示している。
しかし、間もなく成長は失速し、13年3月期の実績は前期比微増の28.1万食にとどまり、14年3月期中間実績は実質前年度横ばい、通期予測でも前期比25%増の35万食の見込みしか立っていないのは前述の通りだ。
●相次ぐ新規参入で競争激化
では、なぜここへきて急成長が頓挫したのだろうか。各関係者の話を集約すると、要因は2つに大別できる。
ひとつ目はワタミが開拓したともいえる弁当宅配市場の競争激化だ。12年頃から「ワタミに追いつき、追い越せ」と言わんばかりに新規参入が活発化している。例えば、セブン-イレブンは「セブンミール」を、宅配寿司「銀のさら」を展開するライドオン・エクスプレスは「銀のお弁当」を、弁当販売店チェーン「オリジン弁当」を展開するオリジン東秀は「彩食健味」を、持ち帰り弁当「ほっともっと」を展開するプレナスと「ほっかほっか亭」を展開するハークスレイはそれぞれ宅配専用メニュー導入といった具合だ。ワタミの急成長にブレーキがかかったのが12年だった事実を思うと、こうした後発組が「ワタミの破竹の進撃」を阻止したといえる。
では、なぜワタミは「先発の競争優位」を発揮できなかったのか。ワタミに詳しい専門家は「固定客をつかんでいないから」と、次のように説明する。